【今回の記事】

障害者殺傷事件から半年 次郎は「次郎という仕事」をしている(NHK福祉ポータル「ハートネットTV」)


【記事の概要】

   NHKの番組にある母親から次のようなメールが寄せられた。


   次郎IQ18、実年齢22歳、語彙は10程度。算数は1の位を書けないまま高等部を卒業。現在専攻科のある学校に通いながら、ひとり親の私と暮らしている。

   面白いことに、言葉でのコミュニケーションは出来ないが、コミュニケーション能力は高い算数は出来ないが、お金の計算を電卓を使ってすることが出来る
   次郎が、自分で買い物に行きいと言った時に、GPS付の安心携帯を持たせて、ひとりで外に出すようになった。4年ほど前のことだ。失敗もありながら、今では、夕食の買い物をひとりで出来るようになった。近所の方、学校の先生、いろんな目撃情報から、そんなに、迷惑をかけずに、買い物が出来ているらしい。
   私は、親として、「こんな言葉もしゃべれない子どもを、ひとりで買い物に出して、親はなにをやっているんだ」という非難を受けないか?という恐れを感じていたのだが、本人いたって、楽しそうだ
   先日、次郎の買い物をそっと見ていてくださった先生に、「次郎君は、困ったときには、大人が助けてくれると思っているんですね」と言われた。おそらく、次郎はひとりで出かけて、困って、そして、まわりの大人に助けを求めて、助けられた経験を積んできたのだと思う。「人を信頼する」こと。それが、次郎が地域で生きる力になっているようだ。

   私は、次郎に手を引かれて障がい者の世界に入ってきたけれど、それは、豊かで優しい世界だった。同じように、次郎が歩く健常者の世界も、豊かで優しい世界なのだと思う。
   そうそう、次郎は、助けてもらうだけでなく、助けることもできる。助け助けられ、生きている。
   私は障がい者と健常者の間にある、重い扉を開けるのが、次郎と私の仕事だと思っている。問題はいろいろあるけど、知り合わなければ、始まらない。
今日も、次郎は、「次郎という仕事」をしに、出かけて行った。


【感想】

   このお母さんからのメールを受け取り、テレビ局のインタビュアーが次郎君の家を訪れた。

   インタビュアーが家に入ると、次郎君のお母さんは、「お客さんに『こちらです』と教えて。お客さんはどこに座ればいいの?お母さんはどこに座ればいいの?」と次々と次郎くんに判断を仰ぐ。しかし、その時のお母さんの表情は常に笑顔であり、次郎君への話しかけ方もとても優しい。このように、相手に安心・安定をもたらす「セロトニン6」の支援で接しているから、判断を求められる次郎くんにもプレッシャーがかからないのだ。


   いつものように次郎君が1人で出かける買い物に、このインタビュアーも同行した。次郎くんは買い物の途中でお世話になる地域の方々に必ず声をかける。声をかけられた人達も笑顔で挨拶を返す。次郎君がこれまでまわりの大人に助けを求めて、助けられた経験を積んできた」結果、「自分が困ったときには、地域の人が必ず助けてくれる」という「信頼感」が生まれ、次郎くんは、それに裏付けられた「愛着(愛の絆)」で地域の人たちと繋がっているのだ。同じマンションの住人同士なのに子供に挨拶をしないというルールが決められたマンションも有る今の世の中で、次郎くんの買い物に関わる人たちが住む世界は、正に互いに豊かで優しい世界”である。

   次郎くんはスーパーの鮮魚コーナーにやって来た。陳列してあった魚に切れ目を入れて欲しいと思ったのだが、担当の人がいない。次郎君は自分でベルを鳴らし担当の人を呼んで、身振り手振りで自分の気持ちを伝えた。すると次郎君の気持ちを汲み取った担当の方は、次郎君がいう通り切れ目を入れてくれた。これが、「言葉でのコミュニケーションは出来ないが、コミュニケーション能力は高い」とお母さんが言われる所以だろう。

   このコミュニケーション能力は、他でもない、「自分で買い物に行きい」と言った次郎君の意欲を汲んで次郎君に“任せて”買い物に出したお母さんの勇気によって育まれたものである。「何馬鹿なこと言ってるの?!」等と否定していては子供に力は育たない。これは、健常の子供たちと言えど同じである。「次郎IQ18、実年齢22歳、語彙は10程度」という次郎君を信じて任せる事が出来るこのお母さんを私たちは見習わなければならない。


   1つだけ私からの提案がある。このお母さんは次郎くんに任せるためにGPS機能がついた携帯を持たせて1人で買い物に行かせたが、慣れないうちはやはり交通事故が心配である。そこで、「お母さんは手助けをしないよ」という予告をした上で、次郎くんの後をついて歩き“見守る”という支援を取り入れてはどうだろうか。(この方法は「自立3支援(見守る。任せる。命令しない。による私の経験上、その方法でも子供の自主性を損なわずに活動させることができるそうすれば、何か危険なことがあった時にはすぐに助けることができるし、次郎くんがどのように地域の人と関わっているのかを把握することもできる。


   いずれにしても、大人の接し方次第で、障害児童の可能性をもこれだけ引き出し、夕食の買い物までひとりで出来るようにする事が可能になるのだ。改めて「自立3支援(見守る。任せる。命令しない。)」の重要性と障害者の可能性を教えられた