深刻な「いじめ」の実態
   文部科学省が201610月に“学校のいじめ問題”に関する深刻な調査結果を発表しました。『2015年の全国の小中高校と特別支援学級で認知されたいじめの件数』が、調査開始以来最多になったというのです。そこで今回は、いじめを無くすために親として心得ていたいことについて考えてみたいと思います。

子どもは、いじめられていることを親に言えないもの
 いじめ問題に詳しい白梅学園大学の増田修治氏は次のように指摘します。
「被害者の子が、いじめの苦しみをなかなか誰にも言えず、周りが気づいた時には命を絶ってしまった…そういったケースも少なくありません。『なぜもっと早くに先生や親に言えなかったのか…』と思ってしまう人も多いかもしれません。しかし子供は『自分がいじめられている』ということは、なかなか親に言えないものなのです。思春期以降になるとプライドもあります。つまり、『いじめられている』と言うことは“自分が弱い人間”だと認めたことになるような気持ちになってしまう。だから言えないのです。」
   しかしそれでは、永遠に子どもはいじめられていることを親に対して「ヘルプ助けて!)」を言えないままなのでしょうか。

子どもが「ヘルプ」を言える環境の必要性
   更に増田氏は、次のような旨を指摘しています。
「今の親御さんは、お子さんに対して、強くあること、なんでも自分の力でできること、自立することを求め、幼い頃から『しっかりしなさい!』『もっとがんばりなさい!』『それくらいであきらめないの!』と言い続けています。そうなると、子ども達はいざというときに『ヘルプ』が言えなくなってしまう。実はそうではなくて、子どもは甘えつつ自立していくものなのです。むしろそうやって育った子は、いつか必ず自分から進んで自立していけるのです。だから、『自分はここまでは大丈夫。でも、ここからは助けて…』と、子どもが言えることこそが、生きていくなかで自分を守るために大事なことなのです」
「逆に加害者にも、いじめる原因や動機というものがあります。それは“ストレス”です。ストレスは人をイライラ、ムカムカさせ、やがてそれを発散するために弱い他者を支配し、攻撃しようとします。それが『いじめ』行為です。いじめの加害者の子も、何らかのストレスに追い込まれ、それを爆発させる前に親に『ヘルプ』が言える環境がないのです。だからこそ、いじめの加害者にも、被害者にもさせないためには、親御さん達が子どもをありのままに受け止めてやる共感してやる、等の『ヘルプ』を求められる環境を作ってやることが、いじめの抑止力になるのです。」
「親御さんとしては、我が子にはいじめる側はもちろん、いじめられる側にもなってほしくないと願いますね。それならば、常に『私たちはアナタのことをしっかり見守っているから大丈夫』というメッセージをお子さんに送り続けることです。そして、何かあった時には、ありのままのわが子を受け入れること。『いざというときは、いつでも助けを求めなさい』と、言ってあげてほしいと思います」
 
   さて、増田氏の指摘のとおり、私達は無意識のうちに子どもに対して「心の強い人間であれ」と求めているのかもしれません。しかし、そのような環境にいると、子供は親に「ヘルプ」が言えなくなり、いじめに遭っていることを正直に言えなかったり、ストレスを解消できずに、それを学校で友達に向けて発散し、いじめをしたりすることになると増田氏は指摘します。とは言え、我が子が社会に出た時のことを考えれば、「自立した、ねばり強い人間に育てたい」というのも親心です。では、自立しながらも、困った時には親に「ヘルプ」が言えるバランスのとれた子どもに育てるにはどうすればいいのでしょうか?

自立しながらも「ヘルプ」が言える子どもにするサポート
   そのための方法として「自立4支援」(①(子どもに)任せて②見守り③諭して④褒める」が有効だと考えます。
   この支援法では、「(子供に)任せる」「見守る」ことを掲げていますが、これは子どもの“自立性”を育てるための支援です。しかし、子どもに任せていれば全て上手くいくかと言うと、決してそんなことはありません。子どもは失敗したり、壁にぶつかって苦しんだりすることもあります。そんな時には、子どもは人生経験の豊かな親に相談します。
   ポイントは、その時に親がどんな対応の仕方をするかです。「そんなことも分からないのか?」と否定的な応答をするか、「うん、どんなことで困っているの?」と肯定的に受け止めるか、どちらの対応を行うかということです。前者のような冷たい応答をする親には、子どもはそれ以降その親に相談しようとは思わなくなるでしょう。しかし、後者のように親身な姿勢で受け止める親には、それ以後も相談しようと思うはずです。この場合の後者の「肯定的な受け止め」「親身な姿勢」を意味しているのが「自立4支援」の「諭す」という支援です。否定的な「注意」ではありません。子どもの相談に対して穏やかな口調で優しく応えること、それが「諭す」です。そして、そのアドバイスの結果、物事がうまく運んだ様子を見て、親が「褒める」。そうすれば、子どもの中に「親に相談してよかった」という記憶が残るでしょう。
    つまり「自立4支援」は、初めは任せられた子どもが、自分で出来るところまでは自力で頑張り、自力ではどうにもできなくなった時に親に相談するという活動を保証した支援なのです。先の増田氏も「自分はここまでは大丈夫。でも、ここからは助けて…。」と子どもが言える環境が必要と指摘しています。この環境を作るうえで重要な事が、子どもが「ここからは助けて」とヘルプを求めたときに、それに対して優しく穏やかに諭すアドバイスをすることなのです。

   また、増田氏は、我が子が誤った道に進まないように「常に“私たちはアナタのことをしっかり見守っているから大丈夫”というメッセージをお子さんに送り続けること」が必要とも述べていますが、「自立4支援」には、その「見守る」も含まれています。「放任する」ではありません。

子どもが「ヘルプ」をかけやすくする「愛着」
   
しかし、子供に対して「いざというときは、いつでも助けを求めてほしい」と願っていても、実際場面で子供が親に話しかけるためには、親御さんが普段から子供が話しかけやすい雰囲気を持っていることが必要です。不機嫌そうな顔している親にはどうしても話しかけづらいからです。そのために有効なのは、「
愛着7」の「微笑み」です。子どもは、親の「微笑み」による柔らかな雰囲気に出会うと、親との心の繋がり、つまり「愛着(愛の絆)」を感じます。その“愛の絆”で繋がっている時は、親を自分に近い存在だと感じ、話しかけやすくなるのです。

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   しかし、最も理想的なのは、普段から子供と「愛着7」の愛情行為で接し、親子間の「愛着(愛の絆)」を築き、“信頼で結ばれた親子関係を作っておくことだと思います。そうすれば、子供の悩みやストレスは、日常的に母親という「安全基地」で緩和されるのですから。