大学ジャーナリストの石渡嶺司氏の著書、「キレイゴトぬきの就活論」(新潮新書)には、管理人も一部ご協力させていただいた。その石渡氏が、日経の電子版に「ホンネの就活ツッコミ論」という記事の連載を続けている。このうち、今春に公開された記事について、筆者の経験からも大いに共感する部分があったのでご紹介しておきたい。受験生にも参考になる話と思ったからである。

 

 

 

日経web college cafe 記事 石渡嶺司氏「ホンネの就活ツッコミ論」から

 2017年1月、新潮新書から『キレイゴトぬきの就活論』を刊行。この中で、大学名差別について取り上げました。具体的なデータをまとめ、過去から現在までにどんな変化があったのか、初めて提示できた、と自負しています。

 刊行後のイベントで、ある学生にこう言われました。「就活って、結局のところ、大学名差別が続いている、ということですよね?」。大学名差別については別の機会(管理人注;引用文下段参照のこと)に譲りますが、本で言いたかったのはそこではありません。説明すると、「いやー、大学ジャーナリストを名乗る人が、そういう不平等、不公平がない、と言っちゃ、ダメなんじゃないですか」。そうじゃないんだけどなあ。

適性検査は不公平か?
 就活中の学生からは、この「不公平」「不平等」という話がよく出ます。大学名差別のほかに学生でよく話題となるのが適性検査。それも自宅で受検できるタイプのものです。「ああいうのって、友達同士で答えを出し合えば満点か、それに近くなりますよね? それって不公平じゃないですか?」。こういう質問をよく受けます。

 そういえば、某難関大学では回答が出回っているとか。「そういう話を知っておくことが就活の情報戦なのでしょうか」とも聞かれます。適性検査、特に非言語分野(数学)の、それも、推論・集合などの分野を勉強しておくことは重要です。

 一方、友達と回答を出し合うことや、ネットに出回っている回答を知ることはどうでしょうか。知っておくべき、就活の情報、とは考えません。「でも、そういうのを知っている人が結局は次の選考に進むわけですよね? それって、不公平で不平等じゃないですか」。またしても出ました、不公平・不平等。実は就活の本質は大学受験とは大きく異なります。すなわち、不公平で不平等なのです。

 大学受験であれば、公平性・平等性が徹底して求められます。その典型が大学試験。当日、寝坊など本人の責任による理由で欠席した場合は再受験できません。では、就活ではどうでしょうか。仮に寝坊など本人の理由で説明会・選考に遅刻・欠席したとしましょう。すでに説明会・選考が終了していたとしても、連絡があるかどうかで事態は大きく変わります。

企業はなぜ不公平な対応をするのか
 全ての企業、とまでは言いませんが、「でしたら、別の日程(での選考・説明会)はいかがですか?」と、再調整するはずです。大学名差別も同じ。満席表示が出ている説明会にも、ダメ元で電話をかけられるかどうか。私が調べたところ、電話をかけて参加できる確率はざっと7割程度あります。

 大学受験であれば、どちらもまずありえない対応です。不公平とも言える対応をなぜ企業はするのでしょうか。理由は簡単、実社会が不公平・不平等であり、それに対応できる人材が欲しいからです。何らかの理由で会議や商談に遅れることは社会人でもあり得ます。そのとき、オロオロするだけか、それともきちんと連絡をして次善策を考えられるかどうか。「満席表示」も同じです。商談に行って断られることなどよくあります。一度、行ってあきらめるのか。それとも、別の方法などを考えられるかどうか。

 ニトリの似鳥昭雄会長はこんな名言を残しています。「3回断られてからスタート。4回目は1回目、断られている間にライバルがどんどん減っていく」。

 不公平・不平等は存在します。しかし、やり方によっては、その不公平・不平等が味方にもなるのです。実に不思議なことですが、社会に出ればこうした話はいくらでもあります。そして、社会に出る準備段階たる就活でも同じように、いくらでも起こり得るのです。

