舞台『マーダーファクトリー』。
作品の問いかけに対する自分なりの答えが見つからず、モヤモヤしたものが残っています。

作品がダメだったとかそんなことでは決してありません!
むしろ、いろいろ考えさせられる貴重な作品に出会えたと思っています。


保田圭ちゃんはじめ、藏信貴さん、加藤慶祐くん、安倍麻美ちゃん、瀬戸祐介くんなどなど。
キャストの方々の多彩な演技にも楽しませてもらいました。

だからこそ、作品に対する答えを自分なりに見つけたいと。
この作品に、真摯に向かい合いたいと思っています。



そんなわけで、自分の頭の中を整理するという意味も含め、ダラダラとまとめています。
一つの記事に簡潔にはうまくまとめられませんでした(苦笑)

150分の長い作品ですし…。
気になったポイントもいろんなところにありましたし…。

という言い訳はさておき。
DVDにはならない作品ですので、どうにか忘れないように書き留めておこうと思っています。






ニ幕。

アキラの策略により、エリの周りから仲間が消えていく。コウ、タケ、マサヤを次々と“ラット”の待つ場所へ誘導し殺害させるアキラ。自分に疑いの視線を向けるアリサの首を絞め、心臓の発作を誘発。彼女もまた死を迎え、彼女を失ったサトルに“ラット”を差し向ける。こうしてすべてを失ったエリは、何も知らずにアキラだけを心のより所にしていく。



一幕で姿を消したミクに続いて、次々とエリの仲間がアキラの手に掛かります。
コウの恋心を利用したり。
タケの責任感を利用したり。
マサヤの愛情を利用したり。
彼らの知っているアキラの顔に、時々のぞく“悪魔”の顔。
加藤くんのこのさじ加減は見事だと思います。

サトルの死を知り、亡骸にすがりつくエリ。
どれだけ仲間を失っても気丈に振る舞っていたエリが泣き叫ぶ姿。
麻美ちゃんの熱演にこみ上げてくるものがありました。




解決済みの事件の捜査を続ける青木刑事たち。彼らはアキラが小6の時に書いたという物語を見つける。タイトルは「悪魔の物語」。その内容は、大地震が起きたことも含め、今実際に東京で起きていることそのものだった。アキラが地震の予知をできたという高校時代の教師の証言もあり、青木刑事と楠本刑事はある重大なことに気付く。もう一人だけ、地震の予知ができた者がいたことを。



このあたりの刑事たちのやり取りは本当にテンポがいいです。
セリフがかぶるんじゃないかというくらい早いリズムで進んでいきます。
そんな中で、この場面のラスト。
アキラの他に地震を予知した人物に気付いた2人の刑事。
それは誰か?と後輩たちに聞かれ、「ラットの教祖」と答える楠本刑事。
青木刑事との掛け合いとはまったく違う、けいちゃんの低い声。
久々に聞くけいちゃんの低音は、腹の底から出ている感じに重厚感がありました。
オォッと思い、ここも嬉しくなる場面でした。




“バスター”は、着々と“ラット”を排除し、成果を上げていた。“ラット”が絶滅寸前となり、“バスター”の次の使い道を考える重森館長と林田教官。勝手に動き出そうとしている彼らを許さない“マーダーファクトリー”の発案者。正義の組織を作り上げ、“神”とも呼ばれたその人物。それもまた、アキラであり、彼の別の顔なのである。



組織は自分の思うがままに動かせると考えていた重森たちにストップがかかり、「聞いてない!」と激しく憤る重森館長。
自分の思いのままにならない怒りと、プライドを傷つけられた悔しさを感じました。
進藤さんの目力がハンパなかったです。

“悪魔”の組織“ラット”を作り上げ、また、“正義”の組織“マーダーファクトリー”の発案者でもあるアキラ。
彼の“悪魔”の部分を知らない人が、彼を「“神”のような人」だと褒め称える。
そう言われたアキラの嬉しそうな顔。
その満面の笑みが、正体を知っているこちらとしては不気味でなりません。




