민용(@star_blue2228)

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「消せない記憶」















代わりなんか作らないでよ...

寂しさを他の何かで埋めようとしないでよ...

ジョンシンのそういうとこ.....


嫌い.......






『なんでそんな事で怒るの?』

「そんな事?私の怒る理由なんて、ジョンシンにとってはそんな事なの?」

『そういう意味じゃなくて.....』

「じゃあどういう意味?」

『だからそれは.....』

言葉を上手く選べずに、言い淀むジョンシンに私は言った。

「ジョンシンのそういうハッキリしないとこ、ホント嫌い」

『.........』

「帰る」

『ちょっと待ってよヌナ』








end



私だってホントは帰りたくなんてないよ.....


もっと一緒にいたいよ.....



喧嘩の原因は、1枚の写真。
ジョンシンのSNSにUPされた1枚の写真。

ジョンシンの腕枕に、安心した顔で寄り添うジョンシンの新しい家族、シンバ...

私の一番いたい場所を独占して、幸せそうに眠るシンバと、その横で幸せそうに微笑むジョンシンの写真。

何もしなくてもジョンシンに無条件で愛されているシンバ.....

ジョンシンの愛は、私だけに向けられていたはずなのに.....



嫉妬のような、苛立ちのようなこの感情はやっぱり寂しさの裏返しで.....

だけどやっぱり私には、シンバの事だってジョンシンの言うように『そんな事』なんかじゃなくて.....

だから私は、帰るなんて強がってジョンシンの部屋を飛び出したのに.....



玄関のドアが閉まる瞬間に、寂しさばかりが私にのしかかる。

「......ジョンシンのバカ.....追いかけてよバカ.....」






喧嘩の後はいつもそう、ジョンシンからの『ヌナゴメン』のメール.....

私はそれに返信しない。

謝って欲しいわけじゃない。

ただ.....私の言えない気持ちをわかって欲しいだけなのに.....

どうして何度も謝るのよ.....







数日置きにUPされるジョンシンのSNSは、それでもやっぱりシンバの写真ばかりで.....

ねぇジョンシン.....

私の気持ちなんてわかってないの?



そしてジョンシンのメールは今日もまた


『ヌナゴメン...』

私は感情のない冷たい文面で

「私の気持ちわかってない」

それだけ返信した。

『正直どうしていいかわからない.....』

すぐに返信されたジョンシンからのメール。

「それを私が教えてあげなきゃいけないの?」

我ながら冷たいと思う、愛の欠片も探してもらえないようなそんな文面。



ジョンシンの絶句したような顔が思い浮かんでいた。
返す言葉が見つからないのか、ジョンシンからの返信がピタリと止んだ。

ジョンシンのバカ.....



「ジョンシンのそういうとこ嫌い」

私はそう送信して、携帯をテーブルに伏せるように置いた。




男のくせに.....
そういう言い方は本当は好きじゃないけど、男らしく強く諭して欲しい時だってある。


気付いてよバカ.....


食欲がなくなるのはジョンシンのせい。

眠れないのもジョンシンのせい。

私がこんなふうになっちゃうのは全部全部ジョンシンのせい。

涙よりも溜息が出ちゃうのもジョンシンのせい。

こんなに大好きなのに、嫌いと言わせるのもジョンシンのせい。

私の頭と心をいっぱいにしてるジョンシンのせい。



こんな思いごと手離してしまえたらどんなに楽になれるだろう...


その時は神様...






ジョンシンとの思い出も私の記憶から消し去ってね...


じゃないと私...






あの日私を抱きしめてくれたハグの温もりを持ったまま生きているのが辛いから.....







よく晴れた日曜日...


ジョンシンとお弁当を持って訪れた事のある公園を、私は一人で歩いていた。

少しずつ色付き始めた樹々の紅葉と、柔らかに吹き抜ける、風に揺れる葉音を聞きながら、秋を感じる。


『秋になったらさ、2人で紅葉見に来ようね♡』

そう言って笑ったジョンシンの顔が浮かんできて、涙が出そうになった。



ジョンシンのバカ.....
嫌いになれるわけないじゃない.....

近くのベンチに腰を下ろして、涙がこぼれ落ちないように空を見上げる。



足元にくすぐったい感触を感じて目をやると、仔犬が足元で私を見上げていた。
その可愛さに私は仔犬を抱き上げて膝の上に乗せ、頭を撫でた。
目を閉じて心地良さそうにする仔犬を見ているうちに、私の心が少しずつ安らいでいくのを感じていた。


『シンバ!』

.............?

私は驚いて顔を上げる.....

「ジョン...シン.....」

『シンバお前ずるいよ!俺より先にヌナのとこ行っちゃって!』

「シンバ....?」

『そう、シンバ。ほらシンバ!ヌナに挨拶は?』

ジョンシンのその声に応えるように、シンバは私の手にその小さい手をそっと乗せた。
その様子を見てジョンシンは満足そうに笑顔を見せた。
ジョンシンは、シンバを自分の腕に抱き上げて、顔を覗き込むとシンバに話しかけた。

『なぁシンバ。お前にも紹介するからよく聞けよ?この人が、俺の世界で一番愛してる人だよ』

ジョンシンのその言葉がわかるかのように、シンバは《ワン!》とひとつだけ鳴いて、ジョンシンの顔を舐めた。

私は胸がキュンと苦しくなるのを感じていた。自分の掌を胸に置いて呼吸を整えようとしたが、次第に涙が溢れた。

「ジョンシン.....」

ジョンシンはシンバを自分の足元に下ろすと、涙で濡れる私の頬を両手で優しく挟み込んだ。

『ヌナ愛してる♡』

「..........」

ジョンシンに手を引かれ、ベンチから立ち上がる。
ジョンシンは私の泣き顔ごと包み込むようにギュッと私を抱き締めた。

あの日のハグよりも、ずっと温かくて優しいジョンシンの腕に、私はしっかりと包まれた。

ジョンシンが切ない声で語りかける。

『ヌナ...俺の事、嫌いとか言うなよ。俺から離れようとしたりすんな』

「ジョンシン.....」

『もしヌナが俺の事ホントに嫌いなら.....





俺の記憶からヌナとの思い出も全部持って離れろよ.....それが出来ないんだったら俺の側にいろ』


ねぇジョンシン.....


私も同じ事思ってたよ.....


不器用に抱き締められたその腕の中で、私は涙に濡れたままで、ゆっくりと顔を上げてジョンシンを見つめる。
そうすると、ジョンシンも目線を下げて私を見つめた。


心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、私は少しだけ背伸びして、ジョンシンにキスをした.....

『Let Me Know』










『愛してるよ』

ヌナを抱き締めてそう言っても、何故だろう安心出来ないこの想い...

『愛してる』そんな言葉で伝えられない思いがこの胸にあるのに、『愛してる』以外の言葉が見つからない。

「愛してるよヨンファ」

ヌナにそう言われても、何故だろう何かが足りなくて、強く抱き締め合ってもまだ足りなくて.....




抱き合って眠って目覚めた朝はいつもヌナの方が早起きで、俺はベッドに1人取り残されて目覚める。

『ヌナ~♡』

「ん?起きたの?寝坊助ヨンファ君♡」

『そうやってまた子供扱いする』

「してないよ」

『ヌナちゃんと眠れたの?』

「寝たよちゃんと」

『ねぇヌナ、夢に俺出てきた?』

「残念だけど.....夢も見ない程ぐっすり寝ちゃった」

『なーんだ俺の夢にはヌナが出てきたのに』

「なーんだって何よ。昨日は誰かさんが激しいから疲れてたの」

『誰かさんって?』

「ヨンファ以外に誰がいるのよ」

『だよね♡』

「ねぇヨンファどんな夢見たの?」

『知りたい?教えてあげるから、ハイこっち来て』

手招きすると、ヌナが俺の方にやって来て、すぐ側に腰を下ろした。
横になっている俺を覗き込むようにしながらヌナが俺に尋ねる。

「どんな夢?」

もっとヌナと近付いていたくて、俺はベッドの中にヌナを引き入れて腕の中におさめた。

『夢の続きしてもいい?』

ヌナに覆いかぶさるようにして両手首を捕まえる。

「ちょっと...もうヨンファのエッチ」

ヌナはそう言うと、照れたように顔を赤らめた。

『ヌナ俺の事好き?』

「....えっ.....好きだよ」

みるみるヌナの顔が真っ赤になっていくのがわかる。

『こうしてるとドキドキする?』

「.....するよ」

そんなヌナが愛おしくて堪らなくて、見つめる程に胸が苦しくなる。

『胸が苦しくなったりする?』

「するよ」

俺はこんなに苦しいのに、ヌナもホントに同じ気持ちなの?

ねぇヌナ.....

『簡単に答えんなよ』

そんなふうに思わず八つ当たりしてしまう。そんな自分が情けなくて、ヌナに背を向けて横たわった。

「ヨンファ.....どうしたの?」

俺の背中に抱き付くヌナの体温を感じながら、涙が出そうになってしまう。

『苦しくて.....』

涙を堪えてやっと言った。

「ありがと.....。そんなに私の事思ってくれて」

『もっとギュッてしてよ.....』

「ん.....いくらでもするよ」

隙間をなくすようにヌナが俺の背中を抱きしめる。

『もっとヌナの心の中、俺でいっぱいにするにはどうしたらいい?』

情けないな.....俺.....

「もうじゅうぶんいっぱいだよ...」

ヌナが俺の頭を優しく撫でてそう言った。
俺は目を閉じて、ヌナのその温もりに甘える。

不意にヌナの温もりが遠ざかるような気がして、俺をまた不安が襲う。

「だけどね.....会社行かなきゃ」

ヌナのそんな声が俺に現実を突き付けた。

『行っちゃうの?』

「ヨンファ大人でしょ?わかるよね」

ヌナの手は俺の頭を撫でたままでそう言った。

『子供でいいから行かないで』

「いつも子供扱いすると怒るくせに」

『........』

「いい子にしてね」

俺の寂しさも虚しく、ヌナの温もりが離れていく.....

ねぇヌナ.....
俺と離れるこんな時間.....
名残惜しいのは俺だけなの.....?





ヌナのいない部屋に一人でいると、ヌナの香りに包まれて、余計に寂しさが増す。

ふと本棚に目をやると、急いでしまわれたのか、少し不揃いにしまわれた本を見つけた。
その本が気になって本棚から取り出した。
俺はそっとページを捲る....

【 2014年 1月 1日 】
今日は友達と初詣に行ってきた。やっぱり元旦ということもあって地元の神社なのにすごく混んでいて....


日記......?

少しだけでも見てしまった罪悪感と、続きを見たい欲求に駆られながらも慌ててそれを本棚に戻した。

ゴメン.....ヌナ.....

そんなつもりじゃなかったんだよ、ホントに.....

ヌナ.....

今頃仕事忙しくしてるんだろな.....?

ヌナ.....

早く帰ってきてよ.....






昼休みには、いつものようにヌナから電話がかかってきた。
朝まで一緒に過ごしたはずのヌナの声が、今は電話口から聞こえる。
それが今は一緒にいないんだと、今更ながら思わせて俺を辛くさせていた。

「ちょっと、ヨンファ聞いてる?」

『聞いてるよ』

「だからね、買い物お願いしたいんだってば」

『うんわかった.....』

「どうしたの?元気ないね」

『だってヌナがここにいないから.....』

「なるべく早く帰るからそんな声出さないの」

俺は、困ったようなヌナの顔が頭に浮かんでいた。

『ヌナは俺が側にいないと寂しくないの?』

それでも口から溢れてしまう不安.....

