――誰から何を言われようともその目はお前の目だ。好きなように使えばいい。
「父上……」
――綺麗だね、その髪と目。ねぇ、友達になろうよ!
――あのねりーちゃん……私、引っ越すんだ。
――また逢おうね! りーちゃん!
「……葵!!」
手を伸ばしても親友の姿はそこになく、残るのは後悔ばかり――
(あれ……ここ、どこだ?)
まだ重い頭を無理やり回転させて、現状の理解を図る。
まだ目も開かないが、体中の痛みとふかふかの感触で充分分かった。
(あぁ、そっか。鎌鼬をあんなにやったんだ。倒れるのが当たり前か)
そしてまた親切な3人組に介抱されたのだろう。
虚ろに目を開けると、ぼやけた世界が視界に入る。
横になった状態のため、自然と見えるのは服のみ。
七分丈のカッターシャツにミニスカート――腰にはガンベルトに二丁拳銃、似たような半袖のシャツに短パン――同じくガンベルトにライフル、黒マント、それに白衣。
さっき介抱されたとき、戦闘をしたときと変わらない3人の――
(……白衣?)
「目、覚めたー? 神崎リイアさん」
視界がはっきりとし、目だけを上げる。
そこには眼鏡をかけニコニコと笑う、茶髪の見知らぬ男がいた。
雰囲気からして、大学生くらいだろうか。
「えっと……誰だ?」
頭を抑え体を起こしながら、浮かんだ疑問をそのまま問いかける。
「シグレといいますー。以後お見知りおきをー」
(医者……だろうな、やっぱり)
周りを見渡すと、最初に寝ていた部屋と違い、医務室の様だった。
まじまじとシグレを見るリイアに、クロが言った。
「大丈夫だよ。シグは一応害はないし、一応腕はいいから」
「一応ってのはどういうことかなー」
ま、いっかー、と言ってシグレはメモとペンを取り出した。
「で、リイア君。今の調子はー?」
「体中が痛い。まぁいつもの事だが」
「あ、やっぱりそうなんだー。いやーびっくりしたよー。クロ君達が帰ってきたと思ったらいきなりすごい症状の女の子差し出されたんだからー」
メモにサラサラと何かを書きながら、 は続ける。
「外傷はないしねー。勝手に体調べさせてもらったんだけど、それは生まれつきー……って言うよりは遺伝かなー? 人並みはずれた動きに肉体の方がついていかないんだねー。それにしてもひ弱すぎるよその体ー。えっと……鎌鼬だっけー? 風で肉を切るなんて、それ君の体でやったらせいぜい5回が限界ってとこでしょー?」
「あ、あぁ」
(本当にすごいなこの人。こんなにスラスラ、鎌鼬の限界まで……)
「で、君の一族の特性を詳しく聞かせてくれるかなー?」
「……」
言っていいか少し考えてから、リイアは喋り出した。
「……神崎一族は、刀に全てを賭けた一族だ」
「刀にー?」
「あぁ。一族の者全員が刀を持つ。その中でも当主は、この代々伝わる『輪廻刀』を手にする」
そう言いながら、ベッドに立てかけていた刀を大事そうに抱えた。
「刀に関しての才は素晴らしい。世界最強といっても過言ではない一族だと私は思う。……が、それはある代償と共に継承されるものだ」
「代償……?」
「虚弱体質だよ。さっき言っていたが、この体はかなりひ弱だ。神崎一族――護刀流は、刀を持ったときの身体能力は他人のそれと比べ物にならない。しかし、その身体能力についてこられる体を持たない」
護刀流は全てを神に捧げ、刀の才を得た。
どんなに修行を積んでも、一族の者以外には体得できない流派。
剣士から見れば恵まれた血、或いは呪われた血。
要は戦車があって燃料がほとんどない状態。最強だが役立たず。
全力で刀を振るえるのはほんの数分。故にその数分に全てを賭ける。
リミッターを外した状態を長く保てば、筋肉は悲鳴を上げ内蔵も損傷する。
それで命を落とした者も少なくはない。
「さらに、護刀流の動きは刀が中心、つまり刀がなければその速さも跳躍力も常人以下になる」
と付け足すと、今まで黙っていたカノンが、口を開いた。
「何でだよ? むしろ軽くなって早くなるんじゃねぇの?」
疑問符を浮かべたカノンに、シグレがため息をついた。
「カノン君、君は腕が片一本無くなってもー、今と同じ速さで走れるー? 今と同じくらい跳べるー?」
「そんなことできるわけ無いだろ。全てのバランス崩されるんだから」
「それと同じだよー。つまり護刀流は、刀も体の一部なんだよー」
「そういうことだ」
頷きながら、リイアも肯定する。
「とにかく、護刀流は刀を持っても使いすぎれば体が崩れる諸刃の剣。しかも刀なしでは生きれない不便な体と言うわけだ……あれ?」
何気なく手を右目にやり、今更ながら違和感を覚える。
「あ、眼帯なら治療するときに取ったよー?」
(でも『見えない』。ということは……)
リイアはシグレに顔を近づけ言った。
「私の目は今、何色だ?」
「んー? 金色だけどー?」
それを聞き、ほっと胸を撫で下ろす。
「そうか。良かった……戻ったんだな」
笑みを浮かべるリイアに、全員が疑問符を浮かべる。
「そういえば……」
不意にクロが口を開いた。
「どうして君は眼帯を? 怪我してた訳じゃないんだろう?」
当たり前の疑問だが、リイアは顔を強張らせる。
(この人達は命の恩人みたいなものだ。やはり言うべきなのだろうか……)
顔を俯かせるリイアに、クロが困惑した顔を見せる。
「いや、何かしら理由があるんだろうし、言いたくないなら言わなくても――」
「……だ」
「え?」
「寿命を、見たくなかったんだ……」
■□■□■アトガキ■□■□■
テスト終わったー!ヒーハー!
もうテスト勉強の間に何度も何度も小説の続きを考えました!
やっと書けた……。
さて、今回は神崎一族或いは護刀流の秘密が明かされましたね。
虚弱体質と引き換えに手に入れた刀の才。それが護刀流です。
そして、これは読みにくかった方いると思うのですが、服装をまだ書いていなかったんですね。
ここに服装を入れることは私の中でだいぶ前から決まってたんです。
……が、やっぱり最初容姿を書いたときに一緒に書いとけばよかったなーと反省しています。
そして、新キャラ登場。シグレです。
茶髪にメガネで白衣、と部分的に私の趣味が入っているのですが悪しからず。
あ、一応言って(書いて?)おきます。文中クロがシグレの事を『シグ』と呼んでいますが、ミスではありません。
次回、「寿命を見たくなかった」と言うリイアの謎の発言の理由とは?
長文失礼しました。