ジェシカを拉致したのは、反政府派の過激はゲリラ集団だった。
 幼い頃から何の苦労も知らずに育った、いわゆる「お嬢様」であるジェシカは、ゲリラ集団がずっと目を付けていた存在だった。

 ジェシカは手足の自由を奪われたまま、ゲリラ集団の地下にある秘密基地に運び込まれた。
 そこでジェシカが見たものは目を疑うものばかりだった。
 大きなモニターには、ジェシカの生活とはまったく反対の、貧民の生活や戦争の地での闘い、飢餓に苦しむ子供たち、ストリートチルドレンなど、ジェシカの知らない「地獄のような世界」が写し出されている。
 ジェシカは小さく叫び、モニターから目を逸らした。
 ゲリラ集団の中の女性がジェシカの頬を叩き、「モニターから目を逸らすんじゃないの!」とジェシカを怒鳴りつけた。
 そして、与えられた食事は1日に2回。
 ジェシカがかつて見たことも無いような麦パンと牛乳だけだった。
 「お前みたいな、上流階級のやつらがいるから戦争が起きるんだ!!!」
 ゲリラ集団の男がそう言いながらジェシカに食事を与える。
 食事をしていないときは、延々とモニターを見せられるばかりだった。

 殺人、レイプ、地雷を踏んだ子供たち、終わることの無い戦争……。
 何もかもがジェシカの知らない世界であり、ジェシカは泣き叫びながらそのモニターを見続けていた。

 日の当たる場所すら失ったジェシカは、いつしか感情を無くしてゆく。
 ジェシカはその日、高校からの帰り道に友人のルーシーとCDショップに立ち寄った。
 ルーシーとの買い物を終え、行きつけの喫茶店でケーキを食べ終えると、二人はそこで別れて、各々の自宅へと歩みを進めた。
 それがジェシカがのちに洗脳される始まりの日だった。



 ジェシカがルーシーと別れたのは、19時ごろだった。
 幼い頃から自由に育ってきたジェシカは、ルーシーと別れてから自宅までの道程を、その日に限って人通りの少ない裏路地を選んでいた。
 見慣れない黒いバンが止まっていたが、ジェシカは気にすることも無くバンを避け、家路に向かっていた矢先の出来事だ。
 ジェシカがバンを通り過ぎると、バンに潜んでいたゲリラ集団が、ジェシカの後方から襲いかかり、慣れた手つきでクロロフォルムの染み込んだハンカチでジェシカの口を塞いだ。そして気を失ったジェシカの足首をロープで結び、後ろ手に手錠をはめる。
 気を失ったままのジェシカをバンに乱暴に放り込むと、裏路地からジェシカを誘拐したのだった。
 彼女は、その村でいちばんの大金持ちの家の一人娘だった。
 その村で、彼女のことを知らない人間は、恐らくいなかっただろう。
 幼い頃から、お金での苦労は何ひとつなく、欲しいものは買い与えられ、いつでも高級なブランドの洋服を身に纏い、まいにち高級料理を食し、広く豪華な部屋で日々を過ごしていた。
 そして、育ちの良さからか、彼女は性格もよく、学園では人気者で、誰からも愛される少女だった。何より、その美しい髪の毛、モデルのような美しいスタイル、誰もがうらやむほどの美貌の持ち主でもあった。
 彼女の名前はジェシカ。

 あまりにも目立ちすぎる存在だったジェシカは、その美貌の所為で、拉致される運命にある。