「だから早く帰るねって言ってるでしょ?」

遣る瀬無いヌナの声.....

『寂しくないか聞いたの』

ヌナを困らせる言葉しか出ない俺はホントに弱い.....

「寂しいよ.....だからいい子で待っててね」

『またそうやって.....』

「ヨンファ♡チュッ♡」

電話口からのキスは、何だろう.....
やっぱり切なさしか残らなくて.....

涙が出てしまう.....






俺はヌナに頼まれたものを買いに近くのスーパーに来ていた。

白ワインと、パスタと、卵.....
両手に持ちきれなくなり俺はカゴを取りに行った。
俺の目の前を、カゴの持ち手を片方ずつ持って、仲良さそうに歩くカップルが通り過ぎる。
俺はまたヌナの事を思い出して切ない気持ちになった。

どうしてヌナを思うとこんなに苦しいんだろう。

会計を済ませスーパーから出ると、たいして重くもないはずの荷物がとても重く感じた。







ヌナのいない部屋に入る気になれずに、俺は玄関のドアの前に座り込んでいた。

ヌナ.....

ヌナも俺といない時でも俺の事考えてる?

ねぇヌナ.....?誰といても何処にいても俺を思ってくれてる?

教えてよ.....

ねぇ、教えてよ.....





「ヨンファー!」

声のする方を振り返る。

『ヌナ.....』

「どうしてそんなとこにいるの?中に入っ.....」

俺の目の前に立つヌナの手を引っ張って、俺の目の前にしゃがませた。
ヌナの目を見て俺は言う。

『部屋にいると余計に寂しいから』

ヌナの目を見てそう言った。

「じゃあ、一緒に家に帰ろ?」

ヌナが俺の髪を撫でる。

『うん.....』

「ほーら早く」

立ち上がったヌナに手を引かれ、俺はようやく立ち上がった。






「すぐ夕飯作るから、そこに座っててね」

『俺にも何か手伝わせて』

「ん?じゃあタマネギでも刻んで貰おうかな?いい?」

『うんわかった』

ヌナの隣でタマネギを刻んでいると、不安な心にタマネギが染みて、涙が零れ落ちた。

「やだヨンファ」

『タマネギってこんなに目に染みるんだね、嘘かと思ってたよ』

ヌナは慌てた様子で部屋にティッシュを取りに走って行った。

「ヨンファ.....」

ヌナの声に涙が滲んだ顔を上げる。

『ん?何.....?』

ヌナは俺を見ずにこう言った。

「見たの.....?日記.....」

ヌナの手には大事そうに日記が抱えられていた。

『あっ.....そうじゃなくて.....』

「.........」

『本棚から飛び出してたからそれで.....』

「見たの.........?」

『ゴメン.....ヌナ.....』

「そう.........」

それっきりヌナは下を向いたまま黙り込んでしまった。

ヌナ.....
俺は.....
どうしたらいいの.....

胸が苦しくなった。
ヌナにこんな顔させたくなかった....

『正直に言うね.....本棚から飛び出してたから何だろうって開いた.....そしたらヌナの日記だってわかって.....見たくて見たくてたまらなかったけど、見ずに戻した』

「.....そう」

『信じて.....』

「どうして.....見たかったの.....?」

『.....ヌナが一人でいる時どんな事考えてるのかなって.....ヌナの日記の中には俺がいるのかなって.....不安だった.....』

「読んで良いよ.....」

『ヌナ.....?』

「それでヨンファの不安がなくなるんなら読んで良いよ」

ヌナは大事そうに抱えていた日記を、俺に手渡した。

だけどそれを開く事が出来ずに、俺は立ち尽くしていた。

『いいの?ホントに.....』

ヌナは黙って頷いた。

俺は恐る恐るその日記を開いた。

【 2014年 3月 17日 】
ヨンファと初めての喧嘩.....意地はっちゃった私のせいでヨンファを怒らせちゃった.....許してくれるかな.....明日は勇気を出してちゃんと謝ろう

俺は初めての喧嘩の時を思い出していた。泣きながら俺に謝ったヌナの事を抱き締めた事を思い出す。

【 2014年 4月 5日 】
ヨンファと初めてのキス.....。こんなにドキドキしたキスは初めてで、ヨンファを好きな思いが溢れて泣きながらキスした。ゴメンねヨンファ、私年上なのにこんなんで.....

初めてのキス.....ドキドキしたあの日.....ヌナ.....こんな気持ちだったんだ.....

【 2014年 6月 22日 】
2人で過ごす初めてのヨンファの誕生日。生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。来年もまた側に置いて欲しい。来年もまた側にいられる私でいたい。

.
.
.
.
.
.
どのページを開いても、日記の中には俺がいて.....

ヌナの俺への愛ばかりが詰まっていた。

俺が泣きながら顔を上げると、ヌナの目にも涙が溢れていた。

『ヌナ.......』

俺は夢中でヌナを抱き締めた。お互いが息が出来なくなるほどに強く強く抱き締めた。

そうして抱き合いながら2人とも泣いていた。

「愛してるってばいつも」

涙声でヌナが言う。

『俺も愛してる』

「ほら料理手伝うんでしょ?」

『愛を確かめ合う方が先.....』




こんなに誰かを愛しいと思えたのは初めてで、俺にはもうヌナしかいなくって.....

切なくて苦しくて.....

そんな俺のようにヌナもまた俺を思っていてくれる。

そんな人に出会えたから、もっと近付きたくて、いつも抱き締めていたくて.....

そんな思いの止め方なんてずっと知らなくていい.....



『愛してる』って言葉じゃ足りないのに、それでも俺はまた『愛してる』とヌナに伝える。

この世界の中に『愛してる』以外の言葉が見つからないから.....

『愛してる』と伝えたい

唯一の愛すべきヌナへ.....






end

動画お借りしましたm(..)m

『コンプレックス』







【そうなんですかぁ~♡もっとお話し聞かせて下さいよ~♡今度は2人っきりで♡な~んて♡】


うわっ.....


出た....まただ.....


今日もそんなふうに、女を売り物にして男に媚びを売る友達の会話が聞こえてきて、私は嫌気がさしていた。


合コンなんて大嫌い。


どうせ人数合わせで呼ばれてることなんて、言わなくてもわかる。
そんな私がここにいるのは、断る理由を考える事がめんどくさいだけ。
幹事は誰だって自分を引き立ててくれるような友達にしか声を掛けない。そう、いつだって同じ。

背が小さくて、髪が長くて女らしい、男はみんなそんな女に弱い。
そんな女の自分を褒める甘い言葉に、気分を良くして調子に乗る。そんなくだらない生き物だ。

一方私といったら、そんな男が喜ぶような、女の子像とはかけ離れていた。
ショートカットで、背が高くて気が強い。そんな私は、男からしたら守ってあげたいなんて思わないような女だ。

男に媚びを売るなんて、死んでも出来ない。

でも、それが私.....

自分を作ってまで、誰かに好きになってもらなくていい。


友達の甘ったるい声と、キャピキャピとした耳障りの悪い笑い声を聞きながら、一番隅の椅子に座り煙草に火をつけた。


『つまんなそうだね』


さっきまで友達の甘ったるい声の横で、笑顔を見せていた男が私に声をかけた。
そういえば、ミニョクとか呼ばれていたっけ...。


そんなミニョクをチラッと見て私は言った。


「うん。だってつまんないからね」


『せっかく来たんだから、とりあえず楽しまなきゃ損じゃない?』


そう言いながらミニョクは、私のすぐ横に腰掛けると、私にビールを注いだ。


友達の、刺すような目線を感じていた。
何であんたなんかの横にミニョクがいるのよ!そう言っているような友達の目線に、私は少しだけイラつきながら、煙草の煙を吐き出した。


「私と話すより、ほらあっちで楽しんできたら?」


私がそう言うと、ミニョクは私の友達の方を振り返る。目が合うと、笑顔を見せて軽く手を振る。すると友達の顔が、さっきまで私を見ていた顔とは別人のようにパッと笑顔になった。


笑える.....


こういうのホント笑える.....


そんな様子を、心底冷めた目でしか見られない私。


『笑えるよねこういうの』


ミニョクがいたずらっ子みたいに私にそう言った。


「えっ?」


私はミニョクの言葉に驚いていた。


『そう思わない?』


「あ、うん.....」


『俺苦手なんだよね、あぁやって女振りまく子』


ミニョクはそう言って私を見ると、口角を少しだけ上げて苦笑いした。


「さっきまであそこで楽しそうにしてたじゃない」


私がそう言うとミニョクは


『そう。楽しそうに、してただけ』


そう答えた。


「うわっ、性格悪い」


思わずそんな本音が漏れてしまう。


『えっ?楽しそうにもしない君より、俺の方がマシじゃない?』


ミニョクが明るくそう言って笑うから、私もつられて笑った。
その笑顔がとても自然で、私はもう少しミニョクと話していたいと思った。


「モテるでしょ?」


『まぁね』


「否定しないんだ」


『した方が良かった?』


「別に?」


『俺に興味ないみたいね』


「そこはそんな事ないよって、否定したほうが良いんだっけ?」


私が意地悪気に言うと、ミニョクは私の方に向き直って言った。


『ねぇ、他のとこで飲み直さない?』


「えっ?」


ミニョクは私に少し近付くと、そっと耳打ちをした。


『俺、先に店出るから、10分したら出て来て?一緒に出たら、あの友達に嫉妬されちゃうでしょ?』

ミニョクはそれだけ言って、軽やかな足取りで店を出て行った。


えっ...?何...?


私、誘われたの...?


そんな事を考えると、少しだけ胸がときめいていた。


フッと手元に目をやると、持っていたタバコの灰が落ちそうになっていて、私は慌ててタバコの火を消した。

私はミニョクに注がれたビールを一口飲むと、指定された10分後に、別の男と盛り上がる友達にメールで「帰る」とだけ送信して席を立った。


ミニョクに対して、特に何かを期待していたわけじゃなかったが、ここにいる理由もなかった。





店を出ると、夜風が心地よく吹いていて、少しだけ酔っていた私の火照った顔を優しく撫でていった。


『来てくれたんだ?』


声のする方に目をやると、ミニョクの姿が目に入った。


「どのみち帰ろうと思ってたから」


『俺が待ってるから出てきたんじゃないの?』


「女口説く気なら他あたってくれる?」


ミニョクは私の言葉に言い返す事はせず、私の方へ歩いて来ると、私の目の前で立ち止まった。


『そんな可愛くない事言わないの』


そう言って私よりずっと背の高いミニョクは、私の頭をポンポンと撫でた。


私の胸がドキッと高鳴る。


だけど.....




.......それと同時に何故だか涙が溢れた。




『えっ?何で泣くの?俺、なんかした?』


びっくりした様子で、心配そうな顔をするミニョクの顔が、私の顔を覗き込む。


そう.....


背の高い私は、男の人に頭をポンポンとされた事なんてなかった。


ミニョクに触れられた頭から、電気が走ったように、私はその場から動けなくなっていた。

本当は誰かにそうしてもらう事が、私のずっと前からの憧れだった.....


