「音楽が持つエモーションをきっかけに、

あと少し音楽へ近づくこと。

 

そして、その受け取りが可能な、

再生音質の実現について、

もろもろ書いていきます」

 

第10回目です。

 

 

 

前回まで、しばらく音質についての話が、

続いてきました。

 

 

今回からは、音楽の受け取りについて、

また少し書いていきたいと思います。

 

 

今回は、

「あと少し歌詞を意識してみよう」ということを、

いくつかの側面から、

書いていきたいと思います。

 

 

また、その例題としての楽曲試聴も、

後半に多く用意しています。

 

 

よろしくお願いします。

 

 

改めて歌詞を意識してみる

この記事を読んで頂いている皆さんは、

普段歌詞をどの程度意識して、

音楽を聴いているのでしょうか?

 

 

歌われている内容を、

深く理解しようとする人もいれば、

印象的なフレーズを拾って

聞く人もいるでしょう。

 

 

またカラオケで歌うために、

歌詞を覚える人も、

多いのではないでしょうか。

 

 

でも、歌詞はあまり意識せず、

聞き流すと言う人も、

実は意外と多い気がしています。

 

 

 

 

世の中で流通する音楽の大半は、

ボーカルが歌詞を歌うスタイルです。

 

 

特に日常的に聴く音楽では、

インストルメンタル楽曲よりも歌唱曲の方が、

広く楽しまれているのではないでしょうか。

 

 

 

 

このボーカルと自分の好みとの相性については、

誰でも直観的な判断が出来ます。

 

 

そんなボーカルとは切り離すことが出来ない、

楽曲表現の重要な一要素として、

今回は歌詞に改めて注目して

みたいと思います。

 

 

 

 

声や演奏音や再生音質と同様に、

歌詞にも意識することで、

音楽表現の受け取りが深まり、

 

ひいてはオーディオ的価値と

エモーショナルな部分の

バランス再認識にも、

 

繋がっていくのではないかと

思っています。

 

 

 

 

言葉の文脈依存性

最初に歌詞に使われる言語によって、

歌詞の役割が変わってくる、

ということから書いていきます。

 

 

楽曲をグローバルで流通させる上で、

英語で歌う事は、

現実的にはほぼ必須条件となっています。

 

 

 

 

この英語での

コミュニケーションの特徴の一つとして、

言語依存度の高さが挙げられます。

 

 

そこでは、伝達される情報は全て言葉で表され、

語られない部分には意思が存在しません。

 

 

 

これは、直接的で明快な表現と、

シンプルな理論でコミュニケーションする、

ローコンテクスト(低文脈依存)文化の特徴です。

 

 

そのために、

私たちからすれば英語楽曲の歌詞は、

どうしても単純明快な事実説明が多いと,

感じることもあるのではないでしょうか。

 

 

 

ちなみに、

ドイツ語は世界一ローコンテクストな言語で、

日本語は世界一ハイコンテクストな言語として、

分類されているようです。

 

 

 

ハイコンテクストとローコンテクスト文化での、

コミュニケーションの違いを、

Wikipediaに書かれている簡単な例で比較してみます。

 

 

日本語では電話を受けて

「xxさんいらっしゃいますか」と聞かれた時に、

「はい、おります」とだけの返事はしません。

 

 

最初の問いかけの背後には

「xxさんと話がしたいので、電話を替わってもらえますか」

という文脈が存在しているからです。

 

 

 

 

一方、英語では、最初から

「Can I speak to Mr.xx?」と

直接的に尋ねます。

 

 

確かに、根本的な発想が違いますよね?

 

 

 

英語における文脈表現

英語の歌詞には、リズムを生み出すという

重要な役割があることは、

第4回でも書きました。

 

 

このことと、

シンプルで直接的な表現を尊ぶ、

ローコンテクスト文化であることが相まって、

 

洋楽では歌詞の内容の重要性が、

相対的に低くなる傾向があると思います。

 

 

 

でも、英語で情緒的表現が全然されない、

ということではありません。

 

 

そのような部分は、

ポエムが得意な領域になります。

 

 

実際アメリカなどでは、

ポエムは日常的に深く受け入られていて、

多くの人が座右の銘のように、

自分の好きなポエムの一節を持っています。

 

 

そのために

「This is may favorite poem.」というようなフレーズも、

日常会話の中でもよく聞かれるのです。

 

 

 

 

このポエムと音楽をより深く融合させた功績で、

ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことは、

記憶に新しい出来事です。

 

 

 

歌詞の更なる役割

歌詞には、もう一つの重要な役割があります。

 

 

それは、

マイノリティが権威に抗う主張(カウンターカルチャー)を発信し、

マジョリティがそれを理解するという、

社会的システムとしての意義です。

 

 

 

非伝統的で荒々しい表現を受け入れる、

文化的バックグラウンドが根付いている欧米では、

音楽が単なる娯楽やビジネス以上の、

価値を持っています。

 

 

 

このことが、莫大な資金を投入し、

全世界に発信する音楽ビジネスモデルの、

大義名分にもなっているのではないかと思います。

 

 

 

歌詞はリズム表現・社会的メッセージ性・

楽曲イメージの補強・心象風景の描写など、

曲により様々な意図をもって作られています。

 

 

 

そのような歌詞の意図を意識して聴くことが、

楽曲への共感をさらに深めることにも、

繋がっていくのだと思います。

 

 

 

 

