前回のブログで、福原と石川との不仲の原因は、「2人の愛着スタイル(乳幼児期の親の養育によって形作られた性格のタイプ)が異なっていることから生まれる“ずれ”である」と述べた。ちなみに、「愛着スタイル」とは、精神科医の岡田尊司氏が提唱している考え方で、乳幼児期における親の養育の仕方によって形作られる成人の人格タイプのことである。
   この愛着スタイルはまず「安定型」と「不安定型」とに分けられる。「安定型」は、その名の通り精神的に安定し社会性豊かな人格を意味している。それに対して、「不安定型」には、大きく分けて、「回避型」と「不安型」とがあり、それぞれ前者が“人との交流を避けがち”なタイプの人格であり、後者が“人に対する不安感が強い”タイプの人格を表している。この「不安定型」の愛着スタイルを持つ人間のことを「愛着障害」という言葉を使って表現する専門家もいる。しかしこの人格は先天性のものではなく、生まれてからの養育の受け方で決まるものなので、「障害」という言葉は厳密には当てはまらない。そこで私は「愛着障害」という言葉を使わずに「愛着不全」という言葉を使うようにしている。この「愛着不全」にはどんなタイプがあるのか、またそれは乳幼児期にどんな養育受けたことによって形作られたタイプなのかということは、本ブログの「愛着不全のタイプとその養育の仕方」

   前置きが長くなってしまった。話を本筋に戻そう。
   福原は、“キム対策”の話を持ちかけると、石川が機嫌を損ねるのではないかと不安になった。このように、相手の顔色を伺い心配する福原は典型的な「不安型」の愛着スタイルを持つ人間だと思われる。この愛着スタイルは、幼い頃から親からの厳しい卓球の特訓を受ける中で、よくできた時は大いに褒められ、逆にうまくできなかった時は強く叱られてきたギャップの強すぎる養育によるものであると考えられる。そのために不安感が強い「泣き虫愛ちゃん」になってしまったのであろう。その愛着スタイルは一生変わるものではないとされているので、福原が石川よりも世界ランキングが上に行けないのは、福原のその辺の精神的な弱さに起因するところもあるのではないか。
   一方石川については、オリンピックという世紀の大舞台で、同じ日本チームの福原の勝敗がかかる状況にありながらも、自分の方から積極的に福原に情報を提供しようとしなかった様子から考える限り、石川は、人との交流を避けがちな「回避型」の愛着スタイルを持つ人間ではないかと考えられる。少なくとも2人を見ている限り、石川は福原よりもクールなタイプに見える。この「回避型」の人間は、普段から表情も硬くなりがちで、ややもすると近づきがたい雰囲気を漂わせる。普段からそのような雰囲気を石川が持っているとすれば、「不安型」の福原は、「石川が何かで怒っているのではないか?」と思い込んでしまい、石川と距離を置きがちになってしまう場面が、これまで何度もあったのではないかと推測される。すると「回避型」の石川は、さらに福原との接触を行わなくなるだろう。

   以上に述べたことは、限られた情報から私が推測したに過ぎないことであることをまず断っておく。
   しかしはっきりしていることは、人間同士のトラブルは、それぞれが持っている「不安定型」の愛着スタイルが原因になっている場合がほとんどであるということである。昨今、離婚するカップルが多くなっているのも、“仕事優先”で育ててきた親の養育の中で十分なスキンシップを取れなかったために、「不安定型」の愛着スタイルを持つ人間を育ててしまったためであるという趣旨のことを、精神科医の岡田氏はその著書の中で指摘している。
   それにしても、「不安定型」の愛着スタイルはオリンピックという大舞台の中でさえ悪影響を及ぼす、まさに岡田氏が言うところの「第二の遺伝子」(人の一生にわたって影響を及ぼすという意味)という別名がぴったりである。これからの日本の為にも、1日でも早く乳幼児期(特に「臨界期」と言われる0歳から1歳半の間)の養育の大切さを私たちは見直すべきであると考える。