(この「愛着の話」は精神科医の岡田尊司氏を中心に、各専門家の文献を、内容や趣旨はそのままに、私が読みやすい文章に書き換えたものです)


   今回の投稿は、これまで幾度となく紹介してきた愛着形成のための愛情行為である「安心7支援」の定義化にたどり着くまで、どんな先行研究を基にどんな分析を経てきたかを紹介する内容になっています。内容的には堅苦しく、長いものになってしまいますが、皆さんに子供の人格形成に影響与える「安心7支援」を勧めるからには、根拠ある筋道だった考えを示す必要があり、“「安心7支援」の保証書”とも言えるこの過程を省略する訳にはいきませんでした。ご理解頂ければ幸いです。

{114AACFF-FF2A-4109-9061-1F1846F4C695}

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   赤ん坊を保育園に預けており、子どもと触れ合えるのは帰宅後のわずかな時間。保育園の先生からは「愛情をたっぷり注いでください」と言われるけれど、「愛情を注ぐ」っていったいどうすればいいのでしょう。この点を具体的にしておかなければ、冒頭で紹介したように、子どもが望むお金を与えることが愛情であると勘違いをしてしまう親御さんがいらっしゃるのもある意味仕方がないことです。
   そこで私は、何人かの愛着の専門家の本を調べてみました。

岡田の愛着形成法
 岡田氏は、母親がよい安全基地となるポイントとして、次の五つを挙げています。
一つ目は、安全感を保証すること。(一緒に居ても傷つけられないという安心感)
二つ目は、感受性、または共感性。(愛着の問題を抱える人が、何を感じ、何を求めているのかを察し、それに共感すること)
三つ目は、応答性。(相手が求めているときに、すぐに応じてあげること
四つ目は、安定性を保証すること。(相手の求めに応じたり応じなかったりと、その場の気分や都合で対応が変わるのではなく、できるだけ一貫した対応をとること)
五つ目は、何でも話せること(相手が隠し事をしたり、遠慮したりせずに、心に抱えていることをさらけ出すことができること)(岡田2011
   また、岡田氏は、愛着を安定させる効果のあるオキシトシンというホルモンの分泌を活発にする手立てとして、次の事柄を挙げています。「授乳抱っこやハグ(等の)スキンシップや愛撫手を繋いだり輪になったりすること、体を使った遊びふざけ合うこと、アイコンタクト笑顔を交わす行為、共感的で心地よい応答楽しいことを一緒にすること、冗談や面白いことを言い合うことなどが挙げられるだろう。」(岡田2012)

平山の愛着形成法
   次に、人間の脳に安心・安定をもたらすセロトニンホルモンを分泌する支援行為「セロトニン5」の考案者でもある倉敷市立短期大学に勤務されていた平山諭氏の考えです。
平山氏は、「(一般的には)母親が子どもに対して『見つめ』『微笑み』『話しかけて』『ほめて』『触れる』ことを行う」ことで、子どもの脳が快感になり愛着が成立する」と述べています。(平山2011

ヘネシーの愛着形成法
   次に、社会福祉学博士、臨床ソーシャルワーカーをされているヘネシー澄子氏の愛着形成のための子育て法です。
1 目を合わせる
2 たがいにほほ笑みあい笑顔に必ず応える3 年齢に合わせて子どもを抱く抱擁する、抱きしめる
4 親子が同じリズムを感じる一体感を持つ。5 優しく、軽く、体にふれる
6 癒しを目的としたマッサージをする。
7 明るく、静かに語りかける
8 お説教ではなく、質問形式にする。
9 行動を描写して叱る。
10 ありがとう!の言葉を忘れずに言う。
11 良いことをしたときに褒める
12 子どもが自分の誇りであることを伝える。(ヘネシー2004

八尾の愛着形成法
   次に、臨床教育学博士、臨床心理士、日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーをされている八尾勝氏の愛着不全の修復方法です。これは、愛着不全を起こした子どもを修復するための方法ですが、岡田氏は「愛着不全の修復過程は、ある意味、赤ん坊のころからやり直すことである。」(岡田2011と指摘していることから考えると、愛着の形成と修復とは同じことを繰り返すということですから、愛着形成の方法と愛着不全の回復方法は同じものと考えることができると思います。視線を合わせる。子どもの目線と同じ高さで、子どもの目を見ながら話す
②互いに微笑み合う。理由が無くても良い。ただ子どもといるのが楽しいという気持ちを 伝える。子どもの笑顔には必ず応える。
③嫌がりさえしなければ、子どもを抱きしめる優しく、軽く体に触れる。肩、二の腕、背中など。
⑤背中をマッサージをする感じでなでる
語りかける時は、明るく、静かに言わなくてもいいことや、自分が言われて嫌なこと は言わない。
⑦お説教はしない。「そうしたらどうなると思う?」と問いかける
⑧子どもが自分や他人を危険にさらす事をした時だけ、その行動を描写して、きっぱりと諭す。「こういう事をしたら、こういう結果になり、貴方が傷つくでしょう」と。
⑨子どもが自分の言うことを聞いたら「ありがとう」を忘れずに言う。
⑩子どもが良いことをしたら、その行動を描写してほめる
⑪子どもが自分の誇りであることを伝える。言語的にも、非言語的にも。
子どもの話すことには、気持ちの流れを理解するように耳を傾けること。そして理解できたことを言葉にして返そう、You feel ~、 because .と。