「何でもない.....」


男の前で泣くなんて初めてだった。


『ごめん.....なんか俺.....』


困ったような顔をしているミニョクを見ていると、私は何だか申し訳ない気持ちになった。


「ごめん私の方こそ、急に泣いたりして」


そう言って急いで涙を拭うと、アイメイクが落ちて、擦った指が黒くなった。自分のそんな指先を見ていたら、自分が滑稽に思えてきて、私は声を上げて笑った。
きっと顔はもっと酷いことになっているだろうと思ったら、また笑えた。


『ちょっと!どうすんのその顔!』


私の顔をマジマジと見ながらそう言うと、堪えきれずにミニョクも大笑いした。


「やっぱ性格悪い」


私がミニョクを睨んで見せると、ミニョクは笑いながら言った。


『君って泣いたり笑ったり怒ったりホント忙しい人だなもう!』


「もう!何なのよ、全部あなたのせいでしょ!」


そう言いながらミニョクの胸を軽く叩くと、ミニョクはそんな私の腕を突然ギュッと掴んだ。


ドキッっと胸が高鳴って、私はその腕を解く事が出来なかった。

時間が止まったように、私達は少しも動けずにいた。


ミニョクが私を見つめて口を開く。


『なぁ、これからも見せてくんない?』


「えっ.....何を?」


『そういう君の素直な感情』


「えっ.....?」


何.......?


『よくわかんないけど.....君の事好きになったみたい.....』


ミニョクは私の目をじっと見つめてそう言った。


胸がドキドキして止まらなかった。


「何言ってるの.......?」


『だから、好きになったって言ったの』

本気になんてしちゃいけない...



モテる男のそんな一言なんて...


信じちゃいけない...


傷付くのは私に決まってる...


「そう言っていつも女落とすの?」


私はミニョクから目を逸らしてそう言った。


ミニョクは一瞬、掴んでいた私の腕を離すと、今度は私をギュッと抱き締めて言った。


『やっぱ性格悪いな』


信じちゃいけない.....


「お互い様でしょ?」


『俺から誰かに好きだって言ったのは、今日が初めてだから』


そう言ってミニョクは私を抱き締めた腕に力を込めた。


その強く温かいぬくもりに、私も自然とミニョクを抱き締め返した。


ミニョクは私の短い髪をそっと撫でると、前髪を指先で掻き分けて額にキスをする。


額から電気が全身に駆け巡った。


「あの.....私まだ好きだとか言ってないけど?」


『今から俺の事好きになるから大丈夫』


そう言って目の前で私だけに笑いかける。その笑顔に胸がまたキュンと音をたてた。


彼の顔が次第に近付くと、ゆっくりと唇が重なった。


その唇が離れると、可愛気のないありのままの私を受け入れてくれたミニョクの事が、とても愛おしく感じた。


ひとつ深呼吸して言う。


「ホントだね...好きになったみたい私も」


『だから言ったじゃん』


ミニョクはそう言って笑顔をくれる。


そして再び重なる唇は、さっきより優しく私の心を溶かしていった.....




君となら.....



ありのままの自分でいられる.....



だからちゃんと信じさせてね.....



これからもずっと...







end






『독한 사랑』








最近いつも、電話をかけるのは俺の方で...

ヌナからの電話はほとんどなくなっていた...

「会いたい」と最後に言ってもらえたのはいつだった.....?

それでもやっぱり、俺のヌナへの思いは減ることなんてなくて.....

きっとヌナ...忙しいだけなんだと自分を慰めた。





久しぶりに会えたのに、俺立ちは会話もあまりないままに、とっくに飲み終わったアメリカーノのグラスを前にして、カフェで向かい合わせの席に座っていた。

『ヌナ、この後見たいって言ってた映画でも見に行く?』

「今日はそんな気分じゃないな...また今度にして?」

そう言われるような気がしていた。

『じゃあそうしよ.....』

ねぇヌナ.....今度.....
今度は.....ちゃんとあるの?

さっきから、ヌナが何度も携帯を気にしてる事はわかっていた。
だけど、その事を言い出す事が出来なかったのは、嫌な予感しかしなかったから...

「ヨンファごめん...今日は帰るね」

目を合わせる事もなくヌナがそう言った。

『何か予定あったの?俺と会う時はいつも次の予定なんてなかっ...』

俺が話し終わる前にヌナが言葉を被せる。

「友達がちょっと...」

嘘だ.....

『そう...じゃあせめて送らせて?』

「近いから送らなくても大丈夫」

嘘だ.....

『そう.......なんか俺...』

胸がざわついて言葉に詰まる。

「ん?どうしたの?」

『寂しい...』

ヌナと目を合わせるように顔を上げて、そうやっと言った。

ヌナの顔からスッと血の気が引くように感じたのは、きっと俺の気のせいなんかじゃなくて...

「落ちついたら連絡するから」

『ホントに?』

「.....うん。だから待ってて」

ヌナはそう言い、会計伝票を手にすると、そそくさと席を立った。

『ヌナ...俺の事...愛してる?』

ヌナの動きがビクッと一瞬止まった。

「何よ急に、こんなとこで言わせないで?」

ヌナはそう言うと、俺の頭を軽く撫でて「じゃあね」と、俺の目を見ることもなく店から出て行った。

前のヌナだったら、俺がいつ愛してる?って聞いても、愛してるよって答えてくれたのに.....

周りに人がいたって、顔を赤くして照れながら俺の耳元で「愛してるよ」ってそう囁いてくれたのに...

振り返りもしないで店を出るヌナの背中を見送りながら、俺はこの愛の終わりが近い事を感じていた。

いや、もしかしたらヌナの中ではこの愛は終わってしまったのかも知れない.....

そう考えただけで、暗闇に一人ぼっちにされたようで怖かった。

胸が苦しくて涙が出そうになるのを必死に堪え、目の前のグラスの中の氷を口に含むと、一気に噛み砕いて飲み込んだ。喉元を通り身体に染みる冷たさが、まるでヌナの心のように感じた。そんな思いを打ち消すように、俺は勢いよく席を立ち、店を後にした。






どうしてこんなふうになってしまったのだろう.....

いつからヌナの気持ちが俺から離れてしまったのだろう.....


俺の何が悪かった?


俺の何が足りなかった?


ヌナ........


もう俺を愛してくれないの.....?


もう俺じゃダメなの......?


胸が苦しくて苦しくて、こんなふうに息が出来なくなるほどになっても、俺はヌナの事だけ考えてるのに.....







ヌナからの連絡が来ることを信じて、俺は毎日毎日連絡を待っていた。

どこに行くにも携帯電話を手離せず、着信音が鳴るたびに胸がキュンと苦しくなった。
そんな俺の思いなんて届くはずもなく、ディスプレイに表示される名前が、俺の期待を何度も何度も裏切った。
あと何度裏切られたら、ヌナから連絡が来るのだろう.....

待っている時間が永遠のように感じていた。







ヌナから連絡があったのは、それから数日が過ぎてからだった。

その日俺は、熱を出していた。そのせいかヌナとの別れのシーンばかりが夢に出てきて、その夢に魘された。何度寝直してみても、同じような夢ばかり見ては汗だくになって目が覚めた。

耳元で鳴り響く着信音に、朦朧とした頭を摩りながら応答ボタンを押す。

『.....はい...もしもし...』

「ヨンファ.....?」

『えっ.....ヌナ....?』

俺のいつもと違った様子を察したのか、ヌナが俺に問いかける。

「ヨンファどうかした?」


まだ俺の事が...心配...?


ヌナ.....そうなの.....?


そんな一握りの希望を胸に、俺は元気なフリをして答える。

『どうもしないよ。ちょっと横になってたら寝ちゃったみたいで』

「そう。なら良かった。......あのね、ヨンファ.....私ね、話があるの.....」

ズキンと胸に突き刺さるようなヌナの暗い声が、受話器から聞こえた。

話って.....?

『ん?話ってなぁに?いい話?それとも悪い話?』

いつもの俺を演じる俺の問いかけに、ヌナは答えない。

「ヨンファ...会って話したいの...」

ヌナの冷たい声が、また少しずつ俺の心を蝕んでいく.....

『嬉しいな。ヌナに会えるの』

俺は震えそうな声を、必死で隠しながらいつもの俺を作る。

「ヨンファ何処で会う?」

『じゃあ俺ん家に来てよ』

「えっ.....」

明らかに動揺するヌナの声に、また俺の心が痛む。

『待ってるから』

俺はそれだけ言って電話を切った。

これ以上話していたら、泣いてしまいそうだったから.....






それから程なくして、玄関のチャイムが鳴った。

ドアを開けるとヌナは下を向いて立っていて...
俺はヌナの腕を強く掴んでドアの中に引き入れると、そのまま引き寄せて強く抱き締めた。

『会いたかった...』

だけど.......

ヌナの腕は決して俺を抱きしめ返すことはなくて...

心がそこにない事を俺に知らせるように、抱き締めたヌナの身体は冷たく感じた。

『とりあえず入って』

ヌナの手を握り部屋へと入れると、ヌナをソファーに座らせた。

『何か飲み物でも入れ.....』

「ヨンファ...話聞いて」

『どうしたのそんなに急いで』

俺は無理にでも笑おうと思っていたのに、ヌナを目の前にしたらやっぱり上手く笑えなくて.....

「ごめん...ヨンファ...」

ごめん.....って.....

『何か謝るようなことあるの?』

言葉の続きを言い淀むように表情を曇らせるヌナの瞳から、一筋の涙が落ちた。

「ごめん......私.....もうヨンファと一緒にいられない」

静かな部屋に響く別れの言葉.....

胸が締め付けられて次の言葉が探せない俺.....

胸にいくつも刺さっていた破片が一気に俺の心を壊していく...

目には見えないけれど、その破片に傷付いた心が血を流すように、涙が溢れた。

『どうして.....』

「ヨンファは何も悪くない.....」

『.......』

「全部私のせい.....」

『別れるなんて絶対嫌だ.....』

「ごめん.....ごめんなさい.....」

立っているのがやっとだった...

『愛してるよヌナ.....』


受け止める相手を失った愛の言葉.....


俺の震えを止めてよ.....


止めてよヌナ.....


「愛してたよ.....ヨンファ.....」


愛してたよ.....


その言葉が俺の心の傷をえぐる...

嫌いだと言われるよりも辛く冷たいその言葉.....


「ヨンファ.....今迄、たくさん愛してくれてありがとう.....」



ありがとうの言葉の破壊力.....


そんなもの知らずにいたかった.....




『これで最後だから.....』

俺はそう言うとヌナを抱き締めた。この手を離したら、ヌナは俺の元から去ってしまう。それがわかっていたから、抱き締めた腕を離すことが出来ないのに.....

なのにヌナ.....


抱き締め返したりするなよ.....


何で抱き締め返したりするの.....


俺の胸元でヌナの啜り泣く小さな声が聞こえた。

ヌナの泣き声を止めたくて.....

堪らずに俺はヌナにキスをした。




ヌナとの最後のキスは.....




壊れた愛と冷たい涙の味がした.....






end

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paradise








『俺...ヌナの事好きなんだ.....』

「ゴメン...私、付き合ってる人いるから...」

そんな事は100も承知だった。

ヌナがアイツと付き合い始めた時に、俺の片思いは終わった...そう思ってた。

だけど.....

聞きたくない話程、親切なフリをした誰かが、必ず耳に入れてくれるもので...

