Mr. Short Storyです。

 今回も銀河英雄伝説について考察してみたいと思います。

 

 

 

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 前回は、同盟軍の名将アレクサンドル・ビュコックが皇帝ラインハルトと対決した、マル・アデッタ星域会戦の謎について考察しました。

 彼は、自由惑星同盟滅亡の危機に際して自ら軍に復帰し、そして、同盟軍最後の宇宙艦隊を率いて圧倒的な帝国軍相手に奮戦しました。

 

 ですが、圧倒的戦力差を挽回する事は出来ず、降伏勧告を拒否して皇帝ラインハルトの前で見事な最後を遂げました。

 

 

 これ自体はヤン・ウェンリーやキルヒアイスの死に匹敵する名場面で、たくさんの読者やファン達に大きな感銘を与えたものでした。

 ですが、彼のこの行動には色々な謎が残ると、私は前回の記事で指摘しました。

 ビュコックは、同盟軍の中でもヤンとともに柔軟な思考と広い視野の持ち主で、少なくとも救国軍事会議のように、偏狭な軍国主義で凝り固まった人物ではありませんでした。

 

 

 本来なら、帝国の大軍相手に短期決戦を挑むのは得策ではなく、持久戦、もしくはゲリラ戦を採用すれば、帝国軍の進攻をより長期にわたって防ぎ、少なくとも、同盟軍の残存艦隊がわずかの期間で壊滅する事は無かったでしょう。


 無論、仮にそうしても同盟首都ハイネセンが陥落する事は免れませんが、例えば、政府が辺境に移転する時間を稼ぐ位なら出来たでしょう。

 

 自由惑星同盟の滅亡も、一時的とは言え回避する希望はあったのです。

 ヤンと並ぶ名将であったビュコックが、以上のような選択肢を考慮出来なかったはずはありません。

 

※このブログの動画版

YOUTUBE 銀河英雄伝説解説動画第10回後編マル・アデッタ会戦の謎~ビュコック最後の大芝居~【妖夢&霊夢&魔理沙】 - YouTube

ニコニコ動画 銀河英雄伝説解説動画第10弾後編マル・アデッタ会戦の謎~ビュコック最後の大芝居~【妖夢&霊夢&魔理沙】 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)

 

 

 

艦隊譲渡の謎

 そもそもビュコックが軍に復帰し帝国軍侵攻の矢面に立ったのは、同盟軍最高の知将ヤン・ウェンリーが政府に狙われ、反抗の末、部下達と共に脱出したからでした。

 

 

 もしこの事件が無ければ、ヤンが祖国防衛の指揮を取るか、ビュコックと共に皇帝ラインハルトの大軍と戦っていたでしょう。

 にも関わらず、宇宙艦隊司令長官代理を務めていたチュン・ウー・チェンは、元ヤン艦隊の幹部たちに、残された艦艇の中からかなりの部分を割いて、ヤンに合流させる手配を整えています。

 

 

 

 国難に際し、国防を担う要職が、国を棄てた男に残り少ない艦隊戦力を分け与えるのは独断専行であり、場合によっては利敵行為と見なされてもおかしくありません。

 

 しかし、復帰したビュコックは彼を責めませんでした。

 フィッシャーらに与えられた戦力は五千隻を超えており、本来ならマル・アデッタ会戦に参加させるか別動隊として運用すれば、戦局に少なからず影響を与えられたでしょう。

 

 

 

ビュコックの関与はあったのか?

 それを惜しげもなく与え、どこに行ったか分からないヤンを追いかけさせた。

 しかも、そのヤンは同盟政府に反抗し、見方によっては反乱軍とすら言える立場でした。

 本来なら、ビュコックはじめ宇宙艦隊司令部が支援するような義理はなかったのです。

 ビュコックはこれまで一貫してヤンのよき理解者であり、常時政府筋から睨まれていたヤンに対し、支援と協力を惜しみませんでした。

 

 

 ですが、ただヤンと親しいからと言う理由だけで、これほどの事を敢えて見逃すでしょうか?
 
 そもそもチュン・ウー・チェンの一存だけで、貴重な戦力をどこにいるか分からないヤンに与えたのでしょうか?

