Mr. Short Storyです。

 

 今回より銀河英雄伝説に関する考察を展開して参りたいと思います。

 

 

 

 特に、当ブログでは組織内におけるパワーバランスをキーワードに、それぞれのトピックを取り上げ、詳しく解説して行きたいと思います。

 

 同時に、それぞれの記事に対応するゆっくり動画を用意しており、今後各種動画サイトに投稿していく予定です。

 

 ブログを読んで動画を見る。

 

 1回で2度楽しめるスタイルで進めて参りたいと思います。 

 

  ※本記事の解説動画は10月10日(月)投稿予定

 YOUTOBE 銀河英雄伝説解説動画第1弾 レンネンカンプはなぜ同盟駐在高等弁務官に任命されたのか?  霊夢&魔理沙 - YouTube

 

 ニコニコ動画 ゆっくり銀河英雄伝説解説動画第1弾 レンネンカンプはなぜ同盟駐在高等弁務官に任命されたのか? 霊夢&魔理沙 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)

 

 

 

 

 

レンネンカンプ上級大将高等弁務官に

 今回取り上げるのは、ラインハルトが自由惑星同盟を下したのち、そこに駐在する高等弁務官に任命されたレンネンカンプについてです。

 

 

 彼は元ラインハルトの上官であり、その公平な性格を買われて提督として登用されています。

 

 ですが、軍人としては有能でも、高等弁務官と言う政治・外交に及ぶ広い権限を管掌する役職になぜ彼が就けられたのか疑問が残ります。

 この人事を決めたのは他ならぬラインハルトでしたが、さっそくあのオーベルシュタインが反対しています。

 そして、個人的復讐心と疑念にかられたレンネンカンプと、帝国の圧力をかわそうとする同盟議長ジョアン・レベロの暴走によって、帝国と同盟の関係が破たんするという最悪の結果を招いてしまいます。

 

 

 

 つまり、この人事は失敗だったのです。

 ですが、この件に関しては、ただのミスとは言い切れない構造的根拠がある事が分かるようになりました。

 

 

 

ラインハルト絶体絶命の窮地

 帝国を掌握したラインハルトは全銀河を制覇する野心を抱き、神々の黄昏(ラグナロック)作戦を発動し、まず中立国フェザーンを制圧します。

 

 それからラインハルトは同盟領に遠征し、ランテマリオでアレクサンドル・ビュコック率いる同盟軍宇宙艦隊を打ち破り、圧倒的優勢を確保します。

 

 

 

 ですが、後に行動の自由を手にいれたヤン・ウェンリーとの直接対決では始終防戦に立たされ、何度も命の危機を迎えます。

 

 

 

 それまでラインハルトは戦争の天才として常勝の名声を欲しいままにしていました。

 戦乱の時代において、だからこそ彼は帝国の実権を握り、兵士や国民から圧倒的支持を獲得してきたのです。

 その彼が、バーミリオン星域の会戦ではヤンの策に何度も乗せられ、敗北寸前にまで追い込まれたのです。

 最終的には別の帝国艦隊が首都星ハイネセンに進攻し、同盟政府が停戦命令を発した事でラインハルトは死地を免れ勝者となる事が出来ましたが、これが彼の自尊心を大きく傷つけた事は間違いありません。

 

 

 ですが、それだけならば彼自身の個人的問題に過ぎません。

 

 

 

不敗神話の崩壊

 しかし、同盟政府降伏の件は、彼が命じた作戦ではなかったのです。

 あくまでもヤンとの対決に固執するラインハルトを心配したヒルダ、そして彼女の提案を受け入れたミッターマイヤー、ロイエンタール両提督の艦隊による自発的行動でした。

 

 

 

 つまり、ラインハルトは戦場で負ける所を部下の手で助けられたのでした。

 これまでも彼は部下達によって危うい所を救われた場面はありました。
 
 リップシュタット戦役時、暗殺者からラインハルトを守ろうとしてキルヒアイスが死んだ時も、茫然自失した彼に代わり、諸提督達は一致団結して政敵達を葬り、ローエングラム体制確立に貢献しています。

 

 

 ですが、これは戦争によるものではなく、彼ら自身陣営崩壊と政敵による排除を恐れての事でした。

 戦争の天才としてのラインハルトの名声はなんら傷つかなかったのです。

 所がバーミリオンでは明らかにヤンに負けていました。

 しかも、途中でミュラー艦隊が救援に来てますから、兵力的にはラインハルトの方がヤンより有利だったのです。

 

 

 東洋的な指導者だったら部下に救われるだけで権威や信望を失墜する心配はなかったでしょう。

 しかし、ラインハルトは帝国軍の名将・常勝の天才としてこれまでの地位と名声を手に入れ、国内の支持を集めて来た経緯があります。

 ゆえに、自分が最も得意とする戦争で敗北し、しかもそれを部下の手でどうにかしてもらったとなっては、彼とすれば不愉快どころか、自分の権威や立場の危機を感じてもおかしくはないわけです。

 

 

 

パワーゲームと巨大利権の誕生

 さて、新王朝を開いたラインハルトです。

 彼は旧ゴールデンバウム王朝を倒し、フェザーンを手に入れ、自由惑星同盟を下し、銀河に覇権を確立し、人類史上最大の版図を支配する皇帝となりました。

 

 

 

 ですが、その絶大な権威に傷をもたらしかねないのがバーミリオン会戦の件であり、そして、彼を救ったヒルダ、ミッターマイヤー、ロイエンタールの三人は最大の功臣であるのみならず命の恩人でもありました。

 もちろん、ラインハルトの権威がこれにより翳りはしないのですが、バーミリオンで救援に駆け付けたミュラーも含めて、彼らが相対的に他の臣下達より大きな影響力を新王朝のなかで持つようになるのは否定できなかったでしょう。

 そこに自由惑星同盟の高等弁務官と言う重要なポストが出来ます。

 同盟はまだ滅んでこそいませんが、帝国に屈し、帝国軍はその領内を自由に航行し、様々な特権を行使できるようになりました。

 

 

 つまり、巨大な利権と化していたのです。

 この利権を誰が掌握するのか?