刑事たちが見つけたアキラ作の「悪魔の物語」。さらに続きには、“悪魔”が“神”に変わる方法が。誰もが憎む“悪魔”を倒せば、“神”になれる。それはまさしく、アキラが今行っていること。自分が作った“ラット”を、自分が作った“バスター”に始末させれば自分は“神”となれる。
その真の狙い。それは愛する人の大切なものをすべて奪い、自分だけに振り向いてもらうこと。アキラにとっては、エリを自分だけに振り向かせ、そのまま命を絶ち、永遠の自分への愛を手に入れること。エリのところに駆け付ける2人の刑事。



こうして、アキラが子どもの頃に書いた作文のままに社会を動かしていたことがわかるのですが、証拠や証言が次から次へと出てくるのはご都合主義という気もします。
さらに、エリのところへ駆け付けた青木刑事が、アキラの計画を話し始める推理ショー?
ステージ中央を動き回り、ペラペラ披露する藏さんは気持ちよさそうですが。
観ている側としては、そこまでのおよそ2時間、観劇していたものの説明を繰り返されるだけなので。
アキラの心に迫ろうとする部分が無ければ辟易していたと思います。
実際、ステージの奥でアキラに対して銃を構えている楠本刑事と。
その反対側でエリにナイフを突きつけているアキラ。
背景の方に注目したくなりました。

保険金目当てに自分を殺そうとした両親と母親の愛人をアキラが殺した昔の事件。
子どもの頃に犯した罪の意識が、アキラを苦しめ、自分を“悪魔”だと思い込みすべてを計画したとか。
子どもの頃の事件は愛していた母親に裏切られたことへの逆襲だとしても。
今回の事件の最終目的は、エリ一人を手に入れるためなのか?とか。
やはりまだよくわかりません。

また、アキラをかばい続けたエリ。
小学生だった彼女が、殺人を犯した彼の嘘のアリバイを証言し、かばったのは純粋さゆえの強い気持ちだと思いますが。
でも殺された愛人はエリの実の父親。
父親の裏切りに気付いていたとはいえ、そんな風に割り切れるものなのか?とも。
今回の事件の真相もすべて知り、最愛の弟にまで手をかけた“ラット”を率いていたのがアキラだと知ってもなお、彼をかばおうとするエリ。
その気持ちは理解に苦しみます。




重森たちに裏切られ、その裏をかきながらも、最後は彼らの銃弾に倒れたアキラ。アキラに寄り添うエリ。自分と離れ離れになった昔の事件の後も、彼には幸せな人生がなかったことに涙する。



アキラを思いやり続けるエリに楠本刑事が問いかけます。
この、「どうして?」という思いが詰まったけいちゃんの絞り出すセリフ。
声の温度を感じるほど、思いのこもったものでした。
それに答え、アキラのことを語るエリ。
麻美ちゃんも一番の熱演でした。






アキラを理解し、愛してあげる人が側にいたなら彼は変わったのか?
こんな事件、起こさなかったのか?
そう単純に結論付けるのは違うような気がしています。

ひねくれた考えかもしれませんが、裏を返せば、
アキラのような境遇ならば、こんな事件を起こしても仕方がない
という結論になってしまいかねないと思うからです。
それが怖くて。


もし、エリがずっと側にいたならば彼は救われたのか?
ゔ~ん…。
エリを求めていた彼ですから「救われない」とは言い切れないと思いますが。
でも、愛する母親を殺した罪の意識にさいなまれてその後の事件を起こしたというならば。
エリといることで、大事なエリの父親を殺した罪の意識にも押しつぶされてしまったのではないか?
と考えてしまいます。



じゃあ、どうすればよかったのか?

観劇以来、自分なりにいろいろと考えてはいますが。
未だに答えがみつかりません。
それが残るモヤモヤの原因となっています。