「子どもの心のコーチング」の著者、菅原裕子さんは「子どもの話を聴くことはサポートの基本」とし、聴くことは、子どもの存在肯定する行為と考えています。更に、「(子どもが)外から帰ってきて、あのね、ぼく~』と話し始めると、親が熱心に耳を傾けてくれるこれほど子どもにとって自分を肯定される体験はありません」と述べています。(菅原2007
   しかし、生活の中では、どうしても今、話を聴いてあげれないという時もあるでしょう。そういうときにも、「今忙しいから後にして!」ではなく、「ごめんね、今忙しいからこの仕事が終わったら必ずきくね。」と子どもに関心を向けた返答をしましょう。そうして、その仕事が終わったらお母さんの方から「さっきはごめんね。何の話だったの」と必ず聞くようにしましょう。「今忙しいから後で」と言ったのに、結局聞いてもらえなかったということになると、子どもはだんだん親を信頼しなくなり自分から話をしなくなります。小学生のうちは何とか大過なく過ごすことができても、思春期を迎えた時に、子どもが親に話をしたくないという状況が生まれると、先ほど述べたとおり、いざ子どもにとっての重篤な問題が起きた時に困ります。後での約束は必ず守りましょう
   最後に、「共感」についてお話しします。2015年に行われた卓球世界選手権団体戦。女子の準決勝は北朝鮮戦でした。第一試合に登場した伊藤美誠選手が負け、その後登場した石川佳純選手、福原愛選手が勝ち、あと1勝すれば決勝戦進出が決まるという第四試合に登場したのは、第一試合で敗れた伊藤選手でした。セットカウント一―ニでリードされあと一セット取られれば負けが決まるという窮地に追い込まれながら、そこから気持ちを入れ替えての逆転勝利。その瞬間、日本の決勝戦進出が決まりました。最後のポイントが決まった瞬間、ガッツポーズと共に泣き崩れる伊藤選手を真っ先にキャプテンの福原選手が出迎え抱きしめ、こう言いました。「がんばったね怖かったね。」と。「がんばったね」はよく聞く言葉ですが「怖かったね」は三人の中で一番経験が浅い伊藤選手の心に寄り添った見事な「共感」だったと思います。先に「マインド・マインディドネス(心に関心を向ける)」という考え方を紹介しましたが、まさに福原選手の言動は、伊藤選手の心に関心を向けた「マインド・マインディドネス」だったと思います。「あと一セット取られたら負け。しかも自分はあと二セット連続して取らなければならない」まさに崖っぷちで戦っていた伊藤選手はまさに恐怖と戦っていたと思います。福原選手が「今あの子がどんな気持ちで戦っているか」に気を配っていなければ、「怖かったね」というセリフは出なかったと思います。
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   今は多くの子供がスポーツの習い事をする時代になりました。それを応援する親御さんの関心が単なる勝ち負けに偏らず、我が子がどんな気持ちで戦っているかに関心を寄せる「マインド・マインディドネス」の精神で見守ってあげて欲しいと思います。そして、結果として負けてしまったとしても必ず「共感」の言葉をかけてあげてください。それこそが「無条件の愛」です。「勝ったから褒める」という「条件付きの愛」では、子どもと親との心の絆は弱くなるばかりです。