『ヌナがアイツに傷つけられるとこ、見たくない』

「どういう意味...?」

『アイツ...ヌナの事...二股だって噂聞いた...』

俺がそう言うと、ヌナは少しだけ淋しそうな微笑みを見せながら言った。

「うん.....知ってるよ.....」

『だったらなんで.....』

「好きだから仕方ないよ。いつか私だけを見てくれるって、そう信じてるから....」

『それでいいのかよ』

「.....いいわけないじゃない」

『だったらそんなのやめろよ.....』

「それでも好きだから!だから.....ジョンヒョンの思いには答えられない.....」

そうキッパリと言われて、俺は返す言葉も見つからなかった。

『..........』

「今まで通り友達でいてよ.....」

友達......?

俺は今まで、ヌナの事友達だなんて思ったことなかったのに.....
ヌナはいとも簡単に友達だなんて言うんだね.....






大事にしていたヌナへの片思いが壊れてしまって、眠れない夜を過ごしても、それでも当たり前のように朝はやってきて、俺の思いなんてなかったように日常は過ぎて行く。

いつだってそう...
俺の思いなんてきっと、この広い世界の中では、すごくちっぽけなものに過ぎないんだ...

窓から差し込む太陽の光が眩しくて、深く目を閉じる。
深呼吸をひとつして、俺はまた、日常に戻るだけ.....






あれからヌナとは会っていなかった。俺の方から連絡を取ることもなんだか気まずくて、電話すら掛けられずにいた。

友達なんて...きっと嘘だ...

友達になんて、俺だってなれないけど...

俺...またヌナの事考えてるや...
そんな自分に気が付くと、溜息しか出なかった。

携帯電話の呼び出し音が鳴る。
表示されたヌナの名前を見て、一瞬にしてドキッと高鳴る心臓はとっても素直で、俺はまだヌナの事を好きなんだと思い知らされた。

『もしもし...』

「ジョンヒョ~ン~!一緒に呑もうよ~!」

明らかに酔っている様子の口調は、聞きなれたヌナの声で、俺は何だか胸騒ぎがした。

『ヌナ?なんかあった?』

少しの沈黙の後で、ヌナの声が聞こえた。

「.......アタシなんかに何があったか心配してるの?」

『いま何処にいんの?』

「さぁ何処でしょう?」

『はぐらかしてねーで言えよ!』

俺は思わず、そう声を上げていた。

「山下公園.....』

「そのままそこにいろよ!」

俺は電話を切ると、車を飛ばしヌナの元へと向かっていた。






『こんなとこで何やってんだよ!』

下を向いたまま何も答えようとしないヌナに、何があったのか俺は察していた。

『アイツと.....?』

「そう.....振られちゃった.....お前の事もう好きじゃないって.....」

『だからあん時、言ったじゃ...』

ヌナの涙が零れ落ちるのが見えて、俺は言おうとしていた言葉を飲んだ。

「ゴメンネ.....こんなとこまで来させて...」

『いいよ別に。だって俺ら友達なんだろ?』

自分でそう言いながら、胸がズキッと痛んでいた。

「ゴメンネ.....」

何て言葉をかけたらいいのかわからなくて、俺はただ泣いているヌナの側に寄り添うことしか出来なかった。
着の身着のままで家から飛び出してきた俺の服装には、吹き抜ける夜風がとても寒くて、身震いする程だった。それがなんだか、今の俺の心境のように感じて、さらに寒さを感じた。

『なぁ、車行かね?さみーし』

俺がそう声を掛けると、ヌナは小さく頷いた。






駐車場まで戻る間、俺はヌナの前を歩いた。そうしたのは、これ以上ヌナの涙を見ているの辛かったから。
それなのに、途中で何度か振り返ってみると、俺の後について歩くヌナの足取りは何だか危なっかしくて、俺はヌナの手を取った。

『ちゃんと歩けよ。もうすぐそこだから』

「ジョンヒョンの手って...こんなに大きかったんだね...」

そう言ってまた涙を流す、そんなヌナの言葉にまた、俺の心は痛んでいた。

『あたりめーだろ。男なんだから』

そうぶっきらぼうに言うと、俺は繋いだ手をポケットへと入れ、駐車場までの道のりをヌナと歩幅を合わせるように歩いた。






車に乗り込みエンジンをかけ、エアコンのスイッチを入れる。何を言っていいかもわからず、何を聞いていいかもわからず、そんな音の無い空間の中にエアコンの風の音だけが静かに聞こえていた。

不意にヌナが口を開く。

「ねぇジョンヒョン.....?」

『ん.........?.』

「あの日の告白って.....まだ有効.....?」

ドキッと高鳴る心臓.....

『えっ.......?』

「ゴメン.....嘘.....私アイツの事忘れ.....」

そんなヌナの言葉を俺は遮るように言った。

『俺が忘れさせてやるよ!』

強くヌナを抱き寄せキスをした。ずっと触れたかったその唇は、涙の味がして、それがアイツの為に流した涙だと思ったら、俺は我慢が出来なくて、その涙の味がなくなるまで何度も何度もキスをした。そのキスは次第に深くなり、少しずつ漏れ出るヌナの声に、もう自分を抑える事が出来なくなっていた。
そうして段々と、ヌナの両手が俺の背中へと回り、俺達は抱き合いながらそのキスに溺れた。俺は、そんな感情のままヌナを求めた。
助手席のシートを倒し、ヌナの首元へとキスを這わせると、ヌナの漏れ出る声が次第に高くなり、俺の耳元で響いた。

『続き.....出来るとこ行こっか.....』

そうヌナの耳元で囁くと、俺はヌナの答えを待たずにハンドルに手をかけた.....。






ラブホテルなんて、いつ来たっきりだろう.....。

目の前にある大きなベッドに互いに照れるように、少し離れたソファーに腰を下ろした。ヌナの顔を盗み見るようにして、その表情を確かめる。その表情は案の定暗く沈んで見えて、俺は感情のままにこんなところにヌナを連れてきてしまった事を、少しだけ後悔していた。

「タバコ.....吸っていい?」

そうヌナが言った。

『ヌナ、タバコ吸うんだっけ?』

「たまにね.....吸いたくなる時があるの」

ヌナはそう言ってタバコに火を付けると、深い溜息と共にその煙を吐き出した。

『後悔してる?俺とこんなとこに来た事.....』

「........」

ヌナは何も答えないまま、タバコの煙を燻らせながら俺のほうに向きなおった。
愁いを帯びたその表情が、とても愛おしく感じて目が離せなくなる。
俺は、ヌナのタバコの火が消えるのを待って、ヌナの体を引き寄せた。

『今日だけ...今日だけは全部忘れろ...』

そう言ってキスした唇は、今消したばかりのタバコの香りがして、俺はやっぱりその香りを消し去りたくなった。
ソファーに体を強引に押し倒し、その唇をこじ開けるようにして深くその中に入っていく.....そうしていくうちに、そんな俺に応えるように互いの舌が絡まっていった.....

俺の事なんて好きじゃなくてもいい.....
そんな思いと、このままヌナを抱いてしまったら、もう友達にもなれない.....
そんな気持ちが頭の中で交差していた。

それでも今だけは、ヌナがアイツの事を忘れてくれたら良かった。
悲しい顔を見ているのが辛かった。
泣いてるヌナを見ている事が、自分が泣くことよりもずっとずっと辛かった。

何もかも忘れて今だけは俺に癒されたらいい.....

何もかも忘れて今だけは俺の秘めた愛に癒されたらいい.....

ヌナが俺を思ってくれてはいないなんて事は、俺も今だけは忘れるから......

そんな思いを胸に隠していることなんて、知らなくていいから.....

夢中でヌナを抱きしめながら、何度となくキスを重ねていくうちに止まらなくなるヌナへの思い.....
ヌナの体を優しく抱き上げ、ベッドへと運んだ。
そうしてそのままヌナの上に覆いかぶさるようにして、ヌナの顔を見つめる。
『好きだ』と言ってしまいそうな感情を、胸にしっかりとしまいこみながら、さっきよりも激しくその唇を重ねた。
次第に荒くなるヌナの息遣いを感じながら、首元にかかる長い髪を指先に絡めるようにして、その場所にキスを這わせていくと、さっきと同じようにヌナの吐息が漏れ出した。

『ヌナ....首弱いんだ?』

ヌナはそれには答えずに、俺の頭を両手で挟むようにして、自分の首元へ俺の唇が合わさるようにする。そんなヌナに応えるように俺は舌先を這わせた。

.....そう、そうやって何もかも忘れて今だけは俺に溺れたらいい.....

服の上からヌナの柔らかい膨らみに優しく触れると、俺の感情はもう止まらなくなっていった。
自分の服を脱ぎ捨てると、今度はそのままヌナの服を剥ぎ取った。透き通るような白い肌が俺の目の前で露わになる。恥ずかしそうに胸の上に手を置くヌナの手を退かすように指と指を絡め、もう片方の手でその柔らかな膨らみに触れる。
抑えるようにしながも漏れ出てしまうヌナの刹那い声と、その表情を見ているだけで胸がいっぱいになった。
アイツもこんなヌナの顔を見ていたのかと思ったら、嫉妬心に狂いそうになった。
そんな思いを拭い去るように、ヌナの深い部分に入っていくと、ヌナの抑えていたその声が溢れ出した。その声に導かれるようにして、俺はヌナの小さな身体を何度も激しく揺さぶった。

『なぁ...俺...やっぱりヌナの事...好きだ...』

ヌナを揺さぶりながら苦しい息遣いのままそう伝えた。

「今...そんなこと...言うなんてズルイ...」

ヌナの手が力強く俺の背中にしがみ付く。

『今だけは...俺の事だけ考えてて...俺の事だけ感じてて...』

ヌナの喘ぐ声が次第高くなり、しがみ付かれた背中にヌナの爪痕が残るのを感じながら、俺達はその時を迎えた。

くたりとヌナの身体の上に覆いかぶさると、頬と頬が触れ合う。すると、ヌナの手が俺へと伸びて来て、優しく俺の髪を繰り返し撫でた。

「ジョンヒョンの愛.....ちゃんと伝わったよ.....」

『今夜だけは.....全部忘れさせてやるって言っただろ.....』

こんなふうにヌナを抱いてしまったから.....

もう友達にもなれないんだよな.....

友達になれるような愛し方しなかったからな.....

今夜だけは、ヌナの癒しになれたらいい.....

「ジョンヒョン.......?」

『.......ん?』

「泣いてるの.....?」

『泣いてねーよ.....』

「ジョンヒョン.......?」

『何だよ.....』

「好きになってもいい......?」

『ずりーよ.....こんな時に言うなんて.....』






好きな人に、好きだと言ってもらえる奇跡.....

それは始まりがどうかなんて関係なくて.....

一緒にいられるこの時をずっと抱きしめていられたら.....

その愛しい時間

その癒しの瞬間

それこそがきっとparadise.....





end

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『 angel 』






ヨンファversion





ねぇ、愛って本当に永遠・・・?

ねぇ、愛って本当に色褪せたりしないの・・・?

ねぇ、君の事・・・本当に信じていいの・・・?





