ノッポさんちに

 

パウンドケーキ型のアップルパイを持参した。

 

好きなだけカットして食べて、と手渡したら

 

ノッポさんは端っこを5センチくらいカットして

 

お皿に置いて食べ始めた。

 

でも、端っこだったから、パイの中身よりも生地の方が多くて

 

そしてどうやら、その生地が固かったらしい。

 

 

 

固いですねえ。

 

固いですねえ。

 

固いですねえ。

 

 

 

 

ノッポさんは何度か同じ言葉を繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わるのを見届けてから

 

どう? 

 

美味しかった?

 

と、ノッポさんに聞いた。

 

 

 

 

やっぱり高野の方が美味しいですねえ。

 

 

 

 

素敵な返事は期待していなかったけれど

 

かっちーん、ときた。

 

 

 

翌朝、私も少しだけカットして食べた。

ユーハイムには申し訳ないが

アップルパイはとりたてて美味しくはなくて

リンゴが少なくて、リンゴの代わりにスポンジが入っていて

生地は固かった。

 

 

 

美味しくないね、これ。

 

 

 

でしょう? 美味しくないですよね。

 

 

 

 

 

ノッポさんは、本当に正直だ。

 

 

 

 

 

その日の夜に残っていたアップルパイを

 

ノッポさんが二等分にして

 

二つのお皿に分けて

 

端っこを自分の前に、中の方のを私の前に置いた。

 

私はすかさず、二つのお皿を入れ替えて

 

端っこを私の前に置いた。

 

するとノッポさんがまた入れ替えて

 

端っこを自分の前に置いた。

 

 

 

 

 

端っこが自分のでいいですよ。

 

 

 

 

 

 

このジイが、こう言うのは想定内だが、かっちーん

 

 

 

 

 

何、言ってるの?

 

このアップルパイは私があなたに食べてもらおうと思って

 

持参したのよ。

 

だから私が真ん中をあなたの前に置くのは当然でしょう?

 

それを何?

 

端っこは固い、って言っておきながら

 

自分の前に端っこを置くなんて

 

私がそれでいい、と思うわけないでしょう?

 

だいたい何よ。

 

せっかく手みやげに持参したのに

 

固い、固い、言って。

 

持って来た私に失礼だと思わない?

 

美味しくなくても「美味しい」って言うのが礼儀じゃないの?

 

っていうか

 

いただいたものは、どんなものでも

 

ありがたい、と思って食べなきゃいけないんじゃない?

 

 

 

 

 

 

 

そしたら珍しく、ノッポさんが反撃に出た。

 

 

 

 

 

いや、自分は美味しくないものは美味しくない、

 

と言ってもらった方がいいですね。

 

言ってもらえれば、次からは気をつけますから。

 

 

 

 

 

はあ?

 

何、言ってんの?

 

せっかくご馳走してくれているものを

 

美味しくない、なんて言えるわけないじゃない。

 

そんな失礼なこと、私には言えません。

 

美味しいと言ってしまっても、本当は美味しくなかったら

 

次に誘われたときに、断るから。

 

でも、

 

美味しくなかったから、とは言わないわよ。

 

別の物が食べたいなあ、って言うわよ。

 

 

 

 

一気に捲し立てたら

 

ノッポさんは大人しくなって

 

何も言わずに、アップルパイの真ん中を食べておりました。