【今回の記事】
内村航平が大逆転で2連覇 実況アナ「王者が奇跡を起こした」 体操男子総合【リオオリンピック】

※得点詳細

   最終種目の鉄棒を残して内村選手は、約0.901点の差をベルニャエフにつけられていた。この0.901点という差は、相手が“鉄棒から落下”という大失敗した場合にようやく1.0減点になる、それほどの大きな差だったのである。見ていた誰もが、たった一種目でこの差を逆転することは不可能だと思ったに違いない。そして、その最後の一種目に臨むときの内村選手の心境はどうだったのか。私は、内村選手が心の動揺に負けて、内村選手の方が落下してしまうのではないか、そしてメダルさえ取れなくなるのではないかと失礼ながら考えてしまった。そして内村選手の鉄棒が始まった。私の心配もよそに難度の高い手放し技も全て決め、いよいよ着地の場面を迎えた。その着地をしたときの内村選手の姿は、いつも通りのマットに足が吸い付くような完璧な着地を決めた姿だった。得点は15.800と言う素晴らしい結果だった。しかしそれでも、ベルニャエフ選手は最後の鉄棒で14.900の得点さえ出せば金メダルだった。しかし彼はそれまでの種目で15.000以下の点数をいちどもとっていなかった。そしていよいよベルニャエフ選手の演技になった。私はその時心の中で「落ちろ!落ちろ!」と叫んでいた。しかし、ベルニャエフ選手は落下等することなく終え、最後の着地で1歩踏み出しただけで演技を終えた。その瞬間、ベルニャエフ選手はガッツポーズをして勝利を確信した。そして得点が出た。14.800だった。2人の差わずか0.099、仮に内村選手が着地の時1歩でもずれていたら0.100引かれ、0.001差でベルニャエフ選手が勝っていた、まさに奇跡の大逆転だった。
   内村選手は、試合後のインタビューでこう話した。練習を信じていつも通りやりました。『着地は絶対止めてやる』と思っていました。」

   私は内村選手の精神力に感服してしまった。誰もが負けたと思ったあの状況に追い込まれながら、内村選手は、ベルニャエフ選手との争いに集中力を奪われることはなかった。その証拠に、内村選手はベルニャエフ選手の点数を見ていなかったそうである。相手のことなど気にせず、今まで自分がやってきた練習を信じて、いつも通りの演技に徹したのである。そして「着地を決める」という自分の信念を実現させた。まさに内村選手の内村選手らしさを発揮したのである。

   人はとかく、ライバルとの争いに注意を奪われ、焦り、力み、本来の自分の力を発揮できずに終わってしまうことが多い。このブログでも、「リオオリンピック〜自分をどう振り返るか〜」(http://s.ameblo.jp/stc408tokubetusien/entry-12188880025.html)の中で、競泳の池江璃花子選手の「自分との戦い」という考え方を紹介し、最後に、「オリンピックはまだまだ続く。選手たちには、今までの自分の中で最高の演技をするということを目標に自分らしい演技ができるように頑張って欲しい。」と述べた。まさに内村選手は、いつもの自分らしさ、そして自分ならではの信念を貫き通したのである。

   最後に、試合後のインタビューで、内村選手のお父さんがこうおっしゃっていた。「いつもみんなから愛される体操選手になって欲しいと願っていました。」やはりどんなに高い体操の技術を持っていても、親が一番に願うことは「人から愛される人間になってほしい」、それが親心なのだと改めて感じた。彼こそ、まさに国民から愛される証である「国民栄誉賞」を贈られるにふさわしい人間なのではないか。