【今回の記事】

【記事の概要】
   これまで1万人以上を面談した産業医の武神健之です。前回はメンタル不調者を続出させる上司の勘違いとして、組織のルールではなく、価値観の相違を理由として怒ることは、結局は部下のストレス原因になっているという話をしました。

 では、実際にどのように怒ったり、叱ったりすればいいのでしょうか。産業医として10年間の経験から、私は怒るときに相手を“承認”すると、それは叱ることになると私は考えます。

「いま・ここ・私」を意識する(上記記事参照)

部下を叱るときに守ってほしい「し・か・り・ぐ・せ」
   さらに、相手を承認したうえで怒るためには、次の「しかりぐせ」を守っていただきたいと思います。これは、部下を叱るときに守ってほしい項目をまとめ、最初の1文字を「し・か・り・ぐ・せ(叱り癖)」として並べたものです。

「し」→身体的接触は絶対禁止
多くの会社でパワハラかどうかの認定をするときに最初の基準となるのが、身体的接触があったかどうかです。直接叩いたりするのはもちろん、ペンなどで叩くものを投げるというのも絶対にやってはいけないことです。たとえば、ふだんなら肩をポンポンと軽くたたくのが問題にもならないところ、関係がまずくなると「小突かれた」とか、女性なら「触られた」と問題となってしまう可能性があるからです。
「か」→過去は責めずに、隔離し2人で 
   過去は責めても変えられません過去に何かあったのなら「今後はどうするの?」という未来の話にしましょう。過去を変えることはできなくても、そこに与える意味づけを変えることはできます。過去を学びや教訓とすることに目を向けましょう。
   それから部下を叱るときに人前ではなく2人っきりが基本です。相手のメンツやプライドもちゃんと考えて叱りましょう。
「り」→理論的に
   感情的になってはいけません。それには、次の「ぐ」を守れば可能です。
「ぐ」→具体的に
   何に対して叱るのか、ほめるとき以上に叱るときは具体性が大事です。そうでないと、何で叱られているのかわからないということになりかねません。また、ほめるとき同様、できるだけ早くということも大切です。
「せ」→性格を責めない
   事実に対して叱るべきであって、性格を責めるのはNGです。

30代半ば女性管理職の失敗ケース 
   私の知っている一例ですが、30代半ばの女性管理職が、20代後半の女性職員に対して雷を落としたことがありました。
   若い職員は遅刻が多く、また短いスカートに胸元の開いたトップスといった格好が多かったのですが、管理職の女性はあるとき、職場でみんなの前で「いつも遅刻してきて、どういうつもり! やる気あるの?ないの?服装からしてだらしないのよ、その格好と性格から直しなさい!」と怒鳴ったのです。
   このとき、身体的接触はなかったので「し」はOKですが、遅刻してきたその場ではなく過去の積み重ねを問題とし、隔離もせずにみんなの前で雷を落としているので「か」はできていません感情的に叱りとばしているので「り」もダメです。
」は、遅刻のことは具体的ですが、服装の問題となり得る原因については何も言わず、ざっくりそれらを「だらしがない」と決めつけているので、これもNGです。
   そして「」、性格を直しなさいなどと言っても効き目があるはずがありません
   このように見てみると、「し・か・り・ぐ・せ」のできていないよくない叱り方だというのがおわかりいただけると思います。感情に任せて怒っているのだと言えます。

【感想】
   この記事はあくまで職場に勤める大人向けの記事として書かれています。しかし今回私がこの記事を取り上げたのは、家庭での子供に対する叱り方とよく似ているのではないかと感じたからです。
   例えば、記事中の若い職員を注意した女性管理職のセリフを少し変えると、次のようになります。
親「いつも寝坊してきて、どういうつもり! やる気あるの?ないの?性格からしてだらしないのよ、その性格から直しなさい!

