貧乏生活とは少し違うが、デービスのアパートでの揉め事について書いておく。

 

デービスの博士課程に進学したのを期に、二年半住んだサクラメントのアパートからデービスのアパートへ引越した。二階建ての二階にある中庭に面した静かな部屋だった。中庭に向いている窓も大きく部屋も明るい。サクラメントのアパートより少しだけ狭目で古めではあるが、悪くない部屋だなと、引っ越してきた時には思った。

 

が、数日経つと時折変なニオイがすることに気づいた。例えるなら猫のフンのような。最初は猫を飼っている近所のお宅からニオイが漂って来ることもあるのかなと思っていたが、窓に近いカーペットのある部分が匂いの源であることがわかった。これは酷い。前の住人から引き継がれる時の清掃が甘かったのだ。

 

部屋の一部から不潔な匂いがする現象はちょっと捨て置けなかった。アメリカのアパートはちょっとした規模になると、管理室があって、管理人が常駐している。私のアパートにもそれがあった。私は管理室に行って管理人のおばさんに状況の改善と補償をクレームすることにした。

 

このような場合にどんなことが要求できるか、クレームにあたってインターネットで法律を調べた。正確には忘れたが、私にとっての満額回答は、部屋をクリーニングしたうえで補償として一カ月か半月か無料にすることだった。海外の貧乏旅行のノリで、交渉を通じて何かふんだくれるものがあればふんだくってしまおう、という気分もあった。

 

補償は受け入れられなかったが、まずカーペットのクリーニングはしてくれたと記憶している。が、それでも匂いが取れなかった。こうなると、部屋の交換か、あるいは別なアパートへ引っ越しか、となった。が、空いている部屋はないとのことだった。また、半年間くらいの居住がアパートを借りる条件だったので、他のアパートに引っ越しする場合は、違約金を払えとのことだった。

 

この時点での私にとっての満額回答は、引っ越したうえで、違約金はなし、そしていくばくかの補償金であった。不潔な匂いはあきらかに居住の価値を棄損している。棄損されている分については、補償してしかるべきだと思ったのだ。どうやら法律的にも不条理でもないらしい。

 

が、アパートの管理人のおばさんは、頑として受け容れなかった。それどころか、匂いの存在すら認めなかった。匂いは個人の感覚の問題である。そして、部屋に入った途端に、強烈な匂いがするというレベルではない。カーペットの匂いの源の部分に鼻を近づけると、間違いなく匂うが、普通に住んでいると時折匂いが漂ってくる、という程度で、それは靴を脱いで暮らし、ちゃぶ台でご飯を食べる我々日本人にとっては耐え難いが、土足のアメリカ人にとっては、それほど大きな問題ではないかもしれない。おばさんからすれば、「確かに匂いはするが、補償をするレベルではない、ではしらばっくれよう」。という感じだろうか。

 

私は無料で利用できる市の相談窓口や学校の弁護士に相談して交渉することにした。加えて、他のアパートを探すことにした。管理人のおばさんへも通告したが、「どうぞご自由に」という対決モードを崩さなかった。ただでさえ勉強やTAで忙しいのに、このうえ新たなことに対応するのは本当に避けたかったが、不潔な匂いとの同居を我慢することは到底できなかった。

 

(つづく)

 

↓匂いのしたカーペット