「消せない記憶」
代わりなんか作らないでよ...
寂しさを他の何かで埋めようとしないでよ...
ジョンシンのそういうとこ.....
嫌い.......
『なんでそんな事で怒るの?』
「そんな事?私の怒る理由なんて、ジョンシンにとってはそんな事なの?」
『そういう意味じゃなくて.....』
「じゃあどういう意味?」
『だからそれは.....』
言葉を上手く選べずに、言い淀むジョンシンに私は言った。
「ジョンシンのそういうハッキリしないとこ、ホント嫌い」
『.........』
「帰る」
『ちょっと待ってよヌナ』
私だってホントは帰りたくなんてないよ.....
もっと一緒にいたいよ.....
喧嘩の原因は、1枚の写真。
ジョンシンのSNSにUPされた1枚の写真。
ジョンシンの腕枕に、安心した顔で寄り添うジョンシンの新しい家族、シンバ...
私の一番いたい場所を独占して、幸せそうに眠るシンバと、その横で幸せそうに微笑むジョンシンの写真。
何もしなくてもジョンシンに無条件で愛されているシンバ.....
ジョンシンの愛は、私だけに向けられていたはずなのに.....
嫉妬のような、苛立ちのようなこの感情はやっぱり寂しさの裏返しで.....
だけどやっぱり私には、シンバの事だってジョンシンの言うように『そんな事』なんかじゃなくて.....
だから私は、帰るなんて強がってジョンシンの部屋を飛び出したのに.....
玄関のドアが閉まる瞬間に、寂しさばかりが私にのしかかる。
「......ジョンシンのバカ.....追いかけてよバカ.....」
喧嘩の後はいつもそう、ジョンシンからの『ヌナゴメン』のメール.....
私はそれに返信しない。
謝って欲しいわけじゃない。
ただ.....私の言えない気持ちをわかって欲しいだけなのに.....
どうして何度も謝るのよ.....
数日置きにUPされるジョンシンのSNSは、それでもやっぱりシンバの写真ばかりで.....
ねぇジョンシン.....
私の気持ちなんてわかってないの?
そしてジョンシンのメールは今日もまた
『ヌナゴメン...』
私は感情のない冷たい文面で
「私の気持ちわかってない」
それだけ返信した。
『正直どうしていいかわからない.....』
すぐに返信されたジョンシンからのメール。
「それを私が教えてあげなきゃいけないの?」
我ながら冷たいと思う、愛の欠片も探してもらえないようなそんな文面。
ジョンシンの絶句したような顔が思い浮かんでいた。
返す言葉が見つからないのか、ジョンシンからの返信がピタリと止んだ。
ジョンシンのバカ.....
「ジョンシンのそういうとこ嫌い」
私はそう送信して、携帯をテーブルに伏せるように置いた。
男のくせに.....
そういう言い方は本当は好きじゃないけど、男らしく強く諭して欲しい時だってある。
気付いてよバカ.....
食欲がなくなるのはジョンシンのせい。
眠れないのもジョンシンのせい。
私がこんなふうになっちゃうのは全部全部ジョンシンのせい。
涙よりも溜息が出ちゃうのもジョンシンのせい。
こんなに大好きなのに、嫌いと言わせるのもジョンシンのせい。
私の頭と心をいっぱいにしてるジョンシンのせい。
こんな思いごと手離してしまえたらどんなに楽になれるだろう...
その時は神様...
ジョンシンとの思い出も私の記憶から消し去ってね...
じゃないと私...
あの日私を抱きしめてくれたハグの温もりを持ったまま生きているのが辛いから.....
よく晴れた日曜日...
ジョンシンとお弁当を持って訪れた事のある公園を、私は一人で歩いていた。
少しずつ色付き始めた樹々の紅葉と、柔らかに吹き抜ける、風に揺れる葉音を聞きながら、秋を感じる。
『秋になったらさ、2人で紅葉見に来ようね♡』
そう言って笑ったジョンシンの顔が浮かんできて、涙が出そうになった。
ジョンシンのバカ.....
嫌いになれるわけないじゃない.....
近くのベンチに腰を下ろして、涙がこぼれ落ちないように空を見上げる。
足元にくすぐったい感触を感じて目をやると、仔犬が足元で私を見上げていた。
その可愛さに私は仔犬を抱き上げて膝の上に乗せ、頭を撫でた。
目を閉じて心地良さそうにする仔犬を見ているうちに、私の心が少しずつ安らいでいくのを感じていた。
『シンバ!』
.............?
私は驚いて顔を上げる.....
「ジョン...シン.....」
『シンバお前ずるいよ!俺より先にヌナのとこ行っちゃって!』
「シンバ....?」
『そう、シンバ。ほらシンバ!ヌナに挨拶は?』
ジョンシンのその声に応えるように、シンバは私の手にその小さい手をそっと乗せた。
その様子を見てジョンシンは満足そうに笑顔を見せた。
ジョンシンは、シンバを自分の腕に抱き上げて、顔を覗き込むとシンバに話しかけた。
『なぁシンバ。お前にも紹介するからよく聞けよ?この人が、俺の世界で一番愛してる人だよ』
ジョンシンのその言葉がわかるかのように、シンバは《ワン!》とひとつだけ鳴いて、ジョンシンの顔を舐めた。
私は胸がキュンと苦しくなるのを感じていた。自分の掌を胸に置いて呼吸を整えようとしたが、次第に涙が溢れた。
「ジョンシン.....」
ジョンシンはシンバを自分の足元に下ろすと、涙で濡れる私の頬を両手で優しく挟み込んだ。
『ヌナ愛してる♡』
「..........」
ジョンシンに手を引かれ、ベンチから立ち上がる。
ジョンシンは私の泣き顔ごと包み込むようにギュッと私を抱き締めた。
あの日のハグよりも、ずっと温かくて優しいジョンシンの腕に、私はしっかりと包まれた。
ジョンシンが切ない声で語りかける。
『ヌナ...俺の事、嫌いとか言うなよ。俺から離れようとしたりすんな』
「ジョンシン.....」
『もしヌナが俺の事ホントに嫌いなら.....
俺の記憶からヌナとの思い出も全部持って離れろよ.....それが出来ないんだったら俺の側にいろ』
ねぇジョンシン.....
私も同じ事思ってたよ.....
不器用に抱き締められたその腕の中で、私は涙に濡れたままで、ゆっくりと顔を上げてジョンシンを見つめる。
そうすると、ジョンシンも目線を下げて私を見つめた。
心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、私は少しだけ背伸びして、ジョンシンにキスをした.....









