予算の制限が極端にあった私の留学時におけるお金の工面についていろいろと書いてきた。

最後に雑多なエピソードをいくつか。

 

近所のスーパーで、量り売りのチップスのコーナーがあったが、品質と味のチェックと称して毎度つまみ食いをしていたら、いつからか「つまみぐい禁止」の張り紙が貼られるようになった。当時はかなり図々しかったので、「なんだアメリカ人もけっこうしっかり客を観察しているのだな」くらいにしか思わず、あまり気にしなかったが、いま思えば、貧乏学生に対して直接注意するのではなく、かなり優しい対応をしてくれたのだなと思う。ありがたい。

 

トイレットペーパーやキッチンペーパーなどは、学校の教室やトイレから調達してきた。当時は、公共の場所に放置してあるものは、多少なら家に持ち帰って良いという大変自分勝手な考えを持っていた。日本でも公園のトイレなどに「トイレットペーパーを持ち出さないこと」などとたまに張り紙があったりするが、きっと当時の私のような人がいるのだろう。

 

アメリカでは加工品だったり人の手が入ると価格が上がる。一度どうしても餃子が食べたくなったが、ひき肉やキャベツやニンニクなどのアンコの材料は安いが、加工品である皮が高いので、小麦粉を練って棒で平たく伸ばし手作りしてみた。我々は餃子を一度に何十個も食べる人たちなので、作るのは大変だったが、手作りはかなりおいしいことが分かった。

 

また、あるとき同居人である現在の妻が、どうしてもパーマをかけたいと言った。美容院は高いのでパーマ液とカーラーを買ってきて、自宅の浴室でやることにした。頭全体をクルクルのパーマにしたいとのことであったが、洗面台の鏡の前に勉強で使う椅子を持ってきて座らせ、ひたすら髪の毛をカーラーにまくこと5時間。もとより素人のこと、巻いた髪がブチっとちぎれてしまうようなことも起きてしまったが、どうにか頭全体にパーマをあてることができた。パーマ液やカーラー自体もそれなりの値段がしたりして、やはりこのようなことはプロに任せた方が良いなと思った。

 

お金の工面ではいろいろ大変だったが、なんとか人が一年で使う費用で、4年半過ごし、私と現在の妻とで学位を4つも取ることができた。そして何より、お金や物がないことのネガティブな面と、ポジティブな面の両方をいろいろ味わうことができた。ネガティブな面としては、物質的な不便さであったり、蚊よけクリームの治験などの「みじめ」さだったりがあるが、様々な工夫をすることによる発見などポジティブな面もたくさんあった。そして今、スーパーやコンビ二で、ある程度好きなように買い物できる境遇に感謝できる。あれから20年以上経過したが、今でも普通に困らず暮らせている境遇に心から感謝している自分がいることが最大の収穫であったと思う。

 

 

(おわり)