【今回の記事】

【記事の概要】
   原作者・さくらももこが脚本を担当中の、TVアニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)。3月5日に放送された第1092話「『まる子、カンニングをする』の巻」は、いじめ問題をにおわせるような、なかなか深い回だったので紹介したい。
(今回は、より具体的な場面状況を再現するために、今回の放送内容を出来るだけ詳細にお伝えします。その為、普段よりも長い投稿になってしまう事をご了承ください。)
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   明日、学校で算数のテストがあるというのにのほほんとテレビを見ているまる子。「もしも60点以下だったらお母さん許さないよ!」とお母さんに警告されてもまる子はテレビを見続けるのだった。
   テスト当日、思ったよりもテストが難しく「これじゃ60点もとれないよ」と困惑するまる子。ちらっと横の席のたまちゃんを見ると、テスト用紙が丸見えなことに気付く。「どうしよう、どうしよう」「カンニングなんてしちゃ駄目だよね」と心の中で葛藤するが、どうしても60点以上を取りたいまる子は、ついにカンニングしてしまうのだった。
   テストの時間が終わった後、お騒がせ女子・前田さんが「このクラスでカンニングした人がいるわ!」と大声で言い出す。藤木が隣の席の永沢をカンニングしていたと訴えたのだ。最初はしらを切る藤木だったが、クラス中の怪訝な視線が一斉に藤木に集まると、空気に耐え切れず藤木は泣きながら白状するのだった――。
   号泣する藤木に、永沢が「泣けばいいって問題じゃないだろ」とさらに責め立て、一度しらを切ったことについても怒る。
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他のクラスメイトも藤木を見ながらひそひそと声を上げて、教室中にただならぬ気配が流れ始める
   さて、学校の外に出たまる子とたまちゃんだが、まる子は自身もカンニングしたことを泣きながら告白する。「まだ正直に言えないままこうしているなんて、藤木よりひきょうだよね。最低だよね」と自分を責め、クラスのみんなや先生に自白すると言い出した
   しかしたまちゃんは「まるちゃんダメ! 言わなくていいよ! 言っちゃダメだよ!」と諭す。「まるちゃんは藤木みたいにいつもひきょうなことしてるわけじゃないもん」と釘を刺した。
   教室に戻ると、いまだに教室は藤木のカンニングの話で盛り上がっている。女子たちは陰でコソコソ話し、永沢、山根、小杉は面と向かってさらにまくし立てていた。このやりすぎな行為を見て、大野くんと杉山くんは「永沢たちって相変わらずキツイこというよな」「なかなかあそこまではドライにいかないぜ」と同情はするも、注意をするまではいかない
   するとまる子がたまらず藤木をかばって出ていく。そして「カンニングなんて私だってしたもん!」と白状してしまったのだった。クラスはざわつき、藤木に代わってまる子にクラス中の怪訝な視線が集まる。だがそこへたまちゃんが出ていき「まるちゃんがカンニングしたのなんて一年生の漢字テストでしょ」「いまさらそんな古い話バラすことないじゃん!」とフォローするとその場は収まる。
   さらにたまちゃんは続けて「みんなもいつまでも藤木を責めるのはよしなよ!」「ちょっとくらいカンニングをしちゃったことがある人だって結構いるでしょ?」「もういいじゃん!」と言い放つと藤木が責められることもなくなった
   一方まる子は家でお母さんに怒鳴られるが、お父さん(ヒロシ)から「まあ、いいじゃねえか。別にカンニングをしたわけじゃねえんだから」とフォローされると、さらに居たたまれなくなるのだった。

【感想】
   私は、この回の中に、“いじめの芽”が隠されていると感じた。それは、カンニングをした藤木へのいじめだ。
   カンニングがバレた藤木は、決してカンニング常習者というわけではなく、まる子と同じようにちょっとした出来心からカンニングをしてしまったに違いない。しかし、そのわずかの瞬間を“お騒がせ女子”の前田さんに見られ教室中の騒ぎになった。
   女の子たちは冷たい視線で影でヒソヒソ話男子たちは面と向かって藤木を責める、いつもは正義感溢れる大野くんと杉山くんも、責められる藤木に同情はするも、藤木を責め立てる男子たちを注意をするまではいかず、傍観者となる典型的な「いじめ」の構図である。
   その後、たまちゃんがまる子に対する思いやりから皆の中に割って入ったために藤 木の擁護もできその場は収まったが、漫画だからこその展開である。これが現実の話なら、おそらくたまちゃんのように勇気を持って皆の説得に入る子供は居らず、藤木に対するいじめが始まっていただろう。

   現実ならば、この場面で教師が出てきて場を収めようとするはずである。しかしこの時、教師がカンニングをした子供に対して叱責だけをすると、周囲でその子を冷ややかな目で見ていた子供たちは、「百の味方を得たり」とばかりに一斉に本格的ないじめを始めるだろう。
   その時に大切になるのは、たまちゃんが言った「ちょっとくらいカンニングをしちゃったことがある人だって結構いるでしょ?」という考え方である。決して藤木だけが特別に悪いわけではなく、他のみんなにも大なり小なり同じような弱い心があるということに気づかせる事が必要である。もちろん教師は、藤木に対してカンニング行為に対する指導は行う。指導した後に、「皆さんはどうですか?手を挙げずに心の中で答えてください。今まで一度もカンニングをした事がないという人はいますか?」と全体に振り返すのである。その後、次のようなことを努めて穏やかな口調で語りかけます。
人には誰にでも弱い心があります。私達の生活はその弱い心との戦いの連続です。しかし、人間は完璧ではありません。どれだけ頑張っても、弱い心の方が勝ってしまうこともあります。その時に大切なことは、『これからは同じ失敗をしないぞ』とがんばる気持ちです。今回藤木くんは、『何とかしていい点数が取りたい』という弱い心に負けてしまったかも知れません。でも藤木くんは、今、心の中で『今度からは絶対カンニングなんかしないぞ!』と思っているはずです。その気持ちこそが大切なのです。」
   このような「罪を憎んで人を憎まず」の指導によって、それまでのピリピリとした教室の雰囲気は大分落ち着いてくるはずである。それまで藤木を責めていた子供たちの気持ちも大分穏やかになり、逆に藤木のこれからの頑張りを応援しようとする子供や、自分の問題に置き換えて「自分も気をつけよう」と考え始める子供も出てくるかも知れない。つまり、学級全体のストレスが軽くなるのである。
   教師の藤木に対する叱責で指導が終わってしまうと、教室のピリピリムードはより一層高まり、それが子供達のストレスとなって溜まり、結果的にそれがいじめの引き金になる。何故なら、いじめは加害側のストレスが要因になって引き起こされるものだからである。だからこそ、子供達の心を安心・安定に導く「セロトニン6」の指導が大切になるのである。

   しかし、それ以上に大切なことは、「全ての子供の可能性を信じる」という教師の気持ちだと思う。子供達も元々は優しい気持ちを持っており、本当は友達のことを信じていたいのだ。その気持ちを満たしてやれるのは教師しかいないのである。