【今回の記事】
「10歳の壁」ってどんなもの? どんな根拠に基づいているの?

【記事の概要】
10歳までに勉強させないと手遅れになる!」といった話を聞いて焦りを感じたことがあるかたもいるのでは。しかし、しばしば耳にする「10歳(9歳)の壁」は、どのような根拠に基づいて語られているのでしょうか。発達心理学が専門で、『子どもの「10歳の壁」とは何か?』の著書がある法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授にお話を伺いました。
◯「10歳」までの教育が子どもの将来を決める?
   小学生のお子さまのいる保護者でしたら、「10歳の壁」という言葉を耳にしたことがあるかたも多いでしょう。10歳ではなく、9歳の場合もありますが、いずれも教育関連の書籍や雑誌などで「この時期までに勉強や運動をしておかないと手遅れになる」などと、いわゆる早期教育を促す文脈で使われることが多いフレーズです。
10歳の壁」に科学的な根拠はないのか!?
   しかし、「10歳の壁」には、本当に科学的な根拠があるのでしょうか。発達心理学者として関心をもち、「10歳の壁」が取り上げられているさまざまな出版物を調べてみました。(すると)脳科学や医学に関する最新の研究成果を調べても、現時点で「10歳の壁」の根拠といえるものは存在しないことがわかりました。
◯10歳は「壁」ではなく、「飛躍」の時期
   とはいえ、全く何もないところから、「10歳の壁」という考え方がわき出てきたわけでもなさそうです。以前から教育現場では、9歳や10歳頃から学習面などでつまずきやすいことが指摘されてきました
   まとめると、脳科学などの科学的な裏付けはないものの、教育現場の声や障害児教育における課題などが重なり合い、「10歳の壁」という言葉が作り出されたのかもしれません。
   ここまで読んで『それなら「10歳の壁」は気にする必要がないのか』と考えたかたもいるかもしれませんが、私の考えは異なります10歳前後は、ちょうど子どもから大人へと移り変わる非常に重要な心の変化が起こる時期です。それゆえにつまずきが起こりやすいのですが、逆に言うと保護者や教師など周囲の大人の適切なサポートによって、大きな「飛躍」を見せてくれる時期でもあります。「10歳の壁」はネガティブな意味合いで使われることが多い言葉ですが、私はこの時期の子どもは非常に面白い存在ととらえています。保護者のかたも10歳前後の内面に起こる変化を深く理解し、お子さまの成長を楽しみながらサポートをしていただきたいと願っています。

【感想】
   さすがは発達心理学の専門家の教授の方、これまで私たちの誰もが抱いてきた疑問に明快な答えを出してくださいました。答えは「現時点で『10歳の壁』の根拠といえるものは存在しない」でした。しかし、「10歳前後は、ちょうど子どもから大人へと移り変わる非常に重要な心の変化が起こる時期」であるため、接し方には気をつけなければならないということでした。
   私の経験上、特にこの年頃の女子は、
①それまでの素直な自分をキープできるか
②キープできずに崩れるか
のどちらかに別れることが多いような気がします。②の崩れる場合で特に顕著なのは、友達をいじめ始める女児が増えてくるケースです。
   これに関わって以前に以下の投稿をしました。
「『いじめは加害者のストレスによって起きる」』〜いじめ加害者を育てる環境とは?
この投稿で紹介していますが、国立教育研究所の滝充氏は、いじめが発生するメカニズムについて「加害者の子どもたちは、自分が置かれている環境(家族や学級等)に適応できず不満を抱き、それによってストレスを溜め、それを被害者の子どもに向けて発散している」と結論付けています。
子どもたちが、家族や学校でどんなストレスを感じて、いじめに走るかについては今回は繰り返しませんので、上記記事を参照ください。

   今回のテーマは、「10歳の壁」ではなく、「10歳の飛躍」です。どのように子どもたちを支援してあげれば、子ども達が飛躍するのかということです。前出の渡辺氏が言う通り、「10歳前後は、ちょうど子どもから大人へと移り変わる非常に重要な心の変化が起こる時期」です。いわゆる第二次反抗期(およそ12〜16歳)への準備と言えるかもしれません。この子どもから大人への変化に大人がうまく対応できないと「壁」となりますが、うまく対応できれば「飛躍」できるのです。第二次反抗期の子どもへの接し方については以下の記事を参照ください(ちなみに私の投稿記事ではありません)。
第二次反抗期は何歳から始まるの?接し方のコツは?
   この記事では主に次の3点について指摘しています。
少し距離を置いて見守る
②一人の大人として扱う
③子供の意見をいつでも聞く姿勢を見せる

   この指摘を聞くと思い出すのが、私が以前投稿したこの記事です。
これは大ヒット! 子どもが必ず変わります!! 〜『①見守る。②任せる。③命令しない。

この①と②は、ほぼ同じ接し方です。③は、「『命令しない』代わりに『話をよく聞く』」と
いうことだと思います。
   私たちは、職場の同僚に精神的に心配な人がいる時は、①気にかけながら見守り、②悩み事や愚痴を聞いてあげるでしょう。そんな③不安定な同僚に命令する人はいないでしょう。それと同じです。つまり、「不安定な大人」に接するつもりで10歳以降の子どもに接すると、心配な同僚が悩みが消え生き生きと仕事を始めるように、子どもも生き生きと活動を始めるでしょう。ただ一つ違うことは、心配な同僚は以前の元気な同僚に戻るだけですが、10歳以降の子どもは、それまでの子どもとしての行動から、大人としての言動にステップアップすることです。先の渡辺氏が「お子さまの成長を楽しみながらサポートをしていただきたい」と話されていたのは、そのことだと思います。その「飛躍」が見られた時は、「もう大人に近づいているんだね。感心しちゃったよ。」等と認めてあげてください。