人類は男と女が子どもを産んで2人で育てて今の文化を創ってきた。つまり、人類の繁栄のためには、男と女の存在が当然のように不可欠である。
   さらに人類は、男と女のそれぞれの役割にも区別をつけてきた。それが、「母性」と「父性」である。今回は、精神科医の岡田氏の文献を元に、それぞれの役割を紹介したい。

   母性の役割は、これまでに繰り返し述べてきたように、子どもにとっての「安全基地」である。子どもが社会の荒波に揉まれる中で抱いたストレスを癒す場所である。つまり、子どもの“受容”である。また、その「安全基地」を獲得できるかどうかは、特に乳幼児期の母親の養育にかかっている。
   父性の役割は、母親に守られている子どもを母親から離し、実社会へと送り出すことである。もちろんこれは、母親と子どもとの愛着(愛の絆)を形成するために最も大切な「臨界期」と呼ばれる0歳から1歳半をすぎてからである。その前に母親から引き離されると、愛着が形成されず、一生の人格形成に影響を及ぼす。ある車のCMで、父親(D氏)が母親の代わりにまだ乳母車に乗っている赤ん坊の世話をしようと出かけたら、すぐに赤ん坊が泣き出し、母親のもとに戻ってくる、という場面がある。もっともな話である。
   しかしこの時期が過ぎると、いわゆる「母子分離」の時期が始まる。この時に父親が子どもを母親から離してあげる「母子分離の補助」をするのである。これに反して、いつまでも母親と一緒にいると、母子分離が達成されず、学校に通う時期になっても母親の手を離そうとせず泣き叫ぶ子どもになるのである。そこで、父親が子どもに不安感を与えないように笑顔で母親から上手に離してあげる必要がある。
   それが成功したら、次は「遊び」である。遊びは実社会への入り口である。楽しい時間を過ごし、実社会デビューをはたすのである。
   それが済んだら、いよいよ父親の真骨頂の仕事が待っている。それは「躾(しつけ)」である。父親がいないと、子どもの犯罪率は高くなることが研究で証明されている。母親の一人親家庭で、母親が子どもの躾をしようとしても、どうしても
自分のお腹を痛めて産んだ母親は、子どもを受容する働きを持っているため、つい甘やかしたり、逆に強い母子間の絆を求めようとする余り、過干渉になったりしがちである。一方で、父親の一人親家庭では、子どもは、父親の厳しさだけを受け続け、そのストレスを癒す場所がなくなるのである。

 以上をまとめると、
母親の役割は、子どもが抱いたストレスを癒す「安全基地」としての存在。つまり、子どもの“受容”
父親の役割は、①母子分離の補助、②子どもの遊び相手、③社会のルールや厳しさを教える躾役

   このように、母性と父性には、それぞれ違った役割がある。ところが昨今は、父親が母親に暴言を吐いたり、逆に母親が父親をいじったりダメ出ししたりする家庭が少なくないことから、おそらく「父親と母親の役割はどちらも同じ」と認識しているのではないかと推測される。やがて子どもは蔑ろにされている方の親を軽視するようになり、言うことを聞かなくなる。つまり、自分がパートナーを蔑ろにしている分、実は子どもにその役割が施されなくなり、結果的に自分自身が子育てに苦しむことになるのである。

 一人親の場合は、父母両性の役割の違いを認識した上で、場面に応じてそれぞれの役割を使い分ける必要がある。
 因みに、本ブログ筆者は、岡田氏を始めとした専門家らの指摘をもとに、それぞれの役割を使い分ける場面の主な目安について、次のように考えている。
母親の役割が必要になるのは、子どもが、萎縮、内向、抵抗、攻撃などの精神的不安定な状態に陥った時。
父親の役割が必要になるのは、子供が精神的な問題を抱えず、通常の活動が行える時。