ヨンファを先に好きになったのは私の方・・・

・・・だけどきっと、ヨンファは私の事を女としてなんか見てない。

そんな好きな気持ちを隠すように、いつも何でもないフリでヨンファと接してしまう。
隣に座る事だって、手が触れ合う事だって、本当はそれだけでドキドキするのに、私はいつも何でもないフリをする。
こんな気持ちを気付かれてしまったら、きっとこのままの関係でいられなくなってしまう。それが本当に怖いから・・・。

時には私の事を少しだけでも意識してもらいたくて、思わせぶりな態度だって取っちゃう・・・。

でも、そんな素直じゃない自分が大嫌い。
素直に好きって言えない自分が大嫌い。

そんな思いを抱えながら、前にヨンファと2人で来たことのあるbarにひとりで来ていた。
カウンターでひとり飲むカクテルは、ヨンファと2人で飲んだあの時よりも何だか味気なく感じた。

帰ろう・・・もう帰ろう・・・

私は手を挙げてカウンター越しに合図を送る。

「チェックで!」

その時、私のすぐ隣の席に誰かが座るのがわかった。

『ヌナー!もう帰っちゃうの?』

声を掛けられて振り返る。

「えっ?ヨンファ・・・」

『何だよ、ここに来てるんなら連絡くらいくれてもいいのに』

そう言って拗ねたような顔を見せるから、私もついまた思わせぶりな事を言ってしまう。

「何?そんなに私と一緒に飲みたかったの?」

『うん。そうだけど悪い?』

迷いもせずにそう答えるヨンファの言葉に、ドキドキしてしまう気持ちを抑えながら私は言った。

「仕方ないな。じゃあもう一杯だけ付き合うよ」

可愛くないな・・・私・・・。

『一杯で帰す気なんてないけどね』

ヨンファが私の顔を覗き込むようにして言う。

ヤダ・・・近い・・・。
こんなにもドキドキしてしまうのは、きっとさっき飲んだカクテルのせい・・・そんなふうに自分に言い聞かせた。

「飲む前から酔ってるの?」

『酔ってない。酔ってるとしたら、ほろ酔いのヌナの可愛さにかもね』

ドキッと高鳴る心臓・・・

「そうやって年上をからかわないの」

『からかってなんてないよ。ヌナそうやっていつも全然俺の気持ちわかってくんないんだから・・・』

何・・・・・?俺の気持ちって・・・?

「言わなきゃわかんないよ。私鈍感だもん」

そう言いながらも、何かを期待してしまう私の心があった。

『ホントにわかんないの・・・・・?』

「わかんないよ」

少し重たくなった空気裂くように、ヨンファ注文したバーボンが運ばれてきた。ヨンファはそれ一口飲むと、私を見つめながらこう言った。

『俺、ヌナが好きなんだ。だから俺の女になって』

目を逸らすことも出来ないほど見つめられ、返す言葉が見つからなかった。

「・・・・・・・・・・」

『もう片思いは辛いんだ・・・・・俺とずっと一緒にいてよ』

ずっと一緒にいたいと思っていたのは私の方・・・
ずっとずっと、そう願っていたのは私の方・・・
それなのに言い出せなかった私はずるい・・・

「・・・・・・・・・・」

『好きなんだ。俺、ヌナしか見てないから。だからヌナも俺だけ見てよ』

ヨンファの真剣な瞳に引き込まれるように、私はただ頷いた。







『ヌナ~♡ヌナってばー♡』

2人っきりになると甘えた声を出して、そうやってまた私の心をいっぱいにする。
こんな幸せな時間がずっと続けばいい・・・。そう願うようにヨンファの髪にそっと触れる。

会えない日でも毎日電話をくれて、毎日毎日『愛してるよ♡』って照れながら言ってくれる。「毎日言ってるのにまだ照れるの?」なんて私がからかうと『何回言っても照れる』って素直に答えてくれる。電話で顔が見えなくても、ヨンファが今どんな顔をしているのか想像ができる。そんな時間もまた私を幸せにさせた。

『ヌナの思ってる事なんでも知りたい。だから俺らの間に絶対隠し事はなしね!』

「うん。わかったよ♡」

『今ヌナ、何考えてる?』

「ん?ヨンファとキスしたいなって♡」

『俺も今そう思ってたとこ♡』

そう言って優しく落とされるそのキスに、私はゆっくりと溶かされる。

「もっと激しくして・・・」

『俺もそうしたいと思ってた♡』

そうして繰り返されるキスは、息継ぎも許されないほど熱くって、それでいて甘くって思わず声が漏れてしまう。

「もっと聞かせて・・・・・」

そう囁かれ、耳元にヨンファの吐息を感じれば、あとはただ素直になっていく心と体に身を任せるだけ・・・・・。

幸せすぎて怖いって、きっとこういう事を言うんだろうね・・・







会えない日にはヨンファの事ばかりを考えた。

会えない寂しさに潰されそうになって、泣いた日もたくさんあった。

ヨンファからの電話はいつも「会えなくてもヌナの事いつも愛してるよ」って優しかったけど、寂しくて会いたくて最近では電話の度に涙が溢れてしまって、ヨンファの事を困らせた。
『いつも側にいれたらいいのにな・・・』そんなヨンファの言葉に、また涙が溢れた。

ヨンファが私の全てになっていった。
失ってしまうことを考えただけで、一晩中でも涙が溢れた。
失ってしまったらきっと私は私じゃなくなってしまう。自分がだんだんとヨンファの負担なっているように思えて自分を責めていた。

今まで恋愛もそうだった・・・。

一途にな故に自分の気持ちすらコントロールすることが出来ずに「お前の愛は重すぎる。受け止めきれない」そう言って、私の愛した人は離れていった。
そんな愛し方しか出来ないのに、また人を愛してしまった自分を責めた。



その日かかってきたヨンファの電話に、私は出なかった。
また電話口で泣いてヨンファを困らせることがわかりきっていたから・・・。

『愛が重い』そう言われるのが怖かったから・・・。

時間を置いて何度もかかってきた電話にも、私は出なかった。

自分の愛し方を見直したかった。ヨンファに重い女だと思われるその前に・・・

≪留守番電話5件≫
携帯電話のディスプレイに表示された、まだ聞いていないメッセージ・・・
そのメッセージを聞く勇気すら出せずに私は携帯電話の電源を切った。






気が付くと私は、ソファーで眠ってしまっていたようだった。目が覚めると部屋の中は真っ暗で、それと同時に襲う肌寒さに暗闇の中で一人震えた。電気を付けようと手探りで立ち上がる。

・・・・・・暗闇の中で不意に温もりに包まれる。

『ヌナ・・・どうして電話に出ないの?』

私は暗闇の中で、不安気な声でそう言いながら私を抱きしめるヨンファの香りに包まれていた。

「ヨンファ・・・・・・?」

『どうして俺の事不安にさせんの?』

「・・・・・・・・・・・」

『ヌナ・・・・・電話に出なかった理由教えてよ』

切なげなその声が、私の胸に染みてきて、胸が苦しくなっていた。

「それは・・・・・寝てたから・・・・・」

そんな見え透いた嘘を付いた。

『嘘つかない約束したろ?』

ヨンファの声が暗闇の中、耳元で響く。

「・・・・・・・・・・・」

私の抱えている不安なんて、きっとヨンファは知らない。
それは私がちゃんと伝える事が出来ていないから・・・

『ヌナ・・・俺の事・・・嫌いになったの・・・?そうなの・・・?』

ヨンファの不安は私のせい。私がちゃんと気持ちを伝えないせいで、ヨンファを傷付けている・・・

「そうじゃない・・・そうじゃないけど・・・」

上手く言葉に出来なくて、涙ばかりが溢れた。

『そうじゃないなら、俺とちゃんと向き合えよ。逃げんなよ』

「・・・・・・・・・・・」

ヨンファのそんな必死な訴えが、私の胸に刺さっていた。

『じゃないと俺・・・・・壊れそうだよ・・・・・』

ヨンファの腕に力がこもり、苦しいほどのヨンファの思いを私は全身で感じていた。

『何か言えよ・・・・・俺はこんなにヌナの事愛してるのに・・・・・』

「上手く言えないよ・・・・・」

『上手く言えなくてもいいよ・・・だからちゃんと、全部話せよ・・・』

「私・・・・・私だって愛してるよ。頭の中も心もヨンファでいっぱいだよ・・・・・。だから怖いの・・・・・。ヨンファが私なんかの事、こんなに愛してくれて・・・・・。私・・・・・ヨンファの事・・・・・ヨンファの事だけ愛してる。だから・・・・・だから、ヨンファに私の愛情押し付けちゃいそうな自分がいて、それで・・・・・・お前の愛は重いって、重いからもう受け止められないって・・・・・そんなふうにヨンファに言われちゃうんじゃないかって・・・・・だから・・・・・こんな私じゃダメだって、こんな愛し方しか出来ない自分じゃダメだって・・・・・いっぱい考えて・・・・・そしたら・・・・・電話・・・・・・出れなくなって・・・・・・」

素直な思いを伝えるのって、どうしてこんなに涙が出るのだろう。
それでも伝えたかったのは、わかって欲しかったから・・・・・。
ヨンファならきっとわかってくれると信じたから・・・・・。

『愛が重いなんて、言うわけないだろ』

「こんな愛し方しか出来なくて・・・・・ごめんなさい・・・・・」

ヨンファは抱き締めた腕を少しだけ緩めると、指先で私の唇を探してそっとキスをした。

『そんなふうに愛してくれてありがとう』

「・・・・・・・・・・」

『そのままのお前の愛情、一生俺だけにちょうだい』

「・・・・・・?」

『俺の愛情も一生お前だけに捧げるから。だからちゃんと受け止めろ』

「どういう・・・・・意味・・・・・?」

『俺と結婚して』

今、結婚して・・・・・って言ったよね・・・・・

「信じてもいいの・・・・・?」

『俺の言葉だけ信じてればいい』

「・・・・・うん」

『もっと幸せにするから』

「今でも幸せ過ぎて怖いのに・・・・・・」

『俺の側で自信持って笑ってればいいから』

「・・・・・うん」

『俺がずっと味方だから』

「・・・・・うん」

『だってヌナは・・・・・』

「なぁに・・・・・・?」

『・・・・・・・・神様が俺にくれた天使だから♡』







もう逃げたりしないよ・・・

私の不器用な愛を受け止めてくれる

そんな君に神様が出会わせてくれたんだから・・・


そう、君こそが私にとってもangelだから・・・







end



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柔らかい強さ






ヨンファversion






好きだから、不安になって考えすぎちゃう。

好きだから、卑屈になっちゃう時だってある。

だけど考えすぎて考えすぎて苦しんで吐いた言葉で、君を傷つけちゃう事だってある。

傷ついた君を見るまで、気がつかないほど考えすぎてる。

そんな私は多分.....

君の事より自分の事で頭がいっぱいなんだよね。

だから優しくなんてされる資格ないんだよ。

だから優しくなんてしないで.....




『今から会えない?』

そう呼び出されたのは、私がもうベッドに入ってしまってからの事だった。

「.....今から?」

『今ヌナに会いたい』

そんなふうに言われたら、断るなんて選択肢は私にはない。

「わかった」




外で会えるのは決まって深夜ばかりの私達...
だけどそれも仕方のないことだと、頭ではわかっていた。
でも、頭ではわかっていても心がいう事を聞いてはくれないことだってある。


「お待たせ」

呼び出されたのはいつもの公園で、ヨンファはいつものように私を待ってくれていた。

『会いたかった』

そう目を合わせずに照れたように言う。

「夜中に待ち合わせるには寒い時期になったね」

私がそう言うと、ヨンファは私の手を取って何も言わずに自分の手で包み込む。

『ゴメンな。またこんな時間に』

「家に来てくれたらいいのに」

『普通の恋人同士みたいに外でデートしたいから』

「普通の恋人同士は.....」

そう言いかけて言葉を飲み込む。ヨンファは私が言わなかった続きを察した様子だった。

『ゴメンな.....』

「仕方ないよ」

『ヌナ明日も仕事だよね?』

私が頷くと、ヨンファは「俺も」と言って苦笑いする。

少しの時間しか会えないのなら、尚更家に来て欲しかった。そうしたら、人目も気にせずにヨンファに甘えられたのに...

