ハルオさんとの今回のケンカ小競り合いで
 
思い出した男が二人いる。
 
 
 
一人は婚活サイトで出会ったタクシードライバー。
 
婚活レポを書いていた頃には「ドラ男くん」と書いていた男だ。
 
離婚歴あり
 
中目黒の賃貸マンションに住んでいた。
 
初回の待ち合わせ場所は、渋谷ヒカリエの帽子売り場。
 
ご本人の「帽子が好きだから」が、待ち合わせ場所の理由だった。
 
ファーストインプレッションは「うひゃあ」。
 
だって、ハンチングに革ジャンに白パンだったんだもの。
 
似合っては、いた。
 
オシャレさんだと思った。
 
だから、会った瞬間に私はもう疲れていた。
 
連れて行かれたのは公園通り裏の瀟洒なフレンチレストラン。
 
ランチにしてはお高い方のお値段のコースをご馳走になった。
 
私を気に入っていただいたらしく
 
次回の探りを入れて来る。
 
この人とお付き合いをすれば、私の好きな場所好きなことに
 
付き合っていただける、とは思った。
 
本人がお洒落なレストランやカフェが好き、と言っていたからだ。
 
だけど、ご職業は転職したてのタクシードラーバー。
 
職業的偏見が入っていますが許してください。
 
ご本人の申告では
 
かなり優秀なドライバーだと言うことで
 
長距離客を見つけるのが得意、と言っていたけれど
 
それはたぶん
 
かなり無理をして得ているのかもしれないし
 
洋服にしても食事にしても、お洒落好きということは
 
そこにお金をたくさん使っている、ということで
 
仕事のイメージとは一致していない気がした。
 
住まいだって中目黒だったし。
 
賃貸で、中目黒に住む必要がある?
 
もっと堅実な場所に住めばいいのじゃない?
 
きっと
 
離婚の原因はこういうことなのじゃないかって
 
だから
 
お高いフレンチをご馳走になったけれど
 
フェードアウトに持ち込んだ。
 
 
あのときの
 
私の判断は間違っていなかった、と思う。
 
 
 
 
 
 
 
思い出したもう一人は、10年ほど前に通っていた
 
絵画教室の講師。
 
教室はセレブの方たちが多く住む場所にあって
 
当然ながら、セレブな奥さまたちが生徒の多くを占めていた。
 
教室には4、5年通ったかな。
 
講師はいわゆる売れない画家だったから
 
アトリエ兼住居は生徒の一人がパトロンになって
 
ご自身の所有する建物を無料で
 
講師の好きなように使って、と提供していた。
 
講師はその建物をリノベーションして
 
とてもお洒落な空間に変えて棲み着いていた。
 
講師に気に入られれば
 
アトリエでのパーティーに招待していただけた。
 
たくさんの書きかけの絵、油絵の具の匂い
 
センスの良い小物たち
 
天井の高いアトリエと
 
小上がりになったシックな和室。
 
講師の周りに集(つど)っているのは、
 
不動産業者や弁護士や医者や銀行&証券マンの妻たち
 
あるいは、これらのご職業の男性たち。
 
その中に
 
溶け込んでいる私が、私は得意だった。
 
 
 
 
講師がなぜ、私を招待してくれたのか。
 
 
 
 
それは、私が講師の絵を買ったからだ。
 
講師は度々、個展を開いていた。
 
個展に来訪するのは、もちろん生徒や関係者ばかり。
 
ギャラリーで開かれるパーティーは
 
派手な人たちばかりが集まっていて
 
その中に、自分が入っていることに
 
私は得意になっていて
 
いわゆる高揚感に包まれていた数年間だった。
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
講師から買った絵は
 
写真のSM(サムホール)で8万円だったかな?
 
もちろん、生徒割の金額。
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 
これは6号で23万円。
 
もちろん生徒割。
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 
こちらは3号で14万円だったかな?
 
もちろん超!お得な生徒割だ。
 
 
 
 
四六時中開かれるパーティーや宴会は
 
お洒落な場所ばかりだったし
 
第一、教室自体がお洒落な場所にあったから
 
この程度の投資なんぞ、なんでもなかった。
 
 
 
 
だけど、それが
 
とても馬鹿馬鹿しいことだと気付いたのは
 
東日本大震災がきっかけだった。
 
 
 
 
 
あの災害があって
 
ボランティアで月に何度も東北に足を運んで
 
泥に塗れて
 
身体がクタクタになるのに反比例して
 
心は豊かになったから。
 
 
 
 
 
 
お洒落なもの
 
お洒落な場所
 
お洒落な食事
 
今も好きだけれど、身分相応で楽しめれば
 
それが一番。
 
 
 
 

 

 

 
講師が「具象」だと主張する絵が「抽象画」にしか見えない私には、
 
後生大事に飛行機の機内に持ち込んで運んで来た
 
バリ絵画くらいがちょうどよろしい。
 
 
 
 
分かりやすい、と言うことです。
 
 
 
 
 
だから何というか
 
ハルオさんの堅物なところが腹が立つんだけれど
 
ハルオさんのような経済観念の男性が
 
私にはちょうどいいのよ。
 
 
 
ハルオさんは
 
ランチのお値段とディナーのお値段との開きがあるお店では
 
絶対にランチしか食べない、という経済観念の
 
石頭なのだけれど
 
私にはちょうどいい夫なのだ。
 
 
 
少なくとも
 
自分自身の権威付けのために
 
(不要な)BMWとか買ってしまう私の暴走を止める役には立っている。