菅原の愛着形成法
   次に、NPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事を務められ、ベストセラーとなった「子どもの心のコーチング」の著者としても知られている菅原裕子さんです。
   菅原氏は、著書の中で次の四つを紹介しています。
1,赤ちゃんの泣き声に応えよう
2,豊富なスキンシップ、「好き」と言葉にする
3,禁止語命令語は使わない。
4,肯定的な言葉がけをする。
   その中で、「『好き』と言葉にする」の説明の中で「一日に何度も子どもの目を見て『かわいいね。好きだよ。大好き』」と言葉にしてみましょう。」と述べています。
 また、「禁止語と命令語」については、親が子どもにガミガミ、クドクドと「何度言えばわかるの」といういわゆる「小言」のことを指して述べています。(菅原2014))


   さて、ここからは、これまで紹介した方法の中から、愛着を形成するための方法を大切なものに絞って考えたいと思います。なぜなら、たとえ具体的であっても、あまりに多すぎると実践するときに無理が生じるからです。
   さて、これらの五人の方の方法を比べると、同じような内容のものがいくつも含まれています。複数の専門家がどの方も提案している方法は、それだけ大切な方法だと考えられます。
   多くに共通しているのは、「見る(アイコンタクト)」「微笑む」「明るく静かに語りかける」「褒める」「スキンシップ」です。ちなみに、岡田氏は先の「安全性の保障」について、「抱っこが安心の原点である」と、スキンシップ(抱っこ)こそが子どもの安全性を保障すると述べています。(岡田2011
   また、岡田氏と八尾氏と菅原氏はそれぞれ、「子どもの気持ちに共感する」「子どもの話に耳を傾ける」「赤ちゃんの泣き声に応えよう。」を挙げています。このことに関わって、岡田は「マインド・マインディドネス(心に関心を向ける)」として、母親が、言葉で表現できない赤ちゃんの言動に対して、その気持ちに関心を向ける(共感する)ことの大切さを指摘しています。(岡田2012)そのことを考えると、「赤ちゃんや子どもの声に耳を傾ける」ことも、「困っている子どもの声に耳を傾ける」ことも、結果的にそれが子どもの「安全基地」の機能を高め結果的に愛着の形成に結びつくのでしょう。同じく岡田氏は、「子どもが親に何でも話せること」を挙げていますが、これも普段から親が子どもの話に耳を傾け共感する姿勢を持つことによって具現化できるものと考えます。
   また、菅原氏は、「微笑む」については特に述べてはいませんが、著書のイラストの中に登場する親の表情はどれも微笑みに満ちています。
   また、岡田氏が「応答性」の大切さを述べているように仮に赤ちゃんが泣き始めたときに、すぐに駆けつけて問題を解決してやる場合と、しばらくしてから駆けつける場合と、結局駆けつけない場合では、愛着の形成に影響が出てきます。先に述べたように、時間の経過と共に、子どもの状態は「抵抗」「絶望」そして「脱愛着」と次第に事態は深刻化していくのです。(もしも、まだ読んでいない方は是非読んでください。無力な乳幼児にとって、あまりにも残酷な気持ちの移り変わりを紹介しています。)母親は、できるだけ速やかに子どものもとへ行き子どもが抱えている問題を解決してやる必要があります。特に一歳半までの「臨界期」に当たる時期は、母親はできるだけ子どもの側に居てあげるのがベストでしょう。
   最後に、岡田氏が指摘する「安定性」については、これまで述べてきたように、親の気分で養育の仕方が変わることは「不安型」の愛着スタイルの人間を育ててしまうことになります。いつも一貫した養育態度が望まれます。


 これらのことから考えると、私は最終的に次の七つが人々、特に子供の安心感の源となる愛着の形成のために大切な支援だと考えます。仮に「安心7支援」とでも呼んでおきましょう。
(大変長くなり失礼しました🙇🏻)