洋楽の歌詞の和訳を見て、

その内容に拍子抜けしたり、

あるいは激しさにおどろいたりという、

経験を持つ人も多いと思います。

 

 

そのような時に、

そもそも歌詞に求められるものが、

日本と西洋では異なるケースが多い、

という事を知っていると、

より楽しく接することが出来るのかもしれません。

 

 

 

 

日本語歌詞での表現

では次は、邦楽の歌詞についてです。

 

 

とてもざっくりと言えば、

2000年初頭までの邦楽では、

洋楽が持つリズムや演奏表現技術に

追いつくことが、

至上命題だったのではないでしょうか。

 

 

 

第4回で触れたように、

日本語は言葉の構造として、

リズム感の表現が苦手です。

 

 

 

そのような中、

例えば桑田佳祐の巻き舌・

小室哲哉のダンスサウンド・

宇多田ヒカルのR&B・

その後のヒップホップやラップなど、

 

様々なジャンルで、

日本語によるリズム表現への挑戦が、

行われてきました。

 

 

 

その結果、

現在では邦楽としてのオリジナリティが、

かなり実現されてきているのかもしれません。

 

 

そして現在も、

日本語による歌詞表現の可能性追求に、

多くのアーティストが取り組んでいます。

 

 

 

 

歌詞内容では、

洋楽のように社会的でパブリックな内容ではなく、

協調性を重視し、

パーソナルな精神世界で既成概念に抗うなど、

日本人の感性に合った表現がメインになります。

 

 

その時に、

ニュアンス表現の語彙が豊富な言葉による、

ハイコンテクストな表現が用いられ、

行間にエモーションが滲みだすような、

国民性に合う情緒的な歌詞が尊ばれます。

 

 

 

 

日本語歌詞の強み

洋楽と邦楽のそれぞれには、

それぞれの良さがあるということには、

誰もが頷くと思います。

 

 

 

しかし、洋楽か邦楽かという部分が、

相性以前の無条件の

選択フィルターになってしまうことも、

残念ながら事実でしょう。

 

 

西洋文化をベースに

近代化してきた日本では、

演歌を含めほぼすべての音楽は、

西洋音楽の作法をルーツにしていて、

今でも欧米の後追いをしている部分は、

確かにあるとは思います。

 

 

 

しかし同時に、邦楽には

文化的バックグラウンドの共通性、

物理的・精神的距離の近さ、

言葉理解などの、

大きなアドバンテージがあります。

 

 

そのために、

歌詞の内容や背景が理解しやすく、

表現の感性も合うことで、

 

より粒度の細かなエモーションや

音楽表現の受け取りを、

 

気楽に、そして味わい深く、

楽しむことが出来るのでは

ないかと思います。

 

 

よりパーソナルな音楽が増えてきている中、

このような強みを持つ邦楽の価値は、

ますます高まってきているのではないでしょうか。

 

 

 

 

楽曲試聴

今回の楽曲試聴では、

歌詞に特徴がある曲の表現を、

少し詳しく聴きながら、

進めて行きたいと思います。

 

興味がある曲があれば、

ぜひ聴きながらチャレンジしてみて下さい。

 

 

 

 

歌詞には、

情緒的な表現や個人的な世界の描写以上に、

激しく強く時代を動かすようなものも、

存在しています。

 

最初は、そのひとつの例として、

次の楽曲を聴いてみましょう。

 

 

 

楽曲1Lou Reed “Walk on the Wild Side”

 

アーティストについて

 

アメリカのアーティスト。

 

1950~60年代、

アフリカ系アメリカ人公民権運動の

次の社会的気運であった、

性的マイノリティの法的権利獲得運動の最前線で、

 

デヴィッド・ボウイやポップアートで有名な

アンディ・ウォーホルなどと共に活躍。

 

 

ロックの礎となった最重要アーティストの一人。

 

 

 

楽曲について

 

NYが最も危険で荒廃していた時代の、

1972年のヒットナンバー。

 

曲の背景を何も知らずに初めて聞いた時、

それでも何かとても大きなインパクトを

受けたのを覚えています。

 

 

この曲では、

アンディ・ウォーホルのサロンに出入りしていた、

性的マイノリティの様々な人たちについて、

半世紀後の今の日本でも直視が難しいような内容が、

赤裸々に歌われており、欧米でヒットしました。

 

 

ヒットするという事は、

積極性に違いがあったとしても、

世間がその状況を受け入れるという、

姿勢の表れなのだと思います。

 

 

シンプルだけれども、

血液の熱さと脈動のようなビートが、

底に流れているとも感じられる曲です。

 

 

そして、過激だけどそれが今のNYの日常なんだ、

という自分たちを鼓舞するようなメッセージが、

曲の最後で演奏されるサックスで、

表されている気がしました。

 

 

 

音楽では、

上質な楽器の音と歌声で表される世界、

あるいは、かっこいい音や

ファッションアイコンとしての

発信などが行われます。

 

 

しかし同時に、

世の中を切り開くような鋭い表現の世界の存在や、

当然と疑わない価値観の多くがアーティスト達が

身を削って勝ち取ったものの上に出来ていることや、

 

さらには今の常識が決して

不変の真実ではないということも、

このような曲から、

少しでも感じられるのではないでしょうか。

 

 

 

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このコラムの続きは、"note"で有料公開しています。

Music and Sound Quality -10 歌詞の表現

この後は楽曲を聴きながら、その回のテーマを体験的にカバーする、ということを行なっています。

興味のある方、ぜひご覧ください。