【今回の記事】

【記事の概要】
   高齢者による暴言・暴力が増えている。2016年版『犯罪白書』によれば、20年前と比べて高齢者の「暴行」は49倍に増加。駅や病院で暴言を吐いたり、乱暴な振る舞いをしたりというケースが増えてきた。なぜトラブルは起きるのか家族はどう向き合うべきなのか。当該家族の話に耳を傾けながら、有識者の知見を尋ねた。
   2016年版『犯罪白書』(法務省)。少年犯罪や外国人犯罪はピーク時の3分の1にまで減少していたが、65歳以上の高齢者の犯罪は突出して増加していた。
   20年前の1995年と比べると、「殺人」が約2.5倍、「強盗」は約8倍、「傷害」は約9倍という急激な増え方。もっとも増加していたのは「暴行」で、これは約49倍にも増えていた。
   問題の根本には何があるのか。精神科医で老年精神医学にも見識が深い「さくら坂クリニック」の武藤治人院長は、暴言や暴行も老化現象の表れと語る。
   原因は、おもに2つあると武藤氏は指摘する。第一に老化に伴う脳の機能の低下第二に社会的な環境変化に伴う心理的な要因である。
(中略)
   第二に環境変化に伴う心理的要因だ。たとえば、人との関わりが薄れることで自己肯定感が低下し、不満や不安が溜まりやすくなるその不満や不安がちょっとしたことで怒りに転化すると武藤氏は言う。
昔に比べ、家族や親族との関係も浅くなりました高齢になれば社会での活動範囲は狭まり、誰かと関わりたくとも関われない。鬱屈してしまうのでしょう」

   キレる高齢者とどう付き合っていくべきか。老人問題について多数の著書のある精神科医の和田秀樹氏は、「受容傾聴共感が重要」とし、こう語る。
「『受容』はまず理不尽な話であれ、無条件に受け入れる。そして真摯に話に耳を傾けてあげる『傾聴』をし、さらに相手の気持ちに寄り添って『共感』してあげる。それだけでおじいちゃん、おばあちゃんの態度は変わると思います。」「昔から日本の先人がしていたように高齢者を敬うたてる優先する。家庭でも社会でも高齢者を『どうせ暇なんだろ』という無下な態度はとらない。逆に言えば、そうした失礼な対応反発や疎外感を引き起こし、自己中心的な高齢者をますます生み出してしまっている可能性があるのです。人間誰でも年を取っていくものです。いずれ自分もそうなる、と思えば、横柄な高齢者にも優しく接することができるのではないでしょうか。」

【感想】
暴言や暴行も“老化現象”の表れ」であるならば、比較対象の1995年も条件は同じです。それにも関わらず、「暴行」は当時に比べて49倍にも増えています。この増え方は異常です。明らかに別の条件が関係していることが分かります。
「さくら坂クリニック」の武藤治人院長の指摘によるならば、もう一つの増加要因である「社会的な環境変化に伴う心理的な要因」が急激な増加の要因と言えます。
   今は昔に比べ、「家族や親族との関係も浅く」なりました。そうなると、「人との関わりが薄れることで自己肯定感が低下し、不満や不安が溜まりやすくなり、「その不満や不安がちょっとしたことで怒りに転化する」ようになるのです。
   つまり、1995年と比べて変化したのは、家族や親族等における人間関係の薄れです。そのために「自己肯定感が低下し、不満や不安が溜まりやすく」なっているのです。

   精神科医の和田秀樹氏は、そんな現代のキレやすいお年寄りと接するには、「受容傾聴共感が重要」と指摘しています。また、「昔から日本の先人がしていたように高齢者を敬うたてる優先する」ことが大切であるとも指摘しています。いずれも大切なことです。

   最後に、私なりにまとめるとするならば、1995年という20年前と比べて変化していると言われる家族や親族との関係」の退化は、「脱愛着」化の表れです。つまり、人と人とを繋ぐ愛着(愛の絆)が弱くなっているのです。精神科医の和田氏が重要視する「昔から日本の先人がしていたように高齢者を敬う、たてる、優先する」ことは、20年前人間同士の愛着が強かった頃に行われていた「人間同士の常識」だったのです。

   以前ブログで、“保育所の迷惑施設化について投稿しました。この時、愛着の弱体化による「赤の他人化」のために、暮らしづらい世の中になることの危険を指摘しました。加えて、今回の「老人の暴力化」も、愛着の弱体化によって起きる人間社会の歪みに繋がる問題です。
   これらのように、愛着の弱体化、つまり「脱愛着」化のために、人間社会の暮らしづらさや歪みが急速に進む今、愛着を形成する(形成し直す)ための行為である「愛着7」は、より大きな意味を持つことになると思います。