平成20年度 新司法試験

公法系第2問(行政法) [設問2]


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〔設問2〕
第1 調査について
1 調査の実体法上の違法事由として、平等原則違反および介護保険法100条1項違反が挙げられる。
(1) 本件において、B県は介護保険法100条1項に基づく調査を実施しているところ、Aによると、ほかの施設では行政指導として実施指導が行われているという。
 通報が入ったにすぎない段階で、Aに対してのみいきなり法律に基づく調査を行うというのは、Aをほかの施設と不当に区別したといえ、平等原則違反(憲法14条1項前段)に反し、違法である。


(2) 介護保険法100条1項における調査は、行政調査のための立入調査である。
 立入調査においては、一般的に強制力を行使して行うべきではないと解される。
 なぜなら、司法官憲の令状もなく、プライバシーの侵害が大きく、通常はそこまでの緊急性が認められないからである。
 それにもかかわらず、本件においては、Aの抗議にもかかわらず、強制的に調査に着手し、帳簿等書類を段ボール箱に詰めて持ち帰っている。
 したがって、本件調査は、介護保険法100条1項の調査の趣旨を逸脱するものであり、違法である。


2 調査の手続法上の違法事由として、身分証の不提示が挙げられる。
 本件において、B県職員は、Aの職員から、身分や調査の趣旨を説明するよう要請されたにもかかわらず、身分証の提示を拒否している。
 これは、介護保険法100条2項、24条2項に違反するものであり、手続法上の違法事由となる。


3 そして、本件調査は、勧告と密接不可分の関係にあることから、調査に違法がある場合には、勧告も違法になると解すべきである。


第2 勧告について
1 勧告の実体法上の違法事由として、事実誤認が挙げられる。
 本件勧告書には、①常勤の看護師、介護職員の人員を確保すること、②身体的拘束の廃止に関する普及啓発を図ること、が示されている。
 しかし、これは調査の手順がひどい上、その中身も誤りであることから生じたものである。
 具体的には、調査が一部の出勤簿を対象としていない上、実施された特定曜日以外に週5日働いている看護師2名、介護職員5名を計算に含めていないなど、人員の把握を誤っており、また、身体拘束については、ベッドからの転落防止を第一に考え、5時間に限って、入居者家族の同意を下に1名のベッドに柵を設置しただけであり、常時の身体的拘束に該当しないことが挙げられる。
 したがって、これらの改善を促す勧告は違法である。


2 勧告の手続法上の違法事由として、理由付記の不備が挙げられる。
 本件勧告は、直接国民に義務を課すものであり、「不利益処分」(行手法2条4号)であるから、Aに対し、不利益処分の理由を示さなければならない(同法14条本文)。
 理由付記制度の趣旨は、処分権発動について行政庁の恣意を抑制し、被処分者の不服申立てに便宜を与えることにある。
 そこで、理由付記においては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して不利益処分をするのかを被処分者に知らしめることが必要であると解する。
 本件において、B県知事からAに対する勧告書には、勧告の基礎となる事実は示されていない。
 したがって、勧告の理由付記としては不十分であり、違法である。
                               

                                以上



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解答用紙は、大体5枚いっぱいor6枚目に少し突入するくらいです。

それを書くのに約1時間10分。

少し早めに書けるようになりたい。