「不公平、不平等」と非難しても何も解決しない
 不公平・不平等を気にするのは、大学生だけではありません。実は社会人にもそこそこいます。福島から避難してきた児童・生徒を「賠償金貰えていいな」と、イジメるのも、元を正せば、「楽して賠償金もらいやがって」という発想からでしょう。福島から避難せざるを得なかった苦労を思いやる、という発想などはどこにもありません。

 生活保護の不正受給なども構造は同じです。「不公平で、不平等で」と非難したところで、非難した分だけメリットがあるのか、と言えば、特にメリットなどありません。あえて言えば、「社会の不公平を一つ減らせた」と思い込める自己満足感くらいでしょうか。

 実際には、何一つ、問題が解決したわけでもないのに、実に残念な対応です。「不公平で、不平等」かもしれませんが、ある部分では、公平かつ平等です。では、どの部分か、それは人間力です。急なトラブルに対応できる、一度や二度であきらめない、などの行動ができる学生は入社後も強いだろう、と評価されます。

2回目の適性検査で不正がわかる
 適性検査の友人同士で答えを出し合うことだって、実は公平に評価されています。そもそも、企業側だってバカではありません。答えを事前に知っていること、友人同士で答えを出し合うことなど織り込み済みです。正しい結果が出ないと分かっていて、あえてそうした適性検査を使うのは、値段が安く、最低限の足切りができるからです。正しい結果が出ないから意味がない? そんなことはありません。ある程度、人数を絞りこんでから、今度は会社の会議室で別の適性検査を受検させます。そこで点数のかい離が極端に激しい学生は、「最初の適性検査は、きちんと受けていない。だったら落とそう」と判断するのです。

 ね? 公平でしょ?

 しかも、こういう話、公表しているわけではありません。かくして、ネットでは、最初の適性検査選考に通過した学生が浮かれて、「友人と協力してどうにかなった」「回答集が出回っていて、それが参考になった」と、喜んでいるわけです。浮かれた本人は後日、ぬか喜びになるのですが、ネットではそうした話は出てきません。

 就活は不公平かつ不平等か。いえいえ、そんなことはありません。不公平で不平等な部分もあれば、そう見えるだけの部分もあります。そして、本質では公平かつ平等なのです。冷酷なまでに。

 

難関大以外の学生は、多少の差こそあれ気になるのが学歴フィルターでしょう。学歴フィルターとは、就職ナビサイトで説明会予約などの際に、出身大学によって空席表示・満席表示を変える、というものです。広い意味では大学名によって選考状況に差をつけることでもあります。

偏差値で変わる「人気企業就職率」
 では、どの程度、大学の入学偏差値によって人気企業への就職状況が変わるのでしょうか。はっきりしたデータはこれまでありませんでした。そこで2017年1月に拙著『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)を刊行する際、このデータを整理して提示するようにしました。実は単年度では、大学別のデータがあります。



大学の数値は上から就職者総数、有名企業就職者数、有名企業就職率。太字は大学院修了者も含む

 週刊誌『サンデー毎日』が年1回、主要大学から主要企業にそれぞれどの程度就職したかをまとめた一覧表を掲載しています。データ作成は進学情報会社の大学通信。ただ、単年度データで経年変化がまとまっているわけではありません。そこで、私が大学通信に許諾を得たうえで、経年変化をまとめました。その一部が右の表になります。

 さすがにすべての年度を集計するのは無理だったので、5年分について集計。売り手市場の年(1991年、2008年、2016年)、就職氷河期の年(2003年、2010年)で、主要大学別に就職率をまとめました。大学の数値は上から就職者総数、有名企業就職者数、有名企業就職率になり、太字は大学院修了者も含んでいます。 

