前回からの続きです)

   この事実は、「幼少期に備わった“我慢する”心は、生涯にわたってその人をより良い状態へと導いた」という結果を示しています。まさに「三つ子の魂百まで」です。
   では、幼少期に我慢できた子供たちと我慢できなかった子供たちとの差はどのようにして生まれたのでしょう。私は、ミシェル博士の文献から2つのことに注目しました。
   まずは、「ストレス」との関係です。ストレスが長引くと、「マシュマロをすぐに食べたい」などの安易な判断をしないために必要な脳の前頭前皮質が損われるのだそうです。この点に関わって、適切な愛着を形成した子供は、ストレスを感じた時にすぐに避難しストレスを解消できる安全基地を持っています。逆に愛着が未完成で安全基地を持たない子供は常にストレスに苛まれることになります。
   もう一つは、「自己効力感」との関係です。いわゆる「自己肯定感」と同じような意味ですが、この自己効力感とは、「自分が前向きに行動できる」とか、「自分は変わったり成長したり学んだり新たな難題を克服したりできる」という信念のことだそうです。つまり、ある課題を目の前にしたときに「自分はきっとうまくできる(マシュマロを食べるのを我慢できる)」という自信を抱かせるものです。愛着が形成されている子供は、何らかの探索活動(「初めてのものに触ってみる」「初めてのおもちゃで遊んでみる」等)を行うときに、養育者がそばにいてくれるので、安心して探索活動を行うことができますし、仮に何らかの問題が発生してもすぐに養育者が援助してくれます。このように、養育者が側にいてくれることによって適切な課題達成の経験を重ねることは、子供に「自分はできる」という自己肯定感を抱かせると考えられます。
   つまり、親による適切な養育によって愛着を形成することができた子供は、ストレスを長引かせることも少なく自己肯定感も強いのです。そういう子供こそがストレスに負けずに、「自分は我慢してより良い課題達成ができる」という自己肯定感のもとにマシュマロ課題に取り組み、見事成功することができたのでしょう。ちなみに、「四国こどもとおとなの医療センター」で児童診療内科医長を務める牛田美幸さんも、子育て情報ウェブマガジン「mama.staSERECT」でのインタビューで次のように述べています。「子供の心が安定していると、ちょっとしたことで泣いたり怒ったりすることが減っていきます。そして大事なことや地味な作業をくじけずにやっていく力も培われます。我慢強い子に育ちやすいと思います。」と。ここで言う「心の安定」は、愛着が形成されて安全基地ができたときに得られるものです。