カリフォルニア州エネルギー委員会やティーチングアシスタント(TA)の仕事の他に、少し珍しい仕事をしたので書いておく。この仕事は、デービスの大学で知り合いになった化学学部の大学院生から紹介された仕事で、要は自然素材で身体にも環境にも優しい虫よけ(蚊よけ)の治験である。雇い主はデービスの大学の教授夫婦。虫よけの効果を身を挺して実験してくれる健康な若者2-3名を探しているということだった。
私は紹介してくれた化学学部の知り合いに連れられて、土曜日の朝、雇い主である教授らの自宅に行った。仕事現場は教授らの自宅のリビングである。広々としたリビングには自然素材の商品を開発する夫婦らしく、木製のアンティークのテーブルや、地味だが座りやすそうなソファーはじめ、落ち着いていて高級そうな家具が並んでいた。芝生がキレイに刈られた庭に通じるガラス戸が開け放たれ、良い風も入ってくる。時折快くない匂いなどもする自分のアパートとは雲泥の住空間であった。
仕事は単純である。高さ50センチほどの透明のプラスチックケースに、手を突っ込んでいるだけである。プラスチックは手を突っ込むところだけ穴が空いているが密封状態で、どこで捕まえてきたのか、十数匹ほどの蚊が元気に飛び回っていた。教授夫婦はすっかり休日モードで、ワイングラス片手に簡単に作業を説明し、その後、我々被験者は、虫よけのクリームを腕に塗り、プラスチックケースに手を突っ込むよう指示された。
虫よけは効果がないようだった。蚊はあまり空腹でなかったのか、それほど積極的には襲いかかって来なかったが、フラフラと近づいてきて特段の躊躇もなく腕に着地し血を吸い始めた。少なくとも私が観察した限り、虫よけが蚊の行動になんらかの影響を与えているようには見えなかった。
2-30分ほどの被験を、休憩をはさんで二度繰り返した。10数か所くらいは刺されただろうか。プラスチックケースに手を突っ込んだままなので、痒くても掻けないのが少し辛かった。これで100ドル。面白い経験ではあったが、実験台になるような仕事は微妙である。世間からお金をいただくという行為には程度の差こそあれ命を削るような側面もあるのだろうが、ただただ身体を削る仕事はあまり歓迎できる経験ではないないなと思った。これも勉強である。
(つづく)