【今回の記事】

【記事の概要】
   埼玉県のさいたま市教委は9日、担任する小学1年の男子児童3人に体罰を行ったとして、市立小学校の男性教諭(28)を減給10分の1、1カ月の懲戒処分にしたと発表した。校長も指導監督責任で文書訓告処分とした。
   市教委によると、男性教諭は昨年10月20日午後0時半ごろ、男子児童の両手首をつかんで体を持ち上げ、児童の背中を廊下のコンクリート製の柱に1回強くぶつけた。男子児童は前日19日も上腕部をつかんで持ち上げられ、背中を廊下の柱に強く打ちつけられており、20日に医師から背中の打撲で軽傷と診断された。男性教諭は昨年6月7日、別の男子児童の右手首を持って体を持ち上げて廊下に連れ出したほか、10月5日にも他の男子児童の背中の上部を右手で前に強く押し出した
   男子児童はいずれも授業中などに騒いだとして、指導を受けていた。市教委に対し、男性教諭は「感情のコントロールができず、体罰をしてしまった」と話しているという。

【感想】
   若干窮屈な話題になって恐縮ですが、発達障害児療育のベースになっている考え方のひとつに「応用行動分析学(ABA)」があります。 これは、子どもの行動の背後にある原因を分析することで、社会生活上の問題を解決していこうとする学問です。つまり、特に今回の記事で紹介されるような授業中に騒いでしまいがちな発達障害の子どもの行動の要因を探るための考え方です。
   この考え方の最大の特徴は、子供の「②行動」にはその前後に必ず「①先行刺激(きっかけ)」と「③結果」が伴うという事です。

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上記図では、3事例(「買い物」「勉強」「おもちゃ」)が紹介されています。例えば、「駄々をこねる」という「②行動」にも、「おもちゃが欲しい」という「①先行刺激(きっかけ)」と、「おもちゃが手に入る」という「③結果」とが必ずあります
   また、この「③結果」の内容次第で「②行動」の回数が増える事を「強化」と言います。例えば、子供が駄々をこねるのに負けておもちゃを買い与えてしまうと、後日子供は更に駄々をこねておもちゃを手に入れようとするでしょう。

   この図式に今回の記事の事例を当てはると、「②行動」は「子供が騒いだ」こと。「③結果」は「体罰を加えた」ことです。ところが、記事では「②行動」の「①先行刺激(きっかけ)」に当たる報道がなされていません。体罰を加えた担任は「子どものわがまま」くらいにしか思っていないでしょう。
   仮に「①きっかけ」が分かれば、次回からはそれに配慮した支援が出来ますし、「②行動」の後には「体罰」ではなく「共感」という「③結果」を子どもに提供する事が出来ます。
   例えば、自閉症スペクトラム(ASD)の傾向が強い子どもが、授業中「『今日は雨が降ってるから勉強したくない』と言い始めた」という「②行動」を起こしたとしましょう(実話)。それに対して多くの教師は「何わけのわからない事を言ってるんだ?!」」と「叱責する」という「③結果」を提供するでしょう。その時に「②行動」の前には必ず「①きっかけ」があるという事が分かっていれば、「この子はなぜ『雨が降ってるから勉強したくない』というのだろうか?」という疑問が湧いてきて、「どうしてそう思ったんだい?」と聞く事ができます。すると、その子は雨が降ってるとジメジメして気持ちが悪くなるんだ」とASD特有の“感覚過敏(この場合は“触覚過敏”)”の事情を答えているかもしれません。その「①きっかけ」が分かれば、「③結果」として「あなたはジメジメしたのが嫌いだものね」と「共感」してやる事ができますし、次回からは天気の悪い日はタオルを持参させるという配慮も可能になります。
   授業中にわがままを言ったり騒いだりすれば、先生から怒られる事などどの子も分かっているし、誰だって怒られたくはありません。それでも騒いでしまうのは、その子どもにしか分からない何らかの「①きっかけ」、つまり“理由”があるからです。

   学校に限らず、家庭でも子供が騒ぐのには必ず訳があります。しかし、私たち大人は、子供の「②行動」の表面上の乱暴さだけに目が行ってしまい、その「①きっかけ」を考えようとしない傾向にあります。たとえすぐには「①きっかけ」が分からなくても、「何かきっと訳があるはずだ」と思って接してくれる大人のことを発達障害の子どもは「自分の味方」と認識するはずです。日頃からたくさんの敵を抱えている発達障害の子供にとっては、そういう大人がいることは大きな勇気になるのです。

   もしも子どもが問題と思われる行動を起こしたとしても、「何かあったの?」の聞いてあげたいものです。