夕食前、居間で僕がiPhoneをいじっていると不意にLINEからの電話がかかってきた。
電話だろうがメッセージだろうが僕は音が鳴らないよう設定しているので、その時も画面の上から一瞬通知が顔をのぞかせるだけですぐに隠れてしまった。
いったい誰からの電話だったのだろうか。うーむ気になる。
普段は気づかないLINE電話の通知も今回はリアルタイムで確認することができたし、もしかしたら女の子からかかってきたのかもしれない。
ワンチャンある。ワンチャンある。
淡い期待を握りしめ、LINEを開く。
見るとクラスの男友達からの電話だった。
ええ、そうでしょうとも。わかってましたよ。そんな女の子から、なんて本気で思っちゃいませんよ。
しかし彼が電話とは珍しい。わざわざ何を急ぎで伝えることがあるのやら。
僕はかすかなワクワクを胸に(女の子からなら本当にワクワクだったのだけれど)彼の通話に応えた。
「もしもし、きひろ、外見てみろよ。月、月だって」
どうも彼は皆既月食のことを僕に律儀に電話で教えてくれたらしい。そういえばTwitterでそれらしいことを騒いでる人がいたなぁっと思い出す。
でもならば、尚のこと、そのようなシチュエーションなら女の子からかかってきてくれればよかったのに、と心の中で苦笑い。
彼の親切心には悪いが、星空トークを女の子としてみたいという願望があった僕の初めてをよもや彼がかっさらっていくとは、なかなかのユーモアだった。
ともあれ月食の様子を見てみたいと思った。電話をかけたまま僕はサンダルをひっかけて玄関先へとのそのそ出てきた。
見ると、下の方が欠けて大福みたいになっている月が浮かんでいた。
おー、本当に月食だ。ほんのちょっとだけれど。
それから十数秒通話をしながら月を眺めていたが、月食が思うように進まず夜風は冷たいうえに男子と一生懸命電話でやりとりしている、というシチュエーションになんだから虚しさを覚えてしまった僕はさっさと家の中に戻ることにした。
そのとき、向かいの加藤(仮名)さんの家の庭の柵になにやら丸っこいフワフワしたシルエットをとらえた。
猫だ、茶色の猫がどうやら丸まって座っているようだ。首輪も付いている。
うーんかわいい。
近づいてみようとしたら、その柵の下のアスファルトにももう一匹猫がたたずんでいた。
口元が白い野良猫で、うちの庭によく来る猫だった。ちなみに名前はデンさん。あんまり良く来るので勝手に僕が付けた。
月のことなんかすっかり忘れ、通話も切らずに猫の気を引くことに必死になった。デンさんには餌をあげたりしているので来てくれると嬉しい。
飼っている猫を呼ぶのと同じようにアピールをかけてみる。
お、きたきた。
……止まっちゃった。
一定の距離を取られたまま、結局見つめ合っただけでデンさんは加藤さんの庭に消えてしまった。
なんだか本当に悲しくなってきたのでさっさと家の中へ戻り、我が家の猫様の腹に顔をうずめて慰めてもらった。
