‪‬ (この「愛着の話」は精神科医の岡田尊司氏を中心に、各専門家の文献を、内容や趣旨はそのままに、私が読みやすい文章に書き換えたものです)


   親が何不足なく愛情深く育てている場合でも、愛着が不安定になりやすい落とし穴があります。先の岡田氏の指摘を基に考えてみましょう。

◯親の否定的、支配的な養育態度
   これは、今の家庭の中で最も典型的に見られる現象です。「うるさい!」「はやくしなさい!」「何回同じことを言わせるの!」「もうあなたのことなんか知りません!」等、親が何の気なく使う「否定的」な言葉は、親の「安全基地」としての機能を「危険基地」に変化させ、不安定な愛着スタイルに陥る要因となります。また、ある講演会で、「思春期に、何か重篤なトラブルが起きたときに、親に相談せず、友達に相談する子どもがとても多い」ということを聞いたことがあります。今は、SNSなどによって、危険な人物が子どもたちに接触する事例も数多く起きています。本来ならば、その時に子どもを救うことができるのは、人生経験が豊かで、血のつながった存在である親しかいないのですが、残念ながら、「危険基地」と化した親に子どもは相談には来ません。仮に、最悪の結果が起きてしまった時に、親が子どもにとっての「安全基地」でありえなかったことを悔やんでも、それは“後の祭”なのです。(そういうケースが実際に起きています。)
   また、これらの言葉は、子どもに対して、「○○でなければならない」という親御さんの勝手な理想像が強すぎて、子どもがそのイメージとずれているときによく発せられます。「○○高校、○○大学に入らなければならない」「将来この子が恥をかかないように、日常のしつけをきちんとしなければならない」等、親御さんの厳格な思いが先走り、つい否定的な言葉が出てしまったり過干渉になってしまったりします。
   この中でも、常に目標達成ばかりを求められ褒められることが少ない親に育てられた子どもは、親の強い要求について行けず、何かに挑戦しようとする気持ちが薄れ、行動する意欲もなくなり、いつも同じ状況に満足してしまう「回避型の愛着スタイルを持つようになります。
   また、できた時は褒められるが出来なかった時には叱責される子どもは、いつも親の顔色を気にしながら生活し、「よい子」を演じてしまう「不安型の愛着スタイルになりやすいです
   このことに関わって、岡田氏は次のような事例を紹介しています。
「典史(仮名)は、二十代後半の青年だが、中学の時に不登校になって以来、社会に出ることができず、引きこもりに近い生活を送っていた。(中略)回避的な人は、典史のように失敗を恐れ、チャレンジを避けるため、自分の真価を発揮することができない。(中略)回避的な若者に共通するのは、親からあまりほめられたことがなく悪い点ばかりをあげつらわれてきたことだ。親はたいてい真面目で義務感の強い人で、(中略)「~せねばならない」という責任やルールを重んじる。親の存在が大きすぎ、過干渉になって、子どもの主体性が脅かされていることも多い。子どもは、自分の願望や意思よりも、親の意向に支配され、無理やり動かされている。チャレンジして成功しても、評価されず、失敗した時だけ責められていては、チャレンジなど割に合わなくなってしまう。(中略)そういう状態が小さい頃から続くと、チャレンジするよりも、無理なことはせず現状維持を第一とするようになる。自分で意思決定をするよりも、責任を逃れるために、他の人に決定をゆだねてしまうということにもなる。(中略)則夫に起きていたのもまさにそうした事態だった。」(岡田2014
   親の高い要求や過干渉が子どもからどれだけやる気と意思決定能力を削ぎ、一人では何もできない人間にしてしまうかがよく分かります。

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