空前絶後の被災を機にパラダイムシフトが要求されるのではないかつまり、人口減少社会では必ずしも拡大再生産だけだ目指す道ではない。

国家観の問題

この大震災は原発事故で科学文明と自然、そこに生きる人間の幸福という問題を提起した。

第2次大戦後、米国の庇護のもとで、軍事にお金をかけずに経済的に復興してきた日本は1990年代には“Japan as number one”などとおだてられて絶頂期を迎えていたが、バブルの崩壊と新興国の興隆によって、21世紀には中国にもGDPを追い抜かれ、自信喪失の状況にある、その中でおきた今回の大震災はGDPを10%程度低下させるのみならず、国家・地方財政の累積赤字を1000兆円の大台にのせるような危機的な打撃を与えるものである。

 岩手県では有名な水族館の10万匹もの動物が、停電のために死んだ一方、宮城県の動物園の動物はえさがない状況で全国各地の動物園からの応援で生き延びた。このことは電気やコンピュータに依存して便利な生活をしている近代の人間にも教訓を与えるものではないか。個人としては自分の肉体的力のみでも生き抜く力を涵養し、国家としては自国だけで生き抜く力を涵養すべきであろう。

 国家的危機管理において、日本人の国民性がいい方向と悪い方向で発揮された。よい方向は略奪などのない、あるいは積極的に金銭的労働的援助を行う道徳性であり、悪い傾向はコンプライアンス重視のために融通がきかず、迅速な対応ができない点であった。

 日本人の持つ無常観もある意味でよい方向に出たといえる。確かに、2万5千人の犠牲者にならず、15万人の避難民になったことは段違いの幸せともいえなくもないわけである。

 お上信仰から脱却して自分の頭で考え実行する習慣をつける必要もあろう。しかしながら、地震後の示された日本人の能力と品性は、この復興後に新たな地平を切り開くことを可能にするものである。国家百年の大計をここに立てて、21世紀を生き抜く方策を探るべきであろう。

財政問題

 震災復興のための費用が必要となる。増税や建設国債の日銀引き受けには難点があり、無利子の復興国債を買えばその分相続税を免除する方法がよいと思う。所謂埋蔵金として1回かぎりだが、国債整理特別会計、労働保険特別会計、外為特別会計から25兆円まで融通可能である。

同時に公務員の特殊法人への天下りシステムが浪費する金を整理する緊急の必要性が生じてきた。逆に今がそのチャンスである。一将なって万骨枯るなどというばかげた制度を改善して、天下りなどしなくても相応な収入がえられるような給与体系も必要である。当面は民主党の公約には及ばないまでも10%の給料カットもやむをえないであろう。

財源移譲を含めた地方分権も重要な課題となるであろう。

 税制については利権化複雑化した特別優遇税制をいったん全部停止して、新たな体系を模索すべきであろう。宗教法人や社会福祉法人にも当面一般税制を適用すべきである、営利団体ではないのだから、剰余金を残す必然性はないはずである。

発電の問題

2050年に原子力発電を50%としたエネルギー基本計画は当然みなおさなけれあならない。福島原発については関東地方の消費者が受益者で、福島県の住民は受益者ではない。もちろん原発立地にともなって住民の了解は得られ、ある程度の補償がなされているわけだが、米軍基地、廃棄物処理場や斎場などの立地と同じような問題点を抱えている。

 原子力発電には4つの利点(安価、大量、燃料の再利用、CO2削減)があるとされるが、2、4番目の利点には学問上疑問符がともる(資料C4参照)。

 理論的には20m程度の津波に耐える堤防をつくれば今回のような事故は防げるであろうが、費用効果として、2番目の利点を殺してしまうことになる。土木学会の原子力津波評価委員会に電力会社が半数近く参加しているのも面妖な感じがある。

結局のところ、原子力発電を今後推進することは困難と思われる。したがってわれわれに残された道は火力発電を復活させると同時に、電気を節約するという古典的な倫理観にもどるということであろう。

 原発は現在53基稼働しており、日本の発電の30%をまかなっている(資料B2参照)が、若狭湾は原発銀座である。冷却水の問題から海岸に立地し、津波の餌食となりやすい。現在建設中や凍結中の原発は12基あるが、当然再検討が必要となろう。     

 世界的にも原発離れの傾向であるが、ドイツでは地方選挙で原発反対の緑の党が勝利し、原発12基が停止に追い込まれた。アメリカとフランスは原発推進を続けるようである