【今回の記事】
NHKスペシャル「決断なき原爆投下 〜米大統領71年目の真実〜

   明日は、長崎に原爆が投下された日である。
   アメリカでは、「原爆投下は戦争を早く終わらせ、数百万の米兵の命を救うため、2発が必要だとしてトルーマン大統領が決断した」とする、大統領の明確な判断のもとに決断された意義ある作戦だった、という捉え方が今も一般的であるが、その定説が今、歴史家たちによって見直されようとしているというのだ。広島と長崎への原爆投下は、当然大統領の決断、指示によるものだと思っていた私にとって、この特集番組はあまりにもショッキングな内容であった。

   実はトルーマン大統領には、軍を統率する力はなく、原爆投下を巡る決断は、終始軍の主導で進められ、大統領は軍の決断に追随していく他なかったというのだ。
   トルーマン大統領自身は「一般市民の住む市街地には投下しない」と考えていた。しかし実際には、大統領のその方針は無視され、軍の決断で、広島・長崎の「市街地」への投下に至った。シビリアンコントロールの崩壊である。
   それにも関わらず大統領は、戦後しばらくたってから、原爆投下を「(大統領である私が)必要だと考え自らが指示した」と世界に対してアナウンスしていたのだ。それは、自分の大統領としての統率力の無さを世界に知られたくなかった、つまり自分の保身のためについた「嘘」だったのだ。
   しかし、同時にその「嘘」は、結果的に世界のリーダーたるアメリカが、「戦争を終わらせるためには、罪のない一般市民を巻き添えにすることもやむを得ない」という事を、全世界に宣言したことになってしまったのだ。
   そして、終戦から70年以上経った今、歴史家たちによって、ようやく核兵器に対するその誤った考え方にメスが入れられようとしている。しかし大統領が自分の保身のためについた「嘘」が暴かれるのに要した70年という時間はあまりにも長すぎるものであり、それと同時に、人類の愚かさをも物語っている。

   いずれにしても、現実に広島と長崎の市街地に原爆が投下され、何の罪もない一般市民の命が失われたという事実は永遠に変わることはない。一部の人間が感情に走り、組織が組織としての機能を失った時、取り返しのつかない歴史をも作ってしまうのだ。