『ヌナどした?眠くなっちゃった?』

ヨンファはいつものように優しい言葉を私にかける。それなのに私は、ヨンファを困らせるような事しか言えない。

「ううんそうじゃなくて.....。私ね、ヨンファと普通の恋人同士みたいに、街の中を手を繋いで歩きたいなって思っちゃうんだよね.....」

するとヨンファが少し困った顔をしながらもこう言った。

『じゃあ今度まとまった休み取れたらさ、海外旅行でもする?』

「ヨンファの事を誰も知らない海外でなら、堂々と手を繋いで歩けるから?」

なんで私こんな事しか言えないんだろう...
自分を自分で責める気持ちはあったが、もう自分をコントロールする事が出来なかった。

『ヌナの気持ちはわかるけどね...』

「わかってないよ」

『ヌナ.....ゴメンな』

「なんでいつも謝るの?なんでいつも優しくするの?私、我儘言ってるんだから怒ればいいのに!」

『ヌナをそんなふうにさせてんの俺だから、だから怒れないよ』

「だったらちゃんと言ってよ、街の中手を繋いで歩くなんて無理だよって、こんな時間にしか外でデート出来ないってハッキリ言ってよ!」

『俺だってヌナが思ってること...俺だってしたいよ.....だからそんなに困らせないで?』

ヨンファは私を諭すように優しく言った。

「ちょっとの時間しか会えないんなら、せめて二人っきりになれるとこで会ってよ!」

『ヌナどうしたの今日は怒ってばっかりだね。俺はヌナに会えて嬉しかったのに...』

「キスしてよ!抱いてよ!ちゃんとお前だけだよって言ってよ!じゃないと私...」

ヨンファが私の口を塞ぐようにキスをした。

『ヌナ...それ以上言わないで...』

ヨンファは顔を歪ませて下を向いたまま、私の方を見ようとはしなかった。

私.....ヨンファのこと傷付けた.....

ヨンファの辛そうな顔を見て、自分がどれだけ傷付けてしまったのかを思い知った。だけど吐いてしまった言葉はもう取り消しようもなく、ヨンファの心に刺さってしまっていた。

「ゴメンなさい.....」

『謝らなくていいよ』

下を向いたままヨンファがそう答える。

「ゴメン.....」

『謝るなって言ってんの』

落ち着き払った低い声でヨンファが言った。
こんなふうにヨンファが私に言うのは初めてだった。次の言葉が見つからないままで、私は黙り込むしかなかった。

『ヌナ?ヌナの言いたい事それで全部?』

私が頷くと、ヨンファは私を真っ直ぐに見つめながらこう言った。

『じゃあ今度は俺の番ね』

もしかして.....

別れようとか言うつもり.....?

そう思ったら自然と涙が溢れた。

『ヌナが俺としたいと思ってくれてる事、俺全部叶えてやれない』

「..........」

『ヌナは俺の事なんもわかってない。俺は...』

「ヤダもう聞かない!」

私は自分の耳を両手で塞いだ。涙が溢れて止まらなかったが、涙を拭うよりも、今は耳を塞いでいたかった。
耳を塞いでいた両手に、ヨンファの手が掛かる。私は耳を塞ぐ手に力を入れた。そんな私の手をヨンファが強引に退けながら言った。

『ちゃんと聞けよ!』

「ゴメンなさい.....別れるなんて言わないで.....お願いだから.....」

続きを聞くのが怖かった。怖くて怖くてたまらなくて、私は感情のままに泣き続けた。

『ヌナ...俺が別れ話すると思ってんの?』

ヨンファはそう言うと、私を柔らかく抱き締めた。

『俺だってヌナと二人っきりになって、キスしたり抱き合ったり甘えたり甘えさせてやったりしたい。だけど今日みたいにお互いあんまり時間のない時にヌナん家になんて行っちゃったら、俺きっと止まんなくなっちゃう。それが嫌なの。わかる?』

「わかんない.....」

『だからね、時間のない時に、時間気にしながらヌナの事急いで抱いたりしたくないの。大事に大事に愛し合いたいの。わかった?』

「............」

私はヨンファの事全然わかっていなかった.....

こんなふうに考えてくれてたなんて知らなかった.....

私は私の事ばっかりで、ヨンファに気持ちを押し付けてばかりいたのに....

「ゴメンなさい私.....」

『俺、こんなふうにしかしてやれないけど、ヌナの事大好きだから。だからヌナが俺と別れたいって言っても別れてやんない』

「私.....こんななのに.....何でいつも優しくするの?自分が惨めになる.....」

『ヌナに優しくするのは、ヌナが大好きだからだよ。どんなヌナでも大好きだからだよ』

「ヨンファ...」

『だから寂しくさせるけど、ちゃんと俺だけ見てろ?わかった?』

「........はぃ」

『次の休みは、ヌナん家行って、一歩も外出るつもりないから、そのつもりでいろよ』

「.........楽しみにしてる」

『何を?』

「ヨンファの休み」

『ヌナの嘘つき♡』

そう言うと、ヨンファの柔らかい唇が私の唇へと重なった。そのキスは私の不安や寂しさを包み込んで溶かしていくようだった.....




end
抑えきれない想い






ジョンヒョンversion











ジョンヒョンと付き合いはじめたあの頃よりも、今は互いに仕事が忙しくなっていて、会える日も減っていた。

電話では毎日毎日話をしていたが、会った時には何故だかそれが電話のジョンヒョンとは別人のような感覚になっていた。

電話ではあんなに癒されていたのに...。

付き合いはじめには、会う度に互いに求め合っていたはずなのに、最近はちょっとしたスキンシップですら少なくなっていた。

私...飽きられちゃったのかな...

そんな不安が私を襲う...
でも、それを確かめる勇気なんて私にはなかった。

『ヌナさぁ、今日はおとなしいね』

「そう?いつもと同じだよ」

『なんかあった?』

「何もないよ」

それっきり黙ってしまったこの沈黙がまた、私を辛くさせる。
以前のジョンヒョンだったらきっと『何だよ元気ねーじゃん!ほらこっち来てみ?』なんて私の頭を乱暴に撫でて抱き締めてくれたのに...

「ジョンヒョン...私の事...好き?」

『好きじゃなかったら一緒にいねーし』

ジョンヒョンはそうぶっきらぼうに答える。

「そっか...」

『何だよヌナ、そっか...って』

ジョンヒョンが不機嫌そうに答える。

「ゴメンね」

『ヌナ俺、腹減ったから何か作って』

「ん...わかった」

そしてまた続く沈黙の時が、私を辛くさせていた。

冷蔵庫を開けて、何を作ろうか考えていた。どんなものを作ったら喜んでくれるかと、以前のようにワクワクする気持ちは今はもうない...。
きっと今は、何を作ったところで、お互いにほとんど会話もないまま食べるんだろうなと思った。
冷蔵庫の開放時間が長くなりすぎて、冷蔵庫からピーピーと警告音が鳴り響く。私は慌てて食材を取り出すと、溜息と共に冷蔵庫の扉を閉めた。

それと同時に、後ろからジョンヒョンに抱き締められた。
私は驚きのあまり手に持っていた食材を、床に落としてしまった。

「ちょっと、どうしたのいきなり」

私がそう言うと、ジョンヒョンは黙ったまま私をくるりと回転させると、しっかりと自分の腕の中へと収めた。

「何?どうしたの?」

ジョンヒョンはそのまま何も答えずに、私にキスを迫った。

「イヤ!」

私はキスを拒むように大きく顔を逸らす。ジョンヒョンは嫌がる私を強引に冷蔵庫の扉へと追い詰め、私の両手首を捕まえると、そのまま強引に私の唇を奪った。

「やめて!無理矢理なんてヤダよ!」

私がいくら抵抗しても、ジョンヒョンの力に敵うわけがなかった。ジョンヒョンは力を緩めずに、無言のまま私の首元へとキスを這わせる。そして私の両手首を自分の片手で束ねると、空いた方の手で私のブラウスのボタンを外しはじめた。

「やめて.....お願いだから...」

私の声が聞こえていないのか、ジョンヒョンの手は私の胸の膨らみに手をかけた。

「やめてってば!.....そういうジョンヒョン....嫌い.....」

私はそんなジョンヒョンが怖いと思った。無理矢理そんな事するような人じゃなかったはずなのに...。

「お願い.....やめて.....お願いだから.....」

私が泣きながら訴えると、ジョンヒョンは我に返ったように、フッと力を緩めた。

「ひどいよ.....ひどいよジョンヒョン.....」

私は泣きながらジョンヒョンの胸を何度も叩いた。

『ゴメン.....悪かった.....ヌナを泣かすつもりなんてなかった.....』

ジョンヒョンは立ち尽くしたままそう言った。

「ひどいよ.....」

全身の力が抜けて、私はその場にしゃがみ込んだ。

『ゴメン.....ヌナ.....』

そんな私を、ジョンヒョンが泣きそうな顔で抱き締める。
さっきのジョンヒョンを思い出して、自然と身体がビクッと拒否反応を示した。

『俺の事...嫌いにならないで.....』

そんな私を優しく抱き締めて、ジョンヒョンが耳元で情けない声でそう言う。

「どう...したの...?」

『ゴメン...もうこんな事しないから...だからヌナ...俺の事嫌わないで...』

ジョンヒョンは消えそうな声でそう言った。

「ジョンヒョン...どうしたの?」

『ヌナ...最近忙しそうだったから...それで俺...』

「ん.......」

『俺が会いたいって言ったら、ヌナきっと無理して会ってくれるだろうって思ったけど...だけど俺...ヌナに無理させんの嫌で、ホントは休みの日もヌナが仕事忙しそうだと、俺も仕事忙しいんだって嘘ついて...それで...』

「そう...だったの...?」

いつもとはかけ離れた口調のジョンヒョンに、私は胸が痛んでいた。

『それで...ホントは寂しかった』

「ゴメンね...」

『なのにヌナ...やっと会えたのになんか素っ気ないし...俺に触れてもくれないし...だからもう俺の事...好きじゃなくなっちゃったんじゃないかって...そしたら俺不安で...ヌナにこんな事...』

「もういいよ、わかったから」

ジョンヒョンの背中を掌でトントンと優しく摩る。

『ゴメン.....』

ジョンヒョン.....こんなに私の事思っててくれてたんだ.....

私と同じように、不安に思ってくれてたんだ.....

