【今回の記事】

【記事の概要】
神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が刺殺され、27人が重軽傷を負った事件で、殺人容疑などで送検された元職員植松聖容疑者(27)の鑑定留置が20日、終了した。
   捜査関係者によると、植松容疑者は精神鑑定の結果、自分を特別な存在と思い込む「自己愛性パーソナリティー障害」などと診断された。同障害は判例上、善悪の判断は可能で刑事責任能力があるとされており、検察側はこの鑑定結果を踏まえ、植松容疑者を勾留期限の24日までに起訴するとみられる。

②アメリカ精神科医のカーンバーグと並ぶ権威であるオーストリアのコフートは、幼い未熟な自己愛を満たす「共感」を得られなかったために、自己愛の成熟が阻まれたことに原因があるとしました。「共感」とは、自分のしたことを見てほしくて、誇らしげに振り返る子どもに、「すごい!」と称賛を送ったり、子どもの夢物語を受け止めたりするようなことです。

    子供はもともと「何でもできる!」「こんなにできる!」といった自己顕示的で誇大な自己愛を持っています。母親、父親、身近な人から「共感」を得ることが、子どもの自信につながります自分で自分を支えられるだけの自信を持てるようになると、自己愛は健康的で成熟したものへと変化します

   しかし、乳幼児期に幼い自己愛を満たしてくれるような「共感」が得られないと、自己愛は未熟なまま発達がとまってしまい、その結果、自己愛性人格障害になってしまいます

   このように後天的なものが原因で自己愛性人格障害になっている場合は、幼い頃に満たされなかった気持ちを癒すことで症状はおさまるでしょう。健全な自信を獲得することで、不健全な自己愛を健全な自己愛に作り変えます。


【感想】
   あの重大事件を起こした元職員植松聖容疑者が、自分を特別な存在と思い込む「自己愛性パーソナリティー(人格)障害」などと診断された

「今回の記事②」によると、自己愛性パーソナリティー(人格)障害」の原因は、「乳幼児期に幼い自己愛を満たしてくれるような「共感」が得られない」こととされている。母親等から「共感」を得られれば、子どもの確かな「自信」となって、自分の人格を支えてくれる。しかし「共感」が得られないと、“未成熟な自信”にしかならず、子どもが本能的にそれを補おうと過度に自分の存在を高めようとするために、歪んだ「自己愛」が生まれるのではないだろうか?ある意味、自分に与えられなかった環境に必死に対応しようとする一種の適応行動と言えるのかもしれない。

   さて「乳幼児期」というと、愛着形成にとっての臨界期とされる“1歳半”が思い浮かぶ。これまで折に触れて、愛着形成の方法として「安心7支援」を紹介してきた。「安心7」による支援方法とは、以下の7つである。
日頃から子どもとスキンシップを図る
子どもに声をかけられた時には子どもを見る
子どもを見る時には子どもに微笑む
子どもに指示や注意をする時には子どもに穏やかな口調で話しかける
子どもから話しかけてきた時には子どもの話をうなずきながら聞く
子どもの中にある良さを探して褒める
⑦以上の中からできそうなものを選んで、いつも心がける

   さて、実はこれらの支援の中に「自己愛性パーソナリティ障害」に大きく影響を与える「共感」に当たるものがある。それは「⑤子どもから話しかけてきた時には子どもの話をうなずきながら聞く」と「⑥子どもの中にある良さを探して褒める」である。上記「今回の記事②」に「『共感』とは、自分のしたことを見てほしくて、誇らしげに振り返る子どもに、『すごい!』と称賛を送ったり、子どもの夢物語を受け止めたりするようなこと」と記されている。正に、この「『すごい!』と称賛を送る」ことは「⑥子どもの中にある良さを探して褒める」であり、「子どもの夢物語を受け止める」ことは「⑤子どもから話しかけてきた時には子どもの話をうなずきながら聞く」である。主にこの2つの支援がお座なりになってしまうと、自己愛が未熟なまま発達がとまってしまい、その結果、「自己愛性パーソナリティ障害」になってしまうのである。つまり、愛着形成にとって最も大切と言われる抱っこ(上記「①スキンシップ」)であっても、「抱っこが大切だと言われたから」というような機械的な気持ちでしているだけでは、健全な子供の成長を図ることはできないのである。
   更に、当然のことながら、乳幼児期に母親による子どもに対する養育そのものがあまりなされない場合にも、子どもへの「共感」を与えてやることは出来ない。

   これまでのことから、植松容疑者は決して別次元にいる特別な存在ではないということが分かる。例えば、乳幼児期の子供の行動に関心を示さず、スマホばかりに注意をとらわれている親はいないだろうか?そのような場合にも子どもに「共感」は与えることができないのである。

   この植松容疑者を見ていると、「乳幼児期の養育が人間の一生の人格形成に影響与える」という精神科医の岡田氏の指摘の重要性を恐ろしいまでに感じさせられる。