【今回の記事】
銀メダルの吉田「力出し切れず、ごめんなさい」

   記事によると、リオデジャネイロ五輪のレスリング女子53キロ級で銀メダルに輝いた吉田沙保里は、「(涙を流し、声を詰まらせながら)たくさんの方に応援していただいたのに銀メダルに終わってしまって申し訳ないです。日本選手団の主将として、金メダルを取らないといけないところだったのに、ごめんなさい。自分の気持ちが、最後は勝てるだろうって思っていたが、取り返しのつかないことになってしまって。」と悔しさを口にした。

   ところで、吉田選手の次の言葉を、私たちどのように受け止めればいいだろうか。
金メダルを取らないといけなかった
ごめんなさい
取り返しのつかないことになってしまって

   これらの言葉を聞いていると、いくつかの疑問が生まれる。
・吉田選手は(敗れた選手は)謝らなければいけないのか
・誰に対して謝らなければいけないのか
・誰のための大会なのか
・「金メダルを取らないといけない」と彼女を追い詰めたのは誰だったのか。

   確かにオリンピックは、国を代表して出場しているという性質上、「たくさんの人に応援してもらったのに結果に応えるなくてすみませんでした」と言いたくなる気持ちは分からないでもない。
   しかし、オリンピック出場までに、そしてオリンピックでの競技の中でも、死ぬほど頑張ったのは選手本人である。つまり、オリンピックは国民のための大会ではなく、選手本人のための大会なのである。
   しかし、吉田選手については、メディアが「霊長類最強」と言うキャッチフレーズをつけ、誰にも負けない選手というイメージを吉田選手につけてきた。そして世の中の私たちも、そのキャッチフレーズをそのまま喜んで受け止め、「吉田選手はきっと4連覇を達成してくれるだろう」と思っていたに違いない。その「勝って当たり前」というプレッシャーは想像を絶するものだったはずである。「世の中の皆さんから『勝って当たり前』と思われている私が負けてしまった」という思いが「取り返しのつかないことをしてしまった」と言う言葉を引き出してしまったのではないか。
   つまり吉田選手の足を引っ張っていたのは、実はメディアに踊らされた世の中の私たちだったのかもしれない。謝らなければいけないのは、逆にその私たちの方なのかもしれない。

   今一度、オリンピックは出場する選手のための大会であるという認識を私たちが持つ必要があるのかもしれない。