そう思ったら、目の前のジョンヒョンが愛おしくてたまらなく思えた。

「嫌いになんてならないよ...」

ジョンヒョンの耳元で囁く。

『ホントに...?』

不安気な声が耳元で聞こえ、私の胸を突き刺していた。

「好きじゃなかったら一緒にいねーし!でしょ?」

ジョンヒョンの口調を真似て、わざと明るく言ってみる。

『ヌナのバカ.....』

「好きだよ」

『ヌナ、もっと言ってよ』

「好き」

『もっと...』

「私にばっかり言わせてズルイ」

『俺もちゃんと思ってるヌナの事...』

「どんなふうに?」

『だから.....』

「だから?」

『...........愛してる』

ジョンヒョンからの、初めてのその言葉にドキッと心臓が跳ね上がる。
息が苦しくなって、呼吸を落ちつけようと自分の胸に手を置いた。
......ボタンを外されたブラウス...私...今そんな格好だったんだ...そう気が付いた。その瞬間に、恥ずかしさでいっぱいになった。
キッチンで...しかもこんなひどい格好で...。ロマンチックでもなんでもない、そんなジョンヒョンからの愛の告白を、私は一生忘れない。

『愛してるってば』

「私も」

『私もじゃわかんない』

「優しくしてくれるなら抱かせてあげてもいいよ?」

『ヌナのバカ...。ホントはヌナが抱かれたいくせに...』

「じゃあやっぱりいいや」

『バカ...俺がよくないっつーの!』

ジョンヒョンは軽々と私を抱き上げると『優しくするから♡』と私の耳元で囁いた。

「バカ.....でも愛してる」





end
私だけに見せる表情



ジョンヒョンversion






今日もまた、ジョンヒョンを目で追ってしまう自分に気が付いて、慌てて視線を逸らす。

裏表のない、あっけらかんとした性格のジョンヒョンの周りには、いつも人が集まっていて、楽しそうに話す姿が私には眩しかった。

一方の私といったら、感情表現が苦手なせいもあって、冷たい、怖いと陰口を叩かれるような始末だった。

理解してくれる人がいないわけでもなかったが、私自身が他人を受け入れるまでに時間がかかっていた。

『ヌナ!みんなと昼メシ行くからヌナも一緒に行こうぜ!』

ジョンヒョンが私に声を掛ける。

周りの人達の視線が、ジョンヒョン何でこいつを誘ったんだよというように見えたのは多分私の見間違いじゃない。

「えっ.....私はいいよ。お弁当持って来たし」

『何?ヌナ料理出来るんだ?今度俺にも弁当作ってよ!』

「えっ...?何で私がジョンヒョンのお弁当作るのよ」

そう答えながらも、ジョンヒョンにお弁当を作って、2人で一緒に食べる姿を想像してしまっていた。それを打ち消すかのように、ジョンヒョンを呼ぶ声が聞こえた。

【オィ!ジョンヒョン行くぞ!】

『おぅ!今行くー!』

ジョンヒョンは、振り返って仲間に声を掛けると、また私へと向き直ってこう言った。

『じゃあヌナ、今度は俺にも作ってな!約束したからな!』

そう一方的に言うと、仲間の元へと去って行った。

料理には多少自信があった。だけど、きっとジョンヒョンは本気で言ったわけじゃない。そんな社交辞令のような言葉がわからない程、私も子供じゃない。

そんな事を思いながら、テラスへと移動した。一番奥の植え込みの横のベンチが私は気に入っていた。いつものその場所に座り、弁当箱の蓋を開ける。一口食べると、美味しく出来たはずの弁当が、何故だか今日は味気なく感じた。




残業を頼まれたせいで、週末だというのに、私はまだ帰れずにいた。

適当な理由を付けては、残業を断わって帰って行く同僚達の姿を横目で眺める。

【すみませぇ~ん。今日予定があるんですぅ~】

そんな甘ったるい声で話しかけられ、自然と私の顔も険しくなってしまう。

【ヤダ怖~ぃ。私が予定あるせいで、押し付けちゃったみたいで、何だかごめんなさぁ~い】

仲良くもないのに、馴れ馴れしく私の肩に触れる。その事が私の苛立ちを露わにさせた。

「そんな甘ったるい声は、男の前でだけで充分でしょ。いいから早く帰って。仕事の邪魔だから」

私が目も合わせずに言うと、同僚は一瞬息を飲んだようだったが、結局何も言い返せずに黙って帰って行った。

私は眼鏡を外して、眉間に寄った皺を伸ばすように自分の額に手を当てた。

大笑いしながら誰かが部屋に入って来るのがわかった。うるさいなぁまったく、誰よ.....?
そう思いながら私は眼鏡をかけ直した。

「あっ...ジョンヒョン.....」

『ヌナ最高!さっきのあいつの顔見た?いやーマジ笑えたわ』

「ヤダ...見てたの?」

『俺もあいつのあぁいうとこ、マジ嫌な奴だと思ってたから、ヌナがハッキリ言ってくれてスカッとしたわ!』

「それはどうも」

私はわざと無愛想に言った。

『なぁヌナ!それともう一個いい?』

「何?」

ジョンヒョンが私の側に来て私の顔を覗き込む。
胸がドキドキと高鳴って、私は思わず下を向いた。
そんな私の事なんて御構い無しに、ジョンヒョンは下を向いた私の鼻の上に指を掛けると、いとも簡単に私の眼鏡を外した。

『眼鏡、ないほうが可愛いのに』

ジョンヒョンにそう言われ、自分の顔がどんどん赤くなるのがわかった。

「ちょっと!からかわないでよ。ほら早く返して、全然見えないよ」

眼鏡を取り返そうと伸ばした手を、ジョンヒョンがそのままグイッと引き寄せ、私を抱き締めた。

『返してやんない』

「何でよ...眼鏡ないと困る」

私はドキドキして声が震えそうになっていた。

『ヤダ』

「子供じゃないんだから...」

『子供じゃない』

ジョンヒョンは私を見つめてそう言うと、私の頭の後ろに手を回し、私を強く自分へと引き寄せると、逃さないと言わんがばかりにキスをした。そうして何度も熱く吸い付くように繰り返されるキスに、私は目を閉じて身を任せた。

『俺、ヌナの事好き』

ジョンヒョンのキスに溶かされて、私は頭がぼーっとしていた。

「ん...?今なんて言ったの......?」

『ヌナの事、前から好きだった』

ジョンヒョンからのまさかの告白に、嬉しい思いと信じられない思いとが頭の中で交差した。

「嘘...でしょ?」

『嘘じゃない。ヌナは俺の事嫌い?』

「............」

『どうして何も言わないの?さっき同僚には言いたい事、ハッキリ言ってたのに...』

「............」

何も答えなかったのは、頭を整理したかったから...
そこにジョンヒョンが追い打ちをかける。

『ヌナは俺の事嫌い?』

思わず本音が出てしまう。

「嫌い?とかわざわざ聞く人が嫌い」

『そっか.......ゴメン......』

ジョンヒョンの声が小さくなった。

「どうしたの?さっきの勢い」

『..........』

「ヤダ...何?もしかして凹んだ?」

『うっせーな.....』

そう言いながらも、ジョンヒョンは、私を抱き締めた腕を解こうとはしなかった。

「ジョンヒョン、こんな可愛いとこあったんだね。私、ジョンヒョンの事ずっと見てたのに気が付かなかったよ」

抱き締められた腕の中で、私は素直にそう言った。

『えっ.....?』

「だから.....好きだってば」

『何だよ、だったらもっと早く言えよ。ヌナ俺なんかに興味ないと思ってたから、俺...結構辛かったりしたのに...』

「偉そうなんだか凹むんだか、どっちかにしてよね」

ジョンヒョンの胸元におでこをコツンとぶつけてみせる。

『うっさいなヌナは...好きだけど』



その時、誰かが廊下を歩く足音が聞こえて、私達は抱き合った腕を慌てて離した。
ジョンヒョンは咄嗟の事で動転したのか、私のデスクの下に小さくなってしゃがみ込んだ。

【こんな時間までお疲れ様です】

警備員のおじさんが私に声を掛ける。私も平静を装って挨拶を交わす。

「お疲れ様です。あと少しで終わりますから」

私がそう言うと、警備員のおじさんは、軽く会釈をして通り過ぎて行った。



「ジョンヒョン...警備員さんもう行ったよ」

私が声を掛けると、ジョンヒョンは真っ赤な顔をしてデスクの下から出てきた。

「ジョンヒョン...?顔赤いよ?どうした?」

『..........』

「ん?」

『今、この下でヌナの足...目の前にあって...』

「ヤダちょっと!」

『そんでその...スカートの間から見えそうで...それで俺...』

「ちょっと!変態!」

『変態じゃねーよ。好きな女のそういうの目の前にあって、ドキドキすんのあたりめーだろ!』

ジョンヒョンが口を尖らせる。

「その顔も初めて見た」

私はそう言うと、ジョンヒョンの尖らせた唇に、チュッと音が鳴るようにキスをした。

『うわっ!今のずりー!もっとちゃんとキスしてよ』

「また今度ね」

『人の事その気にさせといて』

「あのね、ジョンヒョン。私まだ仕事終わってないの。さっきジョンヒョンがこの部屋に来てから今までその...なんていうか...こうなっちゃったから...。だから仕事終わらせなきゃ」

『明日じゃダメなの?』

「ダメ」

『何か急に寂しくなった』

ジョンヒョンが甘えた声を出す。

「そういう事言わないの」

『...........』

今まで知らなかったジョンヒョンの一面に、私の方がホントは仕事どころじゃなかった。だけど公私混同しちゃいけないと、自分に言い聞かせていた。

「ねぇジョンヒョン。良い子で待っててくれたら、私の手料理ご馳走するよ」

私のその言葉に、ジョンヒョンの顔がパッと明るくなった。

『ってことは!ヌナん家で...』

「バカ何想像してんのよ!料理食べたら帰すから」

『えーっ!』



ジョンヒョンを見ていると、どんな時に嬉しくて、どんな時に悲しくて、どんな時に拗ねて、どんな時に喜べば良いのかがわかる。

そんな素直なジョンヒョンに、好きだと言ってもらえた事が、私の一番の誇り。

これからもっといろんな表情を、私だけに見せてね。

これからも私、ジョンヒョンだけを見つめて行くから.....





end
「君に出会えたから」





ミニョクversion






あの日君と出会えたから、寂しかった僕の心にも温かい火が灯ったんだよ...





「好きな人が出来たから別れてほしい」

彼女からそう言われたのは半年前...

『それじゃ仕方ないね』

僕は大人のフリをして、彼女を引き止めることもしなかった。






早く忘れなきゃ...

そんな思いと裏腹に、今日もまたこの場所に来てしまった。

彼女とよく来た水族館で、今日も僕は彼女との思い出に彷徨いながら、こんな狭い水槽の中で、不自由に泳ぎ回るイルカを見ていた。



「ねぇねぇ見てよミニョク!」

勢いよく僕の腕を引っ張りながら、彼女はいつもキラキラとした笑顔を見せていた。

「私ね、イルカを見てると何だか凄く癒やされるんだ」

『こんな狭い水槽の中で泳がされて可哀想じゃん』

僕が言うと「ココにいるからいつでもイルカに会えるし、私達が癒やされるんでしょ!ホントにミニョクは夢がないな」と彼女はいつも口を尖らせた。

そんな事を思い出しながら、僕はひとりイルカを眺めていた。


彼女はきっと、僕という狭い水槽の中じゃなくて、僕と別れて海に出たかったのかな...そんなふうに思えた。



イルカなんて見ても余計に切なくなるだけなのに、それでもまたココにいる...



僕...何やってんだろな...





