【今回の記事】

【記事の概要】
 中学生棋士・藤井聡太四段が連勝記録を1位タイの28勝まで伸ばし、俄然注目が集まる将棋界。
 藤井四段の連勝記録とともに話題になっているのが、14歳とは思えない冷静で落ち着いた言動だ。日本将棋連盟の学校教育アドバイザーとして多くの棋士たちと交流を持つ安次嶺(あじみね)隆幸氏は、藤井四段勝っても浮かれることのない、落ち着いた言動は将棋を通して身につき磨かれた部分も大きいはず、と力説する。
「将棋は考えるゲームですから、集中力や思考力が鍛えられるのは当然です。しかし、現代の子どもたちにとって本当の効用は精神の鍛錬心の成長の部分です」(安次嶺氏)。
 将棋のどういったところが精神の鍛錬になるのか、今回は3つの側面に注目して安次嶺氏に解説してもらった。

(1)「負けてくやしい」経験を多く積む
   藤井聡太四段の負けず嫌いな性格は有名だ。幼少時から格上の相手との対局でも負けると涙を流して悔しがったというエピソードは数多い。「スポーツでも他のゲームでも勝ち負けはありますが、将棋は負けたほうが相手に“負けました”と言って終わる競技。自分の敗北を認めることは大人でもなかなかできないもの。それを乗り越えて『負けました』と言うことで、弱い自分に打ち勝つことになるのです」。
   また、将棋の勝敗は運で左右されない、すべて自己責任の世界。自分が負けたのは誰のせいでもなく、自分が悪いということを思い知らされる。「負けた、悔しい、もうやめる」ではなく、「負けを認め、敗因を検証する」作業を通して将棋は上達し、心も鍛えられる
(2)「心の折りたたみ方」を学ぶ
めんどくさい」けれど一手一手を熟考して指す負けてくやしい気持ちを胸にしまって「負けました」と言う勝っても万歳はせず負けた人の心情を察して「ありがとうございました」と礼をする。このような将棋独特の作法を安次嶺氏は「心を折りたたむ習慣」と表現する。この「心の折りたたみ方」を知っている子は、伸びる子が多いという。「藤井聡太四段の言動が大人びて見えるのも、“心の折りたたみ方”が身についているからでしょう。勝利の後のインタビューではひとつひとつ言葉を選び、目の前の負かした相手に配慮したコメントをしているのもその証拠です」。
(3)親は子どもに任せ、見守る
   藤井聡太四段両親は、将棋に関しては素人だったという。将棋を知らないからこそ、将棋に関しては師匠と本人に任せ、ひたすら見守り、励ました。将棋の世界では親が熱心に教えたくても技術的に難しい場合が多く、「見守り」型になることが多いという。
将棋大会では、も“がんばれ!”と叫びたい気持ちを我慢し、心の中で必死に無言の声援を送っている光景を見かけます。大声を張り上げて応援するスポーツや競技が多い中、将棋大会には“黙って見守る”“子どもを信じる”という光景がある。これこそ、子どもの自主性を育むのです」

 安次嶺氏は、私立小学校の教員としても30年以上のキャリアを持つ。これからの社会を生き抜くために、子どもたちには「挫(くじ)けない力」を身に付けさせるのが大切だという。
 親は子どもに「転ばぬ先の杖」を用意するより、「負ける経験」をさせる、「効率重視」よりも「めんどくさい」ことを丁寧にやらせる手や口を出さずにじっと見守る……そんな経験の積み重ねが子どもに「挫けない力」をつける。将棋を通して、わが子にも「藤井聡太のメンタル」を育んではいかがだろうか。
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【感想】
   初め私はこの記事の「我が子を『藤井聡太』にする」というタイトルに危機感を覚えました。何故なら、世の中には、天才キッズが出現すると自分の子供も同じように“育てたい”“育てよう”と思いが先走り、ある意味干渉的な接し方をしてしまいがちな親御さんが少なくないからです。
   しかし、将棋を通した、親の干渉を受けない自主的精神の鍛錬心の成長を呼びかけるこの記事を読み終えるとその心配は見事に払拭されました。もはや私などが感想を付け加える必要もないところですが、この安次嶺氏の指摘の素晴らしさについて感じた事を述べさせて頂きたいと思います。

(1)「負けてくやしい」経験を多く積む
   勝てば嬉しいのは誰でも同じです。しかし、差が生まれるのはその人が負けた時です。「悔しさを」をそのまま外に表出する人は普通です。しかし、そこをあえて“我慢”して理性的に振る舞える人は心を支える力が強い人です。
   将棋は長い時間をかけての対局だからこそ、負けた時の悔しさは並大抵なものではないですが、負けた悔しさを我慢して「負けました」と宣言します。それがたとえ小学生であろうとも、負けた悔しさを自分の心で支えなければならないのです。その経験をたくさん経験した人の心が強く成長していくのは納得のいくところです。

(2)「心の折りたたみ方」を学ぶ
「心を折りたたむ」とは次のような行為を指しているようです。
・「めんどくさい」けれど一手一手を熟考して指す。
・負けてくやしい気持ちを胸にしまって「負けました」と言う。
・勝っても万歳はせず負けた人の心情を察して「ありがとうございました」と礼をする。
これらはどれも、「イライラ」「ちくしょう!」「やったー!」という気持ちを我慢する、つまり“本能”を“理性”でコントロールする行為です。その意味で、先の「(1)」と似ています。
   特に子どもは誰でも「遊びたい」「ゲームをしたい」という気持ちを持っています。しかし、その弱い気持ちを我慢コントロールして勉強する子供の成績が伸びるのです。いえ、世の中は死ぬまで自分の弱い心との戦いなのです。

(3)親は子どもに任せ、見守る
   私はこの3つ目のことが、将棋が人を成長させる、自立させる一番の要因だと思います。
将棋に関しては師匠と本人に“任せ”、ひたすら“見守り”、“励ました”
とは藤井プロのご両親の言葉です。
   記事にもある通り、藤井プロの両親は将棋の素人です。ですから、「ああしろ!」「こうしろ!」と指示することができませんでした。しかし、そのことが結果的に幸いしたのです。子供に干渉したくてもできなかった。できることは、「任せること」「見守ること」「励ますこと」だけだった。その結果、“聡太君”は幼い頃から誰から指図を受けることなく伸び伸びと将棋に取り組むことができたのです。逆に、親が過干渉だと子どもは「やらされてる」感を抱き、藤井プロのように心から熱中できません。子供の意欲を削いでしまうのです。
   また、「将棋大会には“黙って見守る”“子どもを信じる”という光景」があるとのことです。一番大切な本番の時に、スタンドから大きな声で「違う!」「もっと右!」「なにやってんだ!」等と口を挟まれたら、さすがにどんな子供でもやる気が萎えてしまうでしょう。
   昨今、勝利至上主義に走り、場合によっては気持ちの上で子供を追い越してしまう親御さんが少なくない中、子供に“任せて”子供を“信じて”子供を“じっと見守る”将棋とはそういう競技なのですね。

   藤井プロにとってそんなご両親は間違いなく彼にとっての「安全基地」だと思います。何と言っても“基地”ですから、基地の方から動いて子供を覆う等という「転ばぬ先の杖状態はあり得ません子供が中に居るのは子供が必要とし子供から入って来た時だけです。子供が外に出て頑張っている時は「安全基地」は子供の頑張りを動かず見守っているしかないのです。

   なお、このブログで以前から紹介している「自立3支援」(国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ石川尚子監修)は、やはり有効な支援法だということが分かります。