【今回の記事】

【記事の概要】
「人間」を変えるのではなく「環境」を変えよう
   子どもに限らず“忘れ物をよくする人”に対して「忘れ物をしないようにしましょう」と交通安全の標語みたいに掲げたり、口を酸っぱくして注意したりしても、簡単に直るものではありません。注意して改善できたら誰も苦労はしませんよね。子どもに何度も叱るのではなく、次のように(環境改善)しましょう。
・持ち物リストを文字や写真で一覧表にして玄関に貼っておく。
・100円ショップに売っている小さなホワイトボードに持ち物リストを書いて、準備したものの上段にマグネットを貼っていく。
   
   忘れ物をして何度も叱られて「ああ、僕はダメな子なんだ」と自己否定するようになってしまったら本末転倒です。
   もし、上記のような工夫をして改善しなかった場合は、何度も叱られなくて済むように“置き傘”のように“置き体操服”“置き教科書”と学校用、家庭用と複数用意しておくのはどうでしょうか。教科書も学校から無償支給されるのとは別に教科書専門店で個人で購入できますよ。
   それから、選んで揃えることで入れ忘れがあるような場合、毎日、全教科の教科書を持っていき、全部持って帰るのも良い方法かもしれません。
発達障害かもしれない
   あまりにも注意散漫であったり、すぐに忘れる場合はひょっとして発達障害の1つである“注意欠如多動性障害ADHD)”の可能性もあります。この場合は次のような状態が見られます。
・すぐに気が散る。
・落ち着かず、ひと時もじっとしていられない。
・席を離れなくても身体を常に揺する。
・手足をモジモジする。
・隣の子にすぐにちょっかいを出す。
・周りの物にすぐに触れたがる。
・大声を出すなど騒々しい。
・順番が待てない。

   これらの状態だけみると、多少の差はあれど、どんな子供にもある特徴のように見えますが、見分けるため次のように定義されています。
・5歳児であるのに2歳児のように走り回るなど、実年齢と比較して極端に激しく強い。
・その症状が6ヶ月以上続いている。
・学校や家庭など特定の場面に限定されたものではなく、どこでもその状態である。
・それが通常範囲を超えており、生活上で大きな支障を来たしている

   不安であれば小児専門の精神科を受診してみましょう。生まれつきの脳の機能障害であるのに叱られ続けて育つとのちのち、不登校、引きこもり、鬱などさまざまな問題が新たに発生してしまうことがあります。(これを二次障害といいます)
   小学校でもアンテナの低い先生が、集中力の欠ける生徒に「よそ見をするな!」と叱りながら気が散る窓際に座らせていたり、黒板に指導とは無関係な掲示物を貼ったまま、「今、ここを教えているんだから他の箇所を見てはいけません」と指導していることがあります。
   子どもを叱るよりも、環境を整備してやるほうが子どもの行動を改善する近道のこともあるんですよ。
   また、“忘れ物をしても気にしない”というのはある意味で“細かいことを気にしない、神経質ではない”という良い面ですので、あまり目くじら立てないようにしましょう。

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【感想】
   忘れ物を繰り返す我が子。つい厳しく注意してしまいがちになります。しかし、叱る前に親がすることがあります。それが、筆者の立石氏が指摘する“忘れ物をしないための環境の工夫”です。

   さて、先天性の感覚過敏の特性のためにいつも不安感に苛まれている自閉症スペクトラム障害の子どもが安心して行動できるように環境整備してあげるための工夫に環境の構造化」と言うものがあります。“感じやすさ”は大なり小なり誰でも持っている(スペクトラム(=連続性的)に分布している)ので、不安感も誰でもそれぞれの度合いで感じています。つまり、自閉症の子どもにさえ安心感を与えるこの工夫は、一般の子どもにも安心感を与えます。
「構造化」の方法には主に以下の4つがあります。
どこでやれば良いかはっきりさせる(場所)
いつやれば良いかはっきりさせる(時間)
何をやれば良いかはっきりさせる(内容)
(主に視覚化によって)どのようにやれば良いかはっきりさせる(方法)

 例えば、持ち物リストの一覧表を作って用意する物をハッキリさせることは③、準備したものからマグネットを貼りどれが用意が済んだのかを視覚的に分かりやすくするのは④、持っていく物を用意するたびにマグネットが一つずつ増えていくことは④にあたるものと考えられます。

   一方で、わざわざ学校用と家庭用と作ったり、全教科の教科書を持ち歩かせたりすることは、子供を甘やかすことになるのではないか?と思われる方もいらっしゃると思いますが、立石氏は、持ち物リストやマグネット等の工夫をしても問題が改善しない場合は発達障害の疑いがあり、先天性の障害であるにも関わらず叱られ続けていると、自己否定により自己肯定感が下がり、不登校、引きこもり、鬱などの二次障害が生じてしまう事を最も危惧しているのです。それならば、思い切った配慮も止むなしというわけです。いわゆる国連総会において採択された障害者権利条約で謳われている合理的配慮(障害のある人が日常生活を送る上で妨げとなる社会的障壁を取り除くために、状況に応じて行われる配慮)」と言われるものです。ひとたび二次障害に陥ると、そこから脱出する事は大変難しくなるので、そうならない為の配慮は絶対に必要です。

   また、私は特別支援学級担任の経験上、“褒める”ことで障害特性さえ緩和すると考えています。忘れ物をしなかった日には、家族みんなが見るカレンダーの日付けの部分に赤色で花丸をつけて褒めることで、子供の意欲化が図られます。これも、子供の頑張りが一目で分かる、先の「環境の構造化」の「④視覚化」の応用です。子供はそのカレンダーを見る度に自己肯定感を高めることになりますし、お家の方もカレンダーを見ることで、「今日は忘れ物しなかったね!」「この頃忘れ物が少なくなってきたね!」等と褒める事ができます。

   今回の事例は忘れ物でしたが、他の問題事例の場合でも、子供を叱る前に、まずは、先の「環境の構造化」の4つの工夫によって環境改善を行いましょう。