【今回の記事】

【記事の概要】
   小学生のころから一日も学校を休まなかった息子が、就職からまもなく自殺した――。浜松市西区の漁業鈴木英治さん(52)と妻のゆかりさん(50)が、次男航(こう)さん(当時18)の死の理由を問い続けている。航さんには軽度の知的障害と学習障害があった。
   航さんが、職場の自動車部品工場へ向かう途中で自殺したのは3年前の5月20日。その日、いつもより早く家を出た航さんは、通勤に使っていた午前7時20分の電車をホームでやりすごした。次の電車も見送り、同46分の貨物列車に飛び込んだ。駅の防犯カメラに映像が残されていた。
   航さんは、現場で教えられた仕事の手順などを細かくノートにメモしていた。その中にはこんな走り書きがあった。「バカはバカなりに努力しろ
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   航さんに軽度の知的障害と学習障害があるとわかったのは小学4年のときだ。通信簿はオール1。だが明るく、人なつっこい性格で友だちに好かれた。親や教師に言われたことはきちんと守る一方、融通や加減が利かない。高校で入った野球部や水泳部では倒れるまで練習を続けてしまうことが何度もあったという。
   高校卒業後、県内の大手自動車部品工場に障害者雇用枠で就職。「小中高と12年間、無遅刻・無欠席本人もまじめで体力があることは自覚していたので、工場での単純作業なら向いていると思ったようだ」と英治さんは話す。
   だが、就職からわずか50日で航さんは自ら命を絶った。一体、何があったのか――。遺品のノートにあった「バカは~」の文字や、その後の会社とのやり取りの中で、両親の疑念はふくらんでいったという。

【感想】
   小中高と12年間、無遅刻・無欠席の真面目だった航さんが、就職からわずか50日で自ら命を絶った。
   更に、航さんが現場で教えられた仕事の手順などを細かくメモしていたノートにあった走り書き「バカはバカなりに努力しろ」。この走り書きは、おそらく同僚の誰かから言われた言葉であろう。
   とすると、この2つの事実を繋ぐものは「職場内いじめ」しか考えられない。航さんはいじめを苦に自殺した可能性が高い。

   航さんは県内の大手自動車部品工場に障害者雇用枠で就職していた。つまり、見た目が健常者と変わらないためにいじめに会いやすい発達障害とは違い、職場の同僚は航さんの事を障害者と認識していたはずである。
   これは航さんをいじめた加害者を育ててしまった未成熟な社会の責任である。いじめが起きるカラクリは大人といえど子供と同じである。つまり、いじめを働いた加害者が何らかのストレスを抱えていたのである。しかも、その加害者は「安定型の愛着スタイル」の持ち主ではない。そもそも「安定型愛着スタイル」の人間はバランスのとれた人格ゆえにストレスを溜めにくいのだ。ストレスによっていじめに走るのは不安定型の愛着スタイル(「回避型」「不安型」「恐れ・回避型」のいずれか)の持ち主である。何れも、自分が幼い頃に受けた養育の為にそれぞれ特有の“怒り”を抱いている。その“怒り”がストレスがかかった時に他者に向かうのだろう。
   これらの不安定型の愛着スタイルの人間に育つのは、乳幼児期からの親との愛着形成に失敗しているためである。世の中の大人が、子供との愛着形成と維持の仕方に目を向けなければ、今回のような事件は無くなることはないだろう。まだまだ道半ばである。