「やっと見つけた!」

女性の大きな声とともに、突然後ろから抱きつかれた事に、声も出ない程驚いた。

「ずっとずっと探してたんだから!」

誰......?聞き覚えのない声に頭の中が混乱する。

『あの.....』

僕はゆっくりと振り返ると、その女性は僕に抱きついていた腕をようやく緩め、顔を上げてみせた。

「あっ.....!!!ごめんなさいごめんなさい!」

女性が慌てた様子で僕から離れる。

何が起きたのか理解するまでに、そう時間はかからなかった。

「ごめんなさい。人違い...ホントにごめんなさい」

その女性は顔を真っ赤にして何度も僕に謝った。
その姿が何だか可笑しくて、僕は女性に笑いかけた。

『そんな何度も謝らなくて大丈夫だから』

「ホントにごめんなさい。私、そそっかしくて...それに...あなたが...凄く似てたから...」

女性の声は次第に小さくなっていった。

『彼氏とでも逸れちゃった?』

僕が問いかけると、女性は下を向いてこう答えた。

「逸れちゃったんじゃなくて...手放したの」

女性はそう言うと悲し気に微笑んだ。

『その人...イルカ...好きな人だったの?』

僕が戸惑い気味にそう聞くと、女性は僕の方を見て頷いた。

「私もイルカが好き。...でも、こんな狭い水槽の中で泳がされて可哀想」

女性はそう答えた。

『僕もずっと同じ事...思ってた』

僕がそう答えると、女性は僕を見て驚いたような顔を見せて笑った。

「そういうのって、夢がないって言われません?」

『.....言われる』

僕がそう答えると、女性は「そうですよね」と言って声を上げて笑った。
僕もその笑い声につられるように笑っていた。

声を出して笑う事なんて、久し振りの事だった。

こうやって、また笑う事の出来た自分が嬉しかった。


さっきまで暗い顔をしていた僕と、同じようにさっきまで暗い顔をしていた女性が、今は一緒に笑っている。

僕は何だか不思議な気持ちになっていた。


『ねぇ?一人で来たの?』

「はい。一人です」

『もし良かったら.....』

言いかけてからコレって、ナンパだと思われるかな?なんて思って言い淀むと女性が言った。

「もし良かったら、続き一緒に回りませんか?」

『今、それ言おうか迷った』

僕が言うと、女性は「何となく、そうかなって思いました」そう言って微笑んだ。

『じゃあ、そっち行って見ようか?』

僕が順路の矢印を指差しながら言うと、女性は「私、ナンパされたなんて思ってませんよ」そう言って笑った。

初めて会ったのに、何故か気持ちを察してくれる事に、僕は驚きながらも嬉しいような気持ちになっていた。

昔から知っている人と過ごすように、水族館の中を2人で歩いた。

一通り見終わると、女性が言った。

「帰る前にもう一回、イルカを見てもいいですか?」

『うん。じゃあそうしよっか』





イルカの水槽の前に立つと、女性は水槽のガラスに耳を傾けて目を閉じる。

「イルカ達がなんて話してるのか知りたいな」

女性はそう言って耳を澄ませる。

『わかったら僕にも教えて』

そんなふうに自然と口から言葉が出た事に、自分でも驚いていた。

「わかったら教えますね」

女性も自然とそう答えた。





いつもは寄らないお土産売り場に、女性が寄りたいと言うので一緒に入った。

イルカやシャチの置物や、ぬいぐるみ、水族館限定のお菓子などが所狭しと並べられている。

「名前、何て言うのか聞いてもいいですか?」

女性が僕に尋ねる。僕は素直に『ミニョクだよ』と答えた。女性は「ミニョクさんですね」と僕に笑いかけた。




水族館の出口で、女性はカバンから小さな袋を僕に手渡した。

「これ、今日のお礼です」

『え?何?』

小さな袋を開けてみると、そこにはイルカのストラップが入っていた。
イルカの横では【M】の文字が一緒に揺れていた。

『あっ!これって』

「ミニョクさんのMです」

『ありがとう』

「実は私もお揃い買っちゃいました」

そう言ってカバンからそれを取り出して僕に見せる。

『ホントだ』

イルカの横では【R】の文字が一緒に揺れているのを僕は見ていた。それに気が付いたのか女性は言った。

「あっ、私の名前リョウって言うんです。名乗るのが遅くなっちゃってすみません」

そう言ってリョウは、僕に向けて小さくお辞儀をした。

『リョウちゃんね。今日は楽しかった。ありがとう』

「こちらこそ、何だか付き合わせちゃってすみませんでした」

『そんな事ないよ。ホントに楽しかったし』

「私も楽しかったです」

そう言ってリョウが僕に笑いかける。

『気をつけて帰ってね』

そう僕が言うと、リョウは頷いた後、僕に向けて手を振ると、駅の方へ向かって歩いて行った。



リョウの背中を見送りながら、僕は手の中に残されたイルカのストラップを、自分の携帯電話へと付けた。








家に帰ると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、ソファーへ腰を下ろした。

痛っ...

座ると同時に襲われた痛みに、Gパンのポケットに入っていた携帯電話を慌てて取り出した。

あっ...これのせいか...

携帯電話に付けていた、リョウにもらったイルカのストラップ...

僕はそのストラップを眺めながら、リョウの事を思い出していた。

リョウと過ごした今日の数時間は、とても心地良い時間だった。

そして、連絡先を聞かなかった事を、後悔していた。


また会いたいな...


僕はそんな気持ちになっていた。

今日、水族館に行くまでは、もう戻っては来ない別れた彼女の事ばかり考えていたのに...
それが今では、とても無駄な時間だったように思えていた。



目の前の霧が少しずつ晴れていくような、そんな気がしていた。



連絡先は聞かなかったけれど、きっとまたリョウに会える...
僕には、そんな根拠のない自信みたいなものがあった。


そんな思いを胸にしながら、僕は眠りについた。








眼が覚めると、まだ窓の外はまだ薄暗く、日の出前のようだった。

いったい今、何時なんだろう?
そう思いながら、枕元の携帯に手を伸ばす。

携帯の待ち受けに表示されていたのは
《 AM5時 》の文字。

まだそんな時間だったのか...

手にした携帯に付けられたイルカのストラップを見て、リョウの事を思い出した。
それと同時に、昨日の事は夢じゃなかったんだと思い、僕は何だか安心した気持ちになった。

そうして僕はしばらくストラップを見つめていた。



そういえば...
別れた彼女に貰ったペアのストラップを、未だに捨てられずにしまい込んでいた事を思い出した。

2つが合わさるとハート形になるタイプのストラップを、半ば強制的に付けさせられていた。

僕が『ハートが最初から割れてるなんて縁起悪すぎるからヤダ』と言っても、彼女は「ずっと一緒にいるんだからそんなの心配ないよ」そう言って僕の意見なんて聞かなかったっけな...。

僕は引き出しからハートの片割れのストラップを取り出すと、何の迷いもなくそれをゴミ箱へと投げ捨てた。


やっと未練を断ち切る事が出来たような、そんな清々しい気持ちになれた朝だった。



リョウにまた会いたいな...


僕の頭の中はその事でいっぱいだった。







仕事中もずっと、リョウの事が頭から離れなかった。
度々携帯電話を取り出してはストラップを眺める。

ひとつの事を考え始めると、他の事が手に付かなくなるのは、昔からの僕の悪い癖だった。

今朝早くに目が覚めたお陰で、まだ昼過ぎだというのに、眠気が僕を襲っていた。
そんな眠気を追い払うように、僕は自動販売機へとコーヒーを買いに行った。

小銭を取り出そうと、ポケットに手を入れる。

ん...?

ガサガサしたものが指先にあたり、それをポケットから取り出すと、それは昨日リョウがストラップをくれた時にストラップが入っていた小さな袋だった。
ポケットの中でクシャクシャになったその袋を、自動販売機の横にあったゴミ箱へと捨てようとした時に、袋に何かが書かれているのを見つけた。
僕はその文字を確かめるように、クシャクシャになった袋を破れないように、指先でそっと広げた。

【 また一緒にイルカ見たいな 】

そこには確かにそう書かれていた。

リョウもまた、僕に会いたいと思っていてくれていたんだ。

僕はその袋を小さく畳むと、ポケットの中に大事にしまった。


会いたい...


僕は仕事が終わったら、またあの水族館に行ってみようと心に決めて、仕事へと戻った。

さっきの眠気はもう、何処かへ消えてなくなっていた。







仕事が終わったのは、水族館の閉園時間がとっくに過ぎた頃だった。

それでも僕の足は、あの水族館へと向かっていた。

何故だか、リョウが待っているような、そんな気がしていた。






水族館の前に着くと、入り口には閉園の看板が立てられていて、人通りも少なくなっていた。

辺りを見回してみたが、リョウの姿を見つけることは出来なかった。

そうだよな...

会える約束なんて、何もなかったもんな...

そんなガッカリした気持ちと、切ない気持ちが僕の胸を締め付けていた。



そういえば.....



水族館の裏手にあるイルカのオブジェの事を思い出し、僕はそこへ行ってみることにした。

吹き付ける風が、体に染みて上着の襟を立てて、ポケットに手を入れる。

リョウがメモを書いてくれた袋が指先にあたり、僕はまたその袋を取り出してリョウの文字を何度も読み返しながら歩いた。





イルカのオブジェが見えた頃、夜風の冷たさに、僕の体はすっかり冷えていた。

誰もいないその場所で、イルカのオブジェを見ながら僕は呟いてみる。

『なぁ...僕もお前達みたいにさ、口にしなくても伝え合える周波数みたいなの?よくわかんないけどさ、そんなの持ってたらさ、会いたい人に会えない時にも、ちゃんと会いたいよって伝えられるのにな...』

暗闇でそんな事を呟いている自分が可笑しくて、思わず苦笑してしまう。


とりあえず帰ろう...

今日は帰ろう...

仕方ない気持ちで振り返り、重い足取りで来た道を戻る...




「届いたよ!ミニョクさんの周波数!」

不意に後ろから声を掛けられて振り返る。

『あっ.......!』

そこにはリョウの姿があった。

「きっと今日、また会えるって思ってた」

『根拠のない自信?』

「そう。ミニョクさんもそう思ったから来たんじゃないの?」

リョウはそう言って俺に笑いかけた。

『会いたかった...』

「私も...」

『リョウちゃんの事、何も知らないけど、君に出会えたお陰で、なんかいろいろ吹っ切れた』

「私も今、同じ事言おうとしたのに」

『イルカのお陰かな...なんて言うか...周波数?』

「じゃあ次に私が言おうとしてることわかる?」

リョウが僕をじっと見つめた。
その目を見つめ返しながら、リョウの胸の内を考えると、僕の心が次第に熱くなるのがわかった。

『何も知らないけど......好きになった』

僕はリョウを抱き締めた。

リョウの冷えた体が僕よりずっと、長く待っていてくれたことを物語っていた。その事を思うと、余計に愛おしく感じて、抱き締めた腕に力が入った。

「これからも一緒にイルカ見てくれる?」

リョウがそう呟く。

『今度は狭い水族館の水槽の中じゃなくて、海で自由に泳ぐイルカ見に行こう』

僕がそう言うと、リョウは僕の腕の中で小さく頷いた。

こうして抱き合った温もりが、じんわりと心を溶かしていった。


『ねぇ...?』

「そんな事聞かなくていいよ」

『ん...』

僕はリョウの頬を両手で優しく包み込み、リョウの唇にそっとキスをした。






始まりは突然だけど、こうして互いが繋がれる...


こんな恋なら大事に出来るよ...


君をもっと教えてね...?


僕も僕の思いを伝えていくから...





end