 

 

 

ヤン=ビュコックライン

 アムリッツァ会戦後、イゼルローン方面軍司令官となったヤンと宇宙艦隊司令長官に就任したビュコックは、何度か重要な案件を個人的に、そして極秘裏に話し合っています。

 

 

 時にはヤンの養子ユリアン・ミンツが連絡役を務めています。

 

 

 バーラトの和平後、この両者は軍を退役しています。

 

 それ以降も、このヤン=ビュコックラインが機能していたかどうかは、原作では確認できません。

 よって、これを期にこのパイプは絶たれたと考えるのが自然でしょう。
 
 ですが、帝国軍の監視下にあったアレックス・キャゼルヌが、同じく監視されているヤンと巧妙な手段で連絡を取りあっています。

 

 

 

 更に、ヤンが同盟政府に捕らえられた時、彼の妻フレデリカがかつての部下達と連絡を取り、迅速に対応出来たケースに鑑みて、少なくともヤンファミリーの間ではネットワークが健在だったのは間違いありません。

 

 

 ヤン自身は、老境のビュコックを戦乱に巻き込みたくはないという思いが強かったでしょうが、以上の実例より、密かに連絡を取りあう事は可能であり、ヤンとビュコック双方の部下が窓口になってそれを行っていた可能性はありえます。

 

 特に、ヤンの側には諜報の専門家バグダッシュ大佐がいたので、ノウハウに苦労する事もなかったでしょう。

 

 

 

最後のメッセンジャー

 と、言う事はビュコックサイドにも、ヤン=キャゼルヌ間の様な極秘ネットワークが存在し、帝国や同盟政府の監視をかいくぐって、ヤンサイドと連絡を取る事は可能だった筈です。

 それどころか、同盟が非常時に陥った場合の構想を、ヤンがビュコックに何らかの手段で知らせていた可能性も否定出来ません。

 

 その際、ビュコックサイドの窓口となったのは宇宙艦隊司令官代理となっていたチュン・ウー・チェンだったでしょう。

 

 

 

 彼とヤンが直接交流した描写はありませんが、バーラトの和平後、双方の部下を通して水面下で接触していた可能性は十分あります。

 

 実際、出撃前にビュコックは、まだ若いと言う理由で副官のスーン・スール少佐を外していますが、彼にブランデーとメッセージを持たせてヤンの元に送っている事から、彼がビュコック側の連絡担当を務めていたのではないでしょうか?

 

 

 

 また、ヤン逮捕後の様子から、ヤン側の連絡担当は元副官のフレデリカが果たしていた。

 

 つまり、ヤン・ビュコックラインはバーラトの和約以降も機能しており、マル・アデッタ前夜、スール少佐ががビュコック最後のメッセージをヤンに届けるまで存続していたと言えるのです。

 

 

 

壮大な陽動

 ビュコックは、同盟に残された最後の宇宙艦隊約二万隻を率いてマル・アデッタに布陣しましたが、この戦いで帝国軍を撃破できる可能性はほぼありませんでした。

 それを押して、あえて皇帝ラインハルトに勝負を挑んだのはなぜか?

 彼の挑戦に対し、帝国軍は全軍で応じる決定を下し、ラインハルト自らマル・アデッタに向かっています。

 

 

 大切なのは、この時圧倒的な戦力を誇る帝国軍は、なにもわざわざ全軍をビュコックに振り向ける必要は無かったという事です。

 ビュコックが率いているのは二個艦隊程度の戦力であり、これなら一部の艦隊を当ててマル・アデッタを封鎖すれば、彼の意図を挫くことが出来ました。

 その隙にハイネセンを攻略すれば、同盟を滅ぼすのは容易だったのです。

 ここにビュコックの思惑が見えてきます。

 彼はあえて残存艦隊の総力を挙げて帝国軍を迎え撃つ構えを見せ、皇帝ラインハルト達全員の目を引き付けようとしたのではないか?

 

 

 そしてその目的は、そうです。

 ハイネセンを脱出したヤン・ウェンリーを帝国軍の追跡から逃れさせ、その作戦を側面から支援することでした。

 

 

 

 

 

ヒルダは否定するが

 マル・アデッタ勝利の直後、帝国軍は重大な知らせを受け取ります。

 コルネリアス・ルッツ上級大将が守るイゼルローン要塞がヤン達によって落とされてしまったのです。

 

 

 これによりヤンは恒久的根拠地を確保し、以後帝国軍に立ち向かう能力を得ます。

 これは同時に、帝国軍が同盟領と帝国領をつなぐ主要な回廊を一つ失ってしまった事を意味します。

 これに対し、皇帝首席秘書官ヒルダは、あまりにもタイミングの良いこの事態を、ヤンとビュコックの個人プレーが交差したものに過ぎないと、諸将に説明しました。

 

 

 

 ヤンの性格からして、死を覚悟するビュコックを放っておく筈がないし、もしそうすれば、ヤン自身の名声も地に落ちるだろうと。

 だから、ヤンがビュコックの考えを把握している筈がない。

 

 ビュコックの側も、ヤンのイゼルローン攻略作戦を知っているわけがない。

 ですが、マル・アデッタで帝国軍主力を引き付けていなければ、当然、ヤンの行動を警戒する帝国軍は捜索網を張り、彼を捕らえるか撃破するかしようとしていたはずです。

 

 

 

ビュコックは知っていたか?

