40年間高校野球の甲子園大会をテレビで見てきたが、それは初めて見る光景だった。

   八戸学院光星(青森)と東邦(愛知)との一戦。8回を終わって9(八)対5(東)。9回表の八戸学院光星の攻撃は0.。
   東邦の4点ビハインドで迎えた9回裏の攻撃。東邦の攻撃が始まった途端、球場全体の一般のお客さんが東邦高校のブラスバンドの演奏に合わせて手拍子をし始めたのである。甲子園大会を40年間見続けてきた私も、こんな現象を見るのは初めてだった。テレビのアナウンサーも「初めて見る光景です」と驚いていた。
   あの拍手は、おそらく4点を追いかける東邦に対しての応援だったと思う。しかし、守る八戸学院光星にとっては、プロ野球で言うところの“完全アウェー”状態になった。ただでさえ、素人の高校球児は、甲子園球場の4万人以上の観客に見守られながらの試合経験はない上に、その球場全体の観客が敵側の学校を応援しているのである。この状況は一般の高校生にとってはプレッシャーが強すぎる状況ではないかと感じた。テレビの解説者も、あわてて「この拍手は守っている八戸に対する応援でもあると思います」とフォローしていた。
   そのうちに今度は、プロ野球の応援のように観客が自分の持っているタオルを東邦高校のブラスバンドの演奏に合わせてグルグルと振り始めた。こうなると、視覚的に球場全体が一方のチームを応援していることが明確になってしまう。
   その結果、9回裏に5点が入り、試合はサヨナラゲームになった。観客は大喜びであった。東邦も跳び上がって喜び、仲間同士で抱き合って喜んだ。残されたのは がっくりと肩を落とす八戸学院光星の選手たちであった。高校野球連盟はこの状況をどのようにとらえたであろうか。

   お客さんは常に負けているチームを応援し接戦となることを喜ぶ。あの「拍手」も「タオル」もその気持ちの表れであろう。観客が拍手をしてはいけない、タオルを振ってはいけないという約束事などもない。誰が悪いというわけではない。それだけに、ゲーム後も、私は何かよくわからないモヤモヤした気持ちでいっぱいだった。その気持ちが、このまとまりのない文章に表れている。