 やはり、東京大学、慶応義塾大学など難関大学ほど高く、明治・立教クラスから下がり、日本・東洋クラスになるとさらに下がっています。このデータから、有名企業への就職者の割合はある程度、大学の偏差値に連動していることが明らかになりました。

 また、景気に連動もしています。当然ですが、売り手市場のときは高く、就職氷河期の年には下がります。とは言え、1991年と2016年とでは、ほぼ同じくらいの売り手市場です。ところが、1991年と2016年を比較したとき、東京大学を含め、どの大学でも有名企業就職率が落ちています。

 これは有名企業にこだわらない学生が増えているからに他なりません。

 

ソニー「学歴不問」で難関大出身増える
 大学名フィルターを論じる際に必ずと言っていいほど取り上げられるのがソニーの「学歴不問採用」です。大学名などにこだわらずに採用する、と1991年に発表した同社は学生の人気を集めて当時、大きな話題となりました。ところが、大学名にこだわらないとしたソニーの採用はその後、どうなったでしょうか。

 実は難関大出身者が増えています。『サンデー毎日』/大学通信データによると、導入年(1992年卒)では東京大学・京都大学・大阪大学・一橋大学・東京工業大学の国立5校、それから早稲田大学・慶応義塾大学・上智大学の私立3校、合計8校出身者が採用者に占める割合は15.3%。前年は19.6%なので「学歴不問採用」の効果が出ています。

 ところが、1997年は26.2%、2008年は50.6%、2016年は37.6%とそれぞれ導入前よりも上がっています。いくら大学名は無関係と言っても、難関大学以外の学生を増やすと断じているわけではありません。そのため、難関大学出身の学生が増えたとしても、おかしくはないのです。

学歴不問でも実力不問ではない~毎日新聞社の例から
 大学名不問であっても、企業からすれば実力不問と断っているわけではありません。それをよく示すのがソニーよりも早く学歴不問採用を1979年卒から導入した毎日新聞社です。

 1979年卒では、結果的には4年制大学のみ。1982年卒に上智大学外国語学部を3年生で中退した女子学生が入社します。しかし、この方、高校時代はアメリカに留学。大学在籍時は学内放送のニュースキャスターを務めるなどの才媛でした。

 大学名を不問とする採用であっても、実力を軽視するとは誰も断っていません。ソニーや毎日新聞社の採用は実力不問ではないことをよく示しています。

売り手市場で2段跳び増える
 では、難関大学以外の学生は就職で差をつけられるのが当然なのでしょうか。決してそんなことはありません。特に今年は学生有利の売り手市場です。そのため、企業側は採用者数を増やすようにしています。これまでは難関大学ないし準難関大学にのみ採用を絞っていた企業も、昨年から今年にかけては方針を変えました。例年よりも、偏差値がやや下の大学にも説明会を開催するなど広げています。

 こうした売り手市場も反映してか、大学名フィルターについては1段跳び・2段跳びが目立つようになりました。ある評論家が以前、「あなたの大学の就職先一覧を見てください。それが就職可能な企業の全てです」とのコメントを出しました。

 本人からすれば名言もかくや、と考えてのコメントだったのでしょう。残念ながら私から言わせれば、名言ならぬ迷言、妄言の類です。就職氷河期でも、学生の頑張り次第では、大学の偏差値よりも1ランク上の大学と同じ程度の就職先を選択することが可能でした。それが今年は1ランク上どころか2ランク上ということもあり得ます。

 採用する側からすれば、様々なタイプの学生を採用しよう、と考えます。その際、偏差値が低い大学であっても、勉強熱心である、体育会系で根性がある、など、何か特徴のある学生は採用したい人材となります。

 もちろん、難関大学にこだわる企業もあります。ただ、それは難関大学の学生の優秀さを示すものではありません。採用担当者が少ない、理工系中心のメーカーだと、一部では総合職採用でも難関大学にこだわります。