 もしそうなれば、ヤンがイゼルローン要塞攻略を行う余裕はなくなってしまったかもしれません。

 同盟から逃れたヤンが今後どんな行動を取るか、ビュコックがどの程度把握していたのかは未知数ですが、何の目算もない状態で五千隻もの艦艇をプレゼントするのは無定見と言うべきであり、やはり、彼の構想について何がしか情報を得ていたのではないでしょうか。

 

 

 事実、この時点でヤンは、わずかな兵力でイゼルローン攻略に臨むという一番危い状態にありました。

 また、仮にイゼルローン要塞を手に入れても、まとまった艦隊が無い限り、民主主義の復興はおろか、そこから出る事もかなわない状態だったのです。

 

 

 それを見越してチュン・ウー・チェンやビュコックが出来得る限りの支援をしていたとしたら、彼らはヤンとの極秘連絡網を通じて、何らかのやり取りをしていた可能性があります。

 

 

 

ヤンは味方を犠牲に出来るか?

 ですが、ここで謎が出てきます。

 もしもビュコックがヤンの動きを助けるべく、あえてマル・アデッタで帝国軍に正面決戦を挑むとすれば、ヤンの側もある程度は知らされていたはずです。
 
 ですが、ビュコックの死を知らされた時、ヤンは明らかに狼狽し、こんなことなら無理やりにでも連れてくればよかったと激しい後悔を見せています。

 

 

 ヤンは軍人気質とは程遠い人物で、敵味方関わらず、大勢の将兵を死なせる事に深刻な罪悪感を抱く場面が作中で何度も描写されています。

 

 そんな彼が、敬愛する老将自ら囮になるのをみすみす見過ごすでしょうか?

 これは非常に大きな謎です。
 

 

 

 

軍人と民間人

 ですが、実は彼は味方を見捨てた事が何回かありました。

 

エル・ファシルの時、自分たちを見捨てて脱出した司令官を、民間人を救うため囮にした事。

 

 

 そして、アスターテの時、ラインハルトに襲われた第四艦隊を見捨てて、残る味方を合流させるよう上官のパエッタ中将に進言した事。

 

 

 また、バーミリオン会戦でも、ラインハルトを倒すためとはいえ、敵味方に七割前後と言う甚大な損失を出す事を厭いませんでした。

 

 

 こうしてみると、ヤンは最も重大な目的のためには、敵味方に大きな犠牲を出させる、もしくは誰かを見捨てる決断が出来る人物であるのが分かります。

 その反面、民間人は一貫して救っているので、彼等は絶対に犠牲にしないと言う明確なラインをもっていたのでしょう。

 この時ヤンがイゼルローン要塞攻略に乗り出したのは、同盟の滅亡を見越して民主主義の種を後世に残す事でした。

 この大目的のために、彼は帝国の進攻にさらされる祖国を既に見捨てているのです。

 考えてみれば、祖国すら見捨てているのですから、ここであえて、ビュコック一人を救うため自分と、そして民主主義の将来をかなぐり捨てるとは思えないわけです。

 ではなぜ、彼はビュコックの死を知らされてあそこまで取り乱したのか?

 
 
 

老将天才2人を手玉に取る

 ここでビュコックに戻りましょう。

 彼は同盟最後の会戦を戦いましたが、祖国防衛には失敗しました。

 ですが、皇帝ラインハルト達の注意を引き付け、マル・アデッタに帝国軍のほぼすべてを集める事で、ヤンのイゼルローン攻略を支援する事には成功しました。

 

 

 ゲリラ戦をしなかったのも、敢えて正面決戦を挑んだのも、こうする事で帝国軍主力を釘づけするのが目的だったと考えれば合点がいきます。

 私は上で、ヤンとビュコックがこの構想を共有していた、もしくはヤンはビュコックの意思を知っていて、敢えて自らの目的を優先した可能性について言及しました。

 ここでは原作通り、ヤンはビュコックが死ぬ覚悟を決めていた事までは知らなかった線で考えてみましょう。

 もしそうだとすると、ビュコックがラインハルトを迎え撃つまではヤンも予測出来たでしょうが、彼が祖国に殉じる事までは知らされなかった筈です。
 
 そうなると、ビュコックはラインハルトとヤンと言う当代最高天才二人を、同時にだましていた事になります。

 

 ヤンがビュコックの死に接してあそこまで感情的になったのも、ビュコック達はギリギリまで戦うが、いざとなれば撤退ないし降伏するだろうと思っていたのなら、当然の反応だったと言えます。

 そうなると、この老将最後の戦いは、今後の歴史の流れを変えるためになされた、一世一代の大芝居だったのかもしれません。

 死と引き換えに当代の天才二人を手玉に取り、民主主義再生のチャンスをヤンに託した彼は、案外あの世でほくそ笑んでいたのかもしれません。