次に、「子どもの前での夫婦間の不仲」についてです。
   夫婦間の不仲の関係が子どもに与える影響も大きいです。先にお話しした通り、一歳半から三歳の頃の子どもは脳の成長が著しく、人間関係に必要な感情が発達します。幼いように見えても、周りの家族の様子をよく観察しています。
   精神科医の岡田氏は次のように指摘しています。「母親との愛着が安定したものであっても、愛着していた父親がなくなったり、両親の間で強い確執が繰り返されたりすれば、どちらの親にも愛着しているがゆえに子どもは傷つき、通常の愛着の仕方ではなく、反抗したり、無関心になったりすることで、傷つくことから自分を守ろうとし始めるだろう。そうした体験は、その後の愛着スタイルに影を落とすことになる。(岡田2011)」
   つまり、大人が気を付けるべきことは、乳幼児期に愛着を形成できていたと思っても、子どもがいるところで、父親が母親のことを悪く言ったり、逆に母親が父親の悪口を言ったりしないということです。
   例えば、母親の攻撃的な言葉を聞いた子どもは、自分が信頼していた「安全基地」だと思っていたはずの母親に恐怖を覚え、安全であったはずの基地が安全でなくなってしまう、つまり一度形成された愛着が崩れてしまう危険性をはらんでいます。
   父親にしても、いつも楽しく遊んでくれていたお父さんがあんなに怖い顔をしている、と恐怖による壁を感じて近寄りがたくなることもあり得るのです。更に、自分を受容してくれる「安全基地」でもある母親が父親から攻撃される様子を見る事によって、父親を敵対視してしまうケースも起きるでしょう。
   
   その背景には、愛着とは生後の環境によって作られる後天性のものであるという性質が大きく関わっています。その為、たとえ乳幼児期に適切に愛着を形成できても、その後、両親の口喧嘩が絶えない環境に子どもが置かれることによって愛着が崩壊し、その後の子どもの成人後の人格(愛着スタイル)形成に悪影響を及ぼすこともあるという事を私たちは肝に命じておかなければならないのです。

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   次に、父親と母親のどちらかが、自分の気持ちを我慢して相手に主導権を譲ってしまう場合です。この場合は、家族の中に序列化が生まれ、子どもは立場の弱い方の親の言うことを聞かなくなってしまうことが多々あります。これは、それからの子育てを考えるうえで大変好ましくないことです。特に、働きに出ている父親が、家庭にいる母親のことを子どもの前で悪く言うと、子どもは母親の言うことを聞かなくなりますから、父親が家にいないときの子育てがうまく機能しなくなる場合があります。父親が出勤後、子どもが「学校に行きたくない」と言い出すと、母親にはどうしようもなくなります。その様子について「お前の育て方が悪いからだ」と母親を責める父親もいます。しかしこれは、普段から子どもの前で母親の悪口を言い、子どもにとっての母親としての立場を失わせた父親の責任です。
   また、それ以前に、子育ては母親の責任」と誤って認識している場合がとても多いように思います。後の「父親の仕事」の項で述べますが、子どもと遊んだり、世の中の常識や責任を教えたりするのは「父性」を持つ父親の仕事です。「母性」と「父性」、それぞれにしかできない役割があるのです。
   何よりも、相手を責める両親の乱暴な言葉遣い子どもは知らず知らずのうちに覚えてしまいます。時々子どもたちがびっくりするほど乱暴な、まるでやくざが使うような言葉を使っている場合がありますが、そういうケースは、自分の親が家で口にしている言葉を覚えて使っていることがほとんどです。まさに「子どもは親の背中を見て育つ」ですね。