   ここでは、この親の注意の仕方を上記の「」に照らしあわせて、望ましい注意の仕方を考えてみたいと思います。
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「し」→身体的接触は絶対禁止
   子供の頭やお尻を叩く等の体罰は厳禁です。
「か」→過去は責めずに、隔離し2人で 
   これまで寝坊を繰り返してきた過去を責められても、子供にはどうすることもできず、自己肯定感ばかりが下がります。「今後どうしたら寝坊しなくて済むか?」という未来の話にしましょう。
「り」→理論的に
   理論的であると言う事は、「なぜ?」という根拠が示されていると言うことです。朝早く起きれなかったと言う行為だけを叱っても問題の解決にはつながりません。「なぜ寝坊すると良くないのか?」という事を子供に理解させる必要があります。寝坊することで自分にどんな不利益が生じるかが分かるか分からないかは、子供のその後の行動を大きく左右します。
   またこの「り」には「理性的に」と言う意味合いも強く含まれているようです。感情的にならずに冷静な態度で子供に話したいものです。
「ぐ」→具体的に
   記事にある通り、叱る対象を具体的にすることも必要ですが、親の抽象的な考えだけを子供に示しても子供はなかなか理解できません。特に、子供に不足しているのが「危険予測能力」です。つまり、自分の行動の結果、どんな不利益が待っているかを予測できないのです。そこで必要になるのが「例えば」と言う説明です。
「せ」→性格を責めない
罪を憎んで人を憎まず」という諺があります。「こんな行動するなんて、あなたはそういう人だったんだね。」と言われると、自分の人格全てを否定されたという印象を受けます。自分の性格を責められるという事は自分の人格を否定されるということと同じです。

   さて、これらのことを踏まえて上記の注意を望ましい注意に書いてみましょう。
   まず初めに叱る場所についてですが、特に子供に弟や妹がいる場合は、できるだけ別室で2人だけで話をしましょう。子供ながらにも、「自分は年上」と言うプライドがあるはずです。
   次に叱るときの親の意識づくりです。親自身が「体罰はもちろん厳禁であり、且つ感情的にならずに努めて冷静に話そう」と自分に言い聞かせた上で始める必要があります。
   その上で、次のように話してはどうでしょうか?
寝坊する事はなぜ良くないと思う?」(子供が話せる場合は子供に話させます)
そうだね学校に遅刻するし、場合によっては朝食を食べずに出かけてしまうことにもなるね。」(「そうだね」と子供の発言を認めることで、親の注意を聞こうとする意欲が高まります)
そのことであなたは例えばどんなことで困ると思う?(子供が話せる場合は子供に話させます)学校に遅刻すると、もちろん先生からは注意されるし、友達からも馬鹿にされるかもしれない。そんなことが続くと、『また先生からみんなの前で注意されてみんなからバカにされる』と思って、だんだん学校に行きたくなくなるかもしれない。
同様に、
朝食を食べないで学校に出かけると、前の日の夕食から給食の時まで18時間も何も食べないエネルギー不足状態で午前中の授業を受けることになるね。そんな状態では、授業の話を聞く気持ちも生まれないし、体育の授業中に倒れたりすることもあるかもしれない。そんなことが続けば、成績は下がるし、体を壊して学校を休まなければいけなくなるかもしれないよ。」(より具体的に話すことによって子供は初めて事態の深刻さを理解すると思います。)

   子供が事態の深刻さ具体的に分かったら次に具体的な解決策に入ります。(子供が事態の深刻さを分かっていると、その後の話し合いに真剣さが増します。)
どうすれば寝坊しないで済むと思う?(子供が話せる場合は子供に話させます)
そうだね、前の晩遅くまで起きていないこと。必ず目覚ましをセットしてから寝ること。
でも、もしも目覚ましが鳴った時にすぐに止めてまた寝てしまった時はどうする?」(子供が気づいてない点があれば親から注意を促します)
そうだね、目覚ましを自分から離れたところにセットしておくといいかもしれないね。
お母さんは明日から起こしに来ないからね。頑張って自分の力で起きて来なさい」(子供は既に、寝坊するとどんな大変なことになるかが分かっているので、親のこの言葉で「がんばらなきゃ」という自覚緊張感がグッと高まります。)
本気でやればあなたはできる子だから、がんばってね」(性格を責めるのとは反対に、子供の可能性を信じてあげる自己肯定感意欲が高まります。)
   もしも翌日また寝坊してきても、どんな不利益が生まれるか既に子供は具体的に分かっているので、親からの注意は殆ど要らなくなります。親が何も言わなくても青ざめて起きてくるでしょう。逆に言えば、実際に子供が不利益を感じなければ、子供は自分の行動を直そうと思う事はないのです。