【今回の記事】
愛着障害の克服〜「愛着アプローチ」で、人は変われる〜(岡田尊司 光文社新書 2016)

【記事の概要】
事例『脱毛癖の小学生』
   小学5年生の男の子が、髪の毛を抜いてしまうということで、お母さんに連れられて相談にやってきた。
   癖になっているようで、暇さえあれば髪の毛をむしっている。最近では明らかに髪の毛が薄くなってしまい、部分的にハゲになっているところもある。気づくたびに注意するのだが、効果はその時だけで、気づくとまた抜いている。
   最近はそれだけでなく、こっそり親のお金を持ち出したり、嘘をついたりする。もともと落ち着きがなく、考えもなくぱっと行動してしまうところがあり、忘れ物が多かったり、先生が言ったことを聞き落して困ることが多かったのだが、近頃では母親が注意をしても素直に耳を貸すどころか反抗的になる時もあり、手に負えなくなっている
   また家庭だけでなく、学校でも、先生や級友とトラブルになることが増えている。生活は投げやりで言わないと宿題もやらない注意をされれば渋々やるが、やりたくないという態度が露骨である。習い事にも行かせているが、いやいやなので、成績も落ちてきている。
   父親も母親も、本人のそんなやる気のない態度を見ると、イライラしてしまう。

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(以下、岡田氏による考察)
   この男の子は、両親が専門的な仕事をしていたため、小さい頃から保育園に預けられて育った。とはいえ「ただ保育園に預けっぱなしにしていた」というより、両親ともとても教育熱心で、息子にかける期待は人一倍大きかったので、小さい頃から習い事をたくさんさせてきた。保育園に迎えに行くとその足で習い事に直行するという生活が、1週間のうちの多くを占めたのである。
   愛情がないわけではないが、世話や関わりは人任せになる一方で、習い事をさせたり、指導や注意をしたりすることには熱心だったのである。干渉ばかりが多く、ときには厳しく叱ることもあった。その結果この男の子にとって、親は心からの安心や親しみを覚える対象というよりも、口を開くと命令するか否定するかの、うるさくて面倒臭い存在になっていた
   自然な情愛的な結びつきは弱く、親に甘えたり、困っていることを相談したりすることもない。愛着という点から見ると、共感的な結びつきが希薄であるだけでなく、いつも強制され、支配され、無理矢理服従させられていた
   素直でない態度や反抗的な態度というのも、愛着の問題と直結していることが多い。本当は甘えたいのだが、素直に甘えられず、相手をわざと怒らせるような行動をとってしまう。また嘘をつくといった行動も、不安定な愛着に伴いやすい典型的な問題である。本当のことを言うと、叱られるかもしれないので、ついごまかす反応が身に付いてしまっているのだ。怒られてばかりいる子、典型的には虐待を受けている子に見られる反応だ。
   もちろん、このケースでもそうだが、親は虐待を加えているとは思っていない。ただ子供のために指導しているだけだと思っている。しかし、子供の側からすると安全感や主体性を脅かされるという点で虐げられているのと結果的には変わらないということになっている。
   
【感想】
   この男の子のように、考え方がいい加減で、問題行動を起こしがちで、親に反抗的な態度をとるという子どもは、現実的に数多く見られる事例ではないかと思われます。
   しかし、嘘をつくという問題行動も、結果的には親に叱られたくないためについとってしまう行動で、不安定な愛着に特徴的に見られる症状です。
   親からすれば、子どものためにと思うあまり、熱心すぎるほど子供の教育に干渉してしまうのです。その結果、子供は常に強制され支配され無理矢理服従させられるといった環境の下で生活してきたのです。その結果子供が親に対して抱く「口うるさくて面倒臭い存在」という意識が、思春期ごろになると物理的な親への暴力という形になって現れることが多いのです。

   このような子どもが将来自立した大人になれるはずもなく、子どものうちの養育の仕方を見直す必要があります。
   このような子どもに必要な養育の仕方こそ、これまでも度々紹介してきた「自立3支援」なのです。この支援については、以下の記事のURLタップにてご参照ください。
これは大ヒット! 子どもが必ず自立します! 〜『自立3支援(見守る。任せる。命令しない。)』〜

   今回は具体的な事例をもとに親の養育のあり方を考えてみました。「親の考え方次第で子どもの人格が決まる」ということがよく分かります。