【今回の記事】

【記事の概要】
「子どもがいつまでも宿題に取りかからない」
   小学校の教師として、多くの親御さんから このような悩みをよく聞いてきました。この問題に対して、ほとんどの親が為す術もないまま「勉強しなきゃダメでしょ。いつになったら自分からやれるようになるの!」と叱っています
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でも、口で叱るだけではいつまでも解決しません。大事なのは、具体的かつ合理的な方法を工夫するということです。
ランドセルの中身を全部出させる
   そこで、今回2つの方法を紹介したいと思います。1つ目は、私のメールマガジンの読者が教えてくれた方法です。その家の男の子は、学校から帰ってくるとすぐランドセルを放り投げて遊びに行ってしまうそうです。陽があるうちに遊ぶのはよいことですから、特にそれがいけないとは思いませんが、遊びから帰ってきても宿題をやらず、さんざん叱られてから夜になって泣きながらやる毎日ということなので、これはやはり困ったことです。
   そんな毎日でしたが、ある日、お母さんは1つのアイデアを思いつきました。ランドセルの中身をまずは全部出してもらう、ということです。
   そして、子どもにこう言いました。「遊びに行ってもいいけど、その前に、学校から帰ってきたら、とりあえずランドセルの中身を全部この箱に出そう」と。その箱はランドセルが2つ入る広さで、深さは5~6センチメートルです。つまり、広くて浅い箱です。それを玄関の近くに置きました
◯中身を出すことによって得られる効果とは
   子どもも「それくらいならできるよ」ということでやり始めました。男の子ですから、教科書やノートを手で持って丁寧に出すようなことはしません。箱の上でランドセルを逆さまにして、足で蹴って出すそうです。でも、それでもいいとしているそうです。
   ランドセルの中身を毎日すべて出すのは、とてもすばらしいことです。蛇腹折りになった1週間前のお便り、固まって化石化したハンカチ、腐りかけた靴下……。毎日出していればこういう状態になるのを防ぐことができます。何よりもよいのは、宿題に必要な物もすべて外に出て箱の中に入ることです。遊びから帰ってくると、その箱の中の宿題が自然に目に入ります。そのお母さんが言うには、たったこれだけのことで宿題への意識が高まり、また宿題が手に取りやすくなったようで、がみがみ叱る回数が減ったそうです。
1つ目の方法「とりあえず準備方式」で取りかかるときのハードルを下げる
    このように、宿題に取りかかるときのハードルを下げてあげることはとても重要です。大人の仕事もそうですが、取りかかってしまえば半分終わったようなものであり、とにかく取りかかるのが大変なのです。ですから、本格的に取りかかる前に、1歩でも1ミリでもゴールに近づいておくことが大切です。
   そこで、私がそのお母さんに提案したのは、さらに1歩近づいておく方法です。たとえば、遊びに行く前に、その箱の中から宿題に必要な物を取り出して、テーブルや机の上に出しておきます。つまり、算数プリント、漢字ドリル、書き取り帳、筆記用具、下敷き、などを出しておくのです。すると、「これだけやればいいんだ」というちょっとした見通しがつきます
   また、さらに1歩近づくとしたら、その日やるページを開いておく、下敷きを挟んでおく、付箋紙を挟んでおく、などもいいでしょう。これで、さらに見通しがつきます。私はこれらの工夫を「とりあえず準備方式」と呼んでいます。
   
◯2つ目の方法「とりあえず1問方式」でハードルを更に下げる
   このように、とりあえず準備方式だけでも効果がありますが、2つ目の方法としてさらにもう1歩ゴールに近づいておく工夫があります。それは「とりあえず1問方式」です。
   たとえば、子どもに次のように言うのです。「算数プリントがあるんだね。1問だけやったら遊びに行こう」「漢字書き取りがあるんだ。1字だけ書いたら遊ぼう」。
   1問だけならかなりハードルが下がります。そして、1問やるときに、他の問題は全部隠して1問だけ見てやるということはありえません。つまり、自然に全体が目に入るのです。すると、「だいたいこれくらいでできるな」「○○分くらいでできるな。大したことないな」というように、かなり見通しがつきます。ここまで見通しがついていると、遊びから帰ってきて本格的に取りかかるときのハードルが大いに下がります。

【感想】
   この記事で紹介されている「とりあえず準備方式」やとりあえず1問方式は、応用行動分析学で言うところの「シェイピング」または「漸次接近」と言われる方法の活用版だと思います。
「シェイピング」または「漸次接近」とは、初めからは目標全体の達成が難しい時、全体の行動を細かいステップに分けて一歩一歩目標全体に近づけていく技法のことです。
   今回の事例で言うと、まずは「宿題をする」という目標全体を「①勉強道具を出す」「②出した勉強道具を机の上に置く」「③宿題の内容を確認する」「④宿題のページを開く」「⑤初めの1問目を解く」「⑥残りの問題を解く」といったステップに分けます。初めはステップ①だけを遊びに行く前にさせる慣れてきたら、①にステップ②も加える慣れてきたらステップ③も加える。……というように、少しずつ目標全体に近づけていくのです。
   とにかく、いわゆる「腰が上がらない」状態から、いかに活動に取り掛からせるがポイントです。そこで「初めは、遊びに行く前にするのは『①勉強道具を出す』だけでいい」と言うと、子供は「それだけならできそう」と思い、腰を完全に下ろしていた状態から、ほんの少しだけでも腰を浮くようにさせる事が出来るのです。「初めは◯◯◯だけでいいよ」と言えるのは、プロセスを細かいステップに刻んでいるからこそなのです。
   この「シェイピング」は色々な場面で活用されています。例えば、学校の鉄棒に逆上がり用の“駆け上がり台”が設置されているのを見かけたことはありませんか?これは、最初から逆上がりという行為全体が出来ない子供のために、行為全体を、例えば「地面を強く蹴る」「足を高く振り上げる」「体を鉄棒に引き付ける」というステップに刻んだとすると、このうちの「地面を強く蹴る」と「足を高く振り上げる」を“駆け上がり台”で援助してあげて、子供が頑張るのは「体を鉄棒に引き付ける」だけでいいように工夫しているのです。それが出来るようになったら、次は“駆け上がり台”の無い鉄棒で「地面を強く蹴る」も頑張ってみようというわけです。

   また、この記事では、ランドセルの中身を全部出す実践も紹介されています。この実践の効果は、他にも以下のような事が考えられます。
・ゴミ同然の要らないものが見つかる。
・親に出すべきものが見つかる。
・持っていかなくていいものが入っている事に気付く。(毎日あるわけではない「社会」や「理科」の道具等)
・必要なものだけが残りランドセルが軽くなる。
・毎日親に中身を見られる事によって、ランドセルの中の整理整頓に気を付けるようになる。

   ぜひ参考にしてみてください。