【今回の記事】

【記事の概要】
   この時期、新しい部下の指導で悩んでいる人もいらっしゃると思います。注意したのにどうして行動を改めないのか……。そんな経験がある場合、部下を責める前に一度、指導の仕方を振り返ってみませんか?
しっかりしろ」「もっと考えて行動しろよ」「空気を読め」といった言い回しで部下を叱っている人は要注意。よかれと思ってした指導や注意が、相手に悪影響を及ぼしている可能性もあります。
   相手のためになることなのに、注意しても響かない。その原因は、指導するときの言い回しにあるかも知れません。
   例えば、部下に「余裕を持って出社する習慣」を身につけてほしいとき、皆さんならどう伝えるでしょうか? 次のふたつのなかから近いものを選んでください。
(1)「もう少し余裕を持って出社して」
(2)「余裕を持って15分前に出社して」
(1)の「もう少し余裕を持って」という表現が、具体的に何分くらいを指すのかは、人によって解釈が違うことがあります。なかには定刻ジャストであればOKと理解する人もいるかもしれません。どれくらいを目安にすればよいか、具体的に指示をされたほうが行動しやすいということもありますので、できれば(2)の言い方で指導したいものです。
(2)のように具体的に伝えても、また繰り返す人たちもいます。今日はコミュニケーションの観点から、その要因のひとつを解説したいと思います。
   普段の皆さんの注意の仕方は、次のA、B、Cのうち、どれに近いでしょうか。
A. 「余裕を持って15分前に出社して」
B. 「ギリギリに出社すると、落ち着いて仕事に取りかかれないし、電車の遅延なんかがあったら遅刻してしまうよ。余裕を持って15分前に出社して」
C. 「朝、落ち着いて仕事の準備をすることで気持ちいい一日を過ごせたらいいよね。余裕を持って15分前に出社して」
   結論だけを見れば、どの伝え方でも15分前に出社してくれる人は増えます。しかし、朝早く出勤することに対して「いいな」と感じるようになるのはCのグループ言われたからやる人と、落ち着いて仕事の準備をしていい一日を過ごすことがイメージできるようになる人の差というのは大きいと思います。指導する側にぜひ意識してほしいのは、自分が選ぶ言葉によって、正しい行為を「めんどうだ」と感じさせてしまう可能性もあることです。
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【感想】
   記事中で指摘されている
◯指示はより具体的に
◯改善することのメリットを伝える
「ナルホド」という感じです。特に後者は、私にとって新しい視点で、いいイメージを持つことでポジティブな印象を持ち意欲化が図られるのかもしれません。
   何れにせよ、これらの理由から上記A〜Cの内ベストはCであると指摘されています。

   実は、Cは上記2点以外の事でA、Bと異なる面があります。それは、注意をする上司の“表情”です。
A. 「余裕を持って15分前に出社して」
B. 「ギリギリに出社すると、落ち着いて仕事に取りかかれないし、電車の遅延なんかがあったら遅刻してしまうよ。余裕を持って15分前に出社して」
C. 「朝、落ち着いて仕事の準備をすることで気持ちいい一日を過ごせたらいいよね。余裕を持って15分前に出社して」
   A、Bは少し眉間にシワが寄り不満そうな表情をしている印象を受けるのに対し、Cは穏やかで微笑みのある表情をしている印象を受けます。
  “表情”が違えば、当然“口調”も変わるでしょう。AとBは命令調な印象を受けますが、Cはどこか柔らかな印象を受けます。

   さて、普段は部下や子供に注意することが多い方も、今は、もし自分が注意されるとしたら
不満そうな表情で、しかも命令口調で注意を受ける場合(A、B)と、
穏やかな表情で、しかも柔らかな口調で注意を受ける場合(C)と、
どちらの方が「次はがんばろう」という気持ちが湧いてくるでしょうか?記事中で支持されているのは「C」、つまり「②」です。
   しかし、中には「優しく言われたら油断や緩みが生まれるんじゃないか?厳しく言われた方が真剣味が出るんじゃないか?」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。なぜ、②の方がやる気が出るのでしょう?
   
「①」の方からは「あなたは信頼できない人」という相手に対する否定的な捉え方が感じられます。それに対して、「②」は「あなたは信頼できる人という相手に対する肯定的な捉え方が感じられます。
   信じてもらっていない人から命令調で注意を受けるのと、信じてくれている人から穏やかに注意を受けるのとで大きく変わってくるのは“自己肯定感”です。特に子供の場合は重要な要素となるものです。もちろん、信じてもらえる方が自己肯定感が高まります。それによって、自分はやれる!」という自分に対する自信が湧いてくるのではないでしょうか?
「優しく言われたら油断や緩みが生まれるんじゃないか?」という方、厳しく注意するのは、その後も不注意によって同じ失敗が繰り返された時でも遅くはないのではないでしょうか?「仏の顔も三度まで」と言いますから。

   実はここ迄に述べた支援法は、自閉症スペクトラム指導で重要視されているものです。
・指示は具体的に(“想像力の不足”への対応)
・穏やかな表情や口調(“感覚過敏”への対応)
・肯定的な接し方(“感覚過敏”への対応)

   岩手県情緒障害研究会の講師に招かれたFR教育臨床研究所所長の花輪敏雄氏が「自閉症指導こそがユニバーサルデザインの考え方に基づく指導法である」と述べていたことの意味が再確認された思いです。何と言っても、“感覚過敏”で“安心・安全を好む自閉症スペクトラムの傾向は全ての人が大なり小なり持っているのですから。