前回からの続き)
   この本を読んでさらに驚いた指摘がありました。それは、「今日、社会問題となっている様々な困難や障害に(愛着障害が)関わっていることが明らかとなってきたのである。例えば、うつや不安障害、アルコールや薬物ギャンブルなどの依存症、境界線パーソナリティー障害や過食症といった現代社会を特徴づける精神的なトラブルの多くにおいて、(愛着障害が)その要因やリスク・ファクターになっているばかりか、離婚や家庭の崩壊、虐待やネグレクト、結婚や子供を持つことの回避、社会へ出ることへの拒否、非行や犯罪といった様々な問題の背景の重要なファクターとしてもクローズアップされている」という指摘です。これらの問題は、昨今、毎日のようにニュースで報道されている痛ましい事件や事故そのものです。子供が親を殺す、逆に親が子供を殺す。学校では、いじめによって不登校どころか自殺者まで出る。中学生や高校生が殺人事件を起こす。親は我が子の育児を放棄したり虐待したりする。薬物やアルコールへの依存によって事故起こす。本当に目を覆いたくなる事故や事件ばかりです。しかも、これらの問題の要因として「愛着障害」なるものが挙げられているというのです。つまり、学級の中で問題を抱えている健常児が、毎日のようにテレビやネットで報道されている凄惨な事件の加害者になっても不思議ではないということです。
   その本には、さらに驚くべきことがたくさん書かれていました。例えば、「特に0歳から1歳半までの養育の仕方が一生の人格形成に影響与える」、「愛着の不安定さは、特にその子の『人間関係能力』に大きな影響を与え、それが原因となって、将来社会参加ができなくなったり逆に他者に危害を加えたりすることにもなり得る」「愛着の未形成は、特に成人後の異性関係や子育てに影響し、結婚を拒んだり、結婚をしてもすぐに離婚をしたりする状況につながる」、「愛着がまだ形成されていない段階で、複数の大人が養育に関わると、赤ちゃんが戸惑い不安になり、愛着の形成に悪影響を及ぼす」、「赤ちゃんが泣いた時に、お母さんが駆けつけるまでの時間の違いさえ愛着の形成の成否に影響を及ぼす」、「たとえ赤ちゃんに虐待や育児放棄をしなくても、『早く〇〇しなさい!』『何やってるの!』『いい子にしてないと立派な大人になれないわよ!』という親の何気ない否定的、支配的な口癖が子どもを愛着障害にする要因になる」、「『できるだけ良い高校、いい大学に入らせよう』『立派な大人に育てよう』等の思いが強すぎると、子供を愛着障害にしてしまうことが少なくない」等など。
   果たして私たちは、今までそのような意識を持って乳幼児期の養育に当たってきたでしょうか。むしろ、「物心がついてからのしつけがその子の人格形成に最も影響与える」「いつも子どもに厳しく声掛けをしないと子どもは育たない」「母親は仕事で忙しいから、乳幼児期の頃から別の人に子どもの養育を代わってもらっても成長には影響はない」、そんな思い込みや常識が私たちの意識の中になかったでしょうか。「うちの子は普通の子だから愛着障害などではない」、そんな決めつけた考え方を持っていなかったでしょうか。

   私はこれまで約30年間小学校の教師をやってきただけの普通の人間であり、大学で「愛着」について研究しているような専門家ではありません。そんな私がこの本を執筆しようと思ったのは、先の岡田氏の指摘を知り、日本の将来を案ずる1人の人間として、一刻でも早く、子供が愛着障害に陥らないようにするための有効な養育方法を明らかにして、深刻な問題や事故や事件が生まれないような方策をとらなければならないという、ただならぬ危機感を覚えたからです。このままでは日本社会の崩壊につながりかねないこの大きな問題に一石を投じたい、そうゆう思いが私をこの本の執筆に駆り立てたのです。(続く)