 一方で、同じ業界、同じ規模のメーカーでも難関大学にこだわらない企業もあります。違いを知るためには総合職の採用実績校を見てみましょう。所属大学の偏差値と同じ程度の大学か、1ランク上の大学が多いようであれば大学名にそれほどこだわっていません。一方、総合職採用でも難関大学に固まっているようであれば、かなりこだわっている可能性が高いと言えます。

意外と知られていない逆フィルター
 大学名フィルターでは、意外と論じられないのが逆フィルターです。難関大学出身者を中堅規模の企業が敬遠しようとすることです。

 先ほど「様々なタイプの学生を採用しよう」と考えて、偏差値の高低を気にしない、と書きました。これは偏差値が低い大学の学生について難関大学出身者が多い企業の話です。実はこの逆、つまり難関大学出身者が敬遠されるということも結構あるのです。

 中堅規模の企業からすれば、社内の上司、先輩社員が中堅クラスの大学出身か、短大卒、高卒者もいます。取引先も同じ。そこに難関大学出身の新入社員が入るとどうなるでしょうか。些細なことで「あいつはエリートくさい」「偏差値の高さを自慢している」などと言われてしまいます。出身大学によって、無用なトラブルが起きる可能性があるなら、ということで敬遠される、これが逆フィルターです。

 もし、難関大学の学生が中堅規模の企業を目指す場合、どうすればいいでしょうか。これは単に頭の良さをアピールするだけではありません。人当たりの良さなどコミュニケーション能力が高い、とみられる必要があります。

 なお、中規模ではなく小規模な企業やベンチャー企業はどうか、と言えば、この逆フィルターがやや薄まります。経営者が大学名をそれほど気にしていない、逆フィルターを気にするほど採用が順調ではない、ビジネス自体が複雑で優秀でないと仕事ができない、などの理由が考えられます。

深刻に考えるほどの意味はない
 大学名フィルターについては、学生が気にするテーマです。しかし、社会に出れば出身大学がどこか、それほど仕事には影響しません。本人次第でいくらでも変わります。もちろん、変わるためには実力がものを言います。その実力を自分なりにどうつけていくか、高めていくか、それが全てです。

 洒落・冗談で「××大学はいい」「自分の▽大学はダメ」などと話すのはいいでしょう。が、それを深刻に考えるのはあまり意味がない、就活を長く取材していて私は強く感じる次第です。

 

さて、管理人の経験に照らして言うと、上記の「逆フィルター」は、少なくとも地方企業には存在する。

地方の県では、地元に本社を置く上場企業は絶対数が少ないため、地元だけでなく就職活動中のUターン希望の学生が入れ替わり押しかけてくるため人事担当者はそれが一番のお仕事になる。しかし、高校や大学なら受験性は入学したら学費を貢いでくれる大事なお客様。公平な物差しとして成績のいい順に採用ということが普通に行われるが、勤め先となると今度は学校と違って、こちら(会社側)が給料を支払う側である。したがって、「こちらの都合」が優先する。すなわち、採用担当者としては、自分が上司となった場合、「使いやすい子」を優先して採用することになる。そこでは、高すぎる学歴は「周囲から浮く」と判断され、むしろ面接で人柄に問題ありそうと判断されれば、容赦なくふるいにかけられることになる。

管理人が東京で就職した企業は、東証1部上場企業の中でもいわゆる日経225採用銘柄の、「大企業」であったが、戦後創業で急成長した製造業という企業文化のためか、エンジニアを除いて東大出身者は殆どいなかった。その後、高松に帰って再就職した上場企業では、不況期の買い手市場で「よりどりみどり」の状態ではあったが、もとは田舎の中小企業ということから、新卒については明確に上記の方針で採用校をふるいにかけていたように思う。

現在、少子化の影響のためか、地域のトップ校と言われるような上位国立総合大学でも就職先上位には地方・国家公務員がずらりと並ぶが、それはそういう背景が根底にあるのかもしれない。