次に、「微笑む」についてです。
   この大切さについては、平山氏が「微笑む」、岡田氏が「笑顔を交わす行為」、ヘネシー氏が「たがいにほほ笑みあい、笑顔に必ず応える」、八尾氏が「互いに微笑み合う。理由が無くても良い。ただ子どもといるのが楽しいという気持ちを伝える。子どもの笑顔には必ず応える」と述べています。また、岡田氏が「安全感を保証すること」として「一緒に居ても傷つけられないという安心感を与えること」とも述べていますが、私は、子どもが母親から安心感を感じ取るうえで、最も大切なのは、母親の微笑みであると考えています。
   繰り返しになりますが、母子関係において一番子どもの心を和ませるものは母親の笑顔です。母親が笑うだけで、「子どもが愛しい」、「子どもがかわいい」、「子どもと一緒にいるのが楽しい」という気持ちが、子どもに伝わります。母親が口の両端とほおの筋肉を引き上げて笑うと、「いい気持ち楽しい気持ち」を感じさせてくれるセロトニンホルモンが子供の脳内に増えると言われているそうです。つまり、母親の笑顔によって心地よさを得た赤ちゃんも同じように微笑むのです。お母さんが微笑むと赤ちゃんも微笑む、この「微笑み合う」ことが大切です。お母さんの笑顔を見て自分も笑顔になる、そういう経験を繰り返して育った子どもは、大きくなった時に笑顔の素敵な人間になります。「人を愛する気持ちは、人から愛されて育つ」と言われるのはこのことを指しているのでしょう。
{F30CF281-0E25-4315-A7FF-9849B32C113B}

そうして、子どもが笑ったときは、「○○ちゃん、いい笑顔ね。」「お母さん、あなたの笑顔が大好きよ」等の言葉にして、お母さんがうれしくなったり楽しくなったりした気持ちを伝えましょう。その褒め言葉で子どもはますます素敵な笑顔になります。「子どもの心のコーチング」の著者菅原裕子さんは、どうしても子どもに対する小言が出てしまう」という方は、とにかくまず何もしゃべらずだまること。そしてにっこり微笑んで子どもを観察する(見る)ことを勧めています。(菅原2007
   武蔵丘短期大学を退官され、現在田中教育研究所にお勤めの川井英子さんも、「子どもは親の背を見て育つ」ならぬ「子どもは親の顔を見て育つ」と提唱し、母親の笑顔が次の五つの力を引き出すとし、その力として、「子どもの笑顔が増える」「子どもに自信がつく」「何にでも積極的になれる」「友達と仲良くできる」「家族の交流が親密になる」を挙げています。(川井2015
   その一方で、問題を起こす子どもを見ると、大人はどうしても問題児を「見張る」表情になりがちですが、「無条件の愛」(「○○ができたらお母さんうれしいのになあ」という条件付きの評価ではなく、「今困って問題を起こしているあなたのことも全部お母さんは好きなのよ。だからこそ、あなたが困っていることを取り除いてあげたいの」という気持ち)を伝えるために必要な「微笑み」がその子どもの心を開きます。なぜなら、問題を抱えている子供は過度の不安感を感じており、その不安感を払拭するためには、脳内に安心・安定をもたらすセロトニンホルモンを増やすセロトニン6」による支援が必要になります。そして、その中で「微笑む」は日常的にできる最も効果的な安心行為だからです。
   以前私が担任した感覚過敏の特性を持つ自閉症スペクトラム障害(ASD)の子供は、当初、度々問題行動を起こす我が子を見る母親の不満そうな表情に対して、強い拒否反応を起こしていました。そこで、私から「セロトニン5」(当時はまだ「セロトニン6」の考案には至っていませんでした)を母親に紹介し、母親がその中の「微笑む」を実践したところ、その子供の母親に対する態度は180度変わり、母子関係は良好なものに変わりました。改めて感覚過敏の子供に対する「微笑む」ことの大切さを実感した事例でした。
   また、愛着不全を修復したい場合には、子どもと話すときはもちろんですが、単にその子が何かをしている時でも、努めて「かわいいなあ」と思って微笑むことができるとベストです。そのお母さんの気持ちが必ず伝わり、次第にお母さんへの信頼感が高まっていくことでしょう。