 これは新帝国内部でも大きな関心を集めたと思います。

 

 

 

揺らぐ権威

 ラインハルトは新銀河帝国皇帝として、この巨大利権の重要性を痛感していたのは間違いありません。

 もしここでミッターマイヤーのような功臣にそのポストを与えれば、相対的に彼の力は強まり、それは皇帝権の弱体化を意味する。

 

 

 ましてラインハルトはバーミリオンで、自力では勝利出来なかったという負い目があります。

 ローエングラム陣営は実力主義で貫かれています。

 裏を返せば、それを統率する以上、部下たちの信望を集められるだけの実力を示し続けなければいけない。

 そういう緊張感が常にあるのです。

 また、ラインハルトは文官に高等弁務官を任せるという選択も取りませんでした。

 これは推測ですが、文官、つまり官僚にこのポストを任せたら、省庁の権限が高まり、皇帝としてのラインハルトの権力が制限されてしまう。

 

 

 この事を恐れたのではないか?

 ラインハルトはローエングラム王朝を開いた後も、毎年のように遠征を繰り返し、莫大な人命と資金を費やしています。
 
 官僚や省庁が力を持つようになれば、彼の遠征事業が制約される可能性が高まります。

 事実高官の中から、財政悪化を口実に戦争や軍拡に異議を持つ声も出ていました。

 

 

 

レンネンカンプ起用の裏事情

 ですが、それならば他にも妥当な人選はありそうなものです。

 それをあえてレンネンカンプに白羽の矢を当てた真の理由とはなんだったのか?

 レンネンカンプは、ラインハルトが全銀河を制覇するラグナロック作戦発動時、ヤンの守るイゼルローン方面進攻軍に艦隊を率いて参加、この地でヤンとアッテンボローの奇策によって破れています。

 

 

 

 そして、イゼルローンを脱出したヤン艦隊との戦闘でまたしても敗北し、ラインハルトの叱責を受けています。

 

 

 彼は軍人としても提督としても有能でしたが、短期間のうちにヤンに二度も破れ、その自尊心は大きく傷ついていました。

 のみならず、この件により自分の名声や立場、主君や同僚たちの信望や評価が損なわれてしまっているに違いない。

 本人がそう考えたとしてもおかしくはありません。

 つまり彼は、ラインハルト麾下の提督達の中でもひと際大きな弱みを持っていたのです。

 確かに同じ時期にヤンは帝国軍を立て続けに破り、彼により苦汁を飲まされた提督はレンネンカンプのみではありませんでした。
 
 ですが、同じ敵に二度も破れたのは彼だけであり、しかも一度目は上司のロイエンタールと衝突した上独断専行した結果であり、ひと際メンツが潰された。

 

 

 こう思っていたとしても不自然ではなく、事実、高等弁務官となった後、引退したヤンの失点を執拗に探し、そして、同盟元首ジョアン・レベロに圧力をかけ彼の抹殺を謀ったのも、主君ラインハルトへの忠誠もさることながら、それまでの失点を挽回しようとの焦りもあったのでしょう。

 

 

 

弱みと忠誠

 ローエングラム朝銀河帝国成立時、提督達の中で最も立場が弱かったのがレンネンカンプであり、裏を返せば、だからこそ主君に逆らう事が出来ない、もしくは主君に絶対的忠誠をもって仕えるだろう。

 ラインハルトはそう踏んだからこそ、この一見不可解な人事を断行したのではないでしょうか?

 レンネンカンプは生粋の軍人であり、その能力も視野も、あくまで軍隊の範囲を超えるものではありませんでした。

 

 

 これが最悪の結果を招き、本人は責任を取って自殺してしまうのですが、その性格ゆえに、君主からすれば任務に忠実で余計な事をしなさそうだと見えたのでしょう。

 

 

 

明かされる謎

 ここでまとめてみましょう。 

 1・バーミリオン会戦でヤンの前に始終負け続けたラインハルトは、部下たちの機転により敵政府の出した停戦命令のお蔭で救われ、どうにか勝者となった。

 2・ところが、それまで保たれていた常勝の天才と言う名声が傷つき、それに比して彼を救援した臣下達の功績は新帝国の中でもひと際大きく、このままでは皇帝の地位と権威の低下を招くとラインハルトは内心危惧していた。

 3・ゆえに自由惑星同盟高等弁務官と言う巨大な利権と権限をもたらす重職には、自分に最も忠実、もしくは逆らう危険のない人間をつけたかった。

 4・そこで、ヤンに二度も破れ立場が弱くなっていたレンネンカンプを任命した。

 5・その役柄は、上には忠実・部下には公明正大と言うレンネンカンプの性格から見ても相応しいと思われ、軍事以外の視野の狭さも、この場合は皇帝のコントロールを超えて勝手な事をするリスクが少ないと見られていた。

 

 しかしながら、この人事が最悪の結末を招いてしまったのは、物語の示す通りです。

 

 

 

浮かび上がる二大派閥

 以上見ていくと、皇帝ラインハルトは不世出の天才でありながら、組織運営のスペシャリストでは無かった事が良く分かります。

 

 しかしながら、彼がようやくまともに自分の組織を持てたのは、彼がアスターテ会戦で勝利して元帥府を開いてからの事であり、それから皇帝に即位するまでわずか3年の短さでした。

 

 

 

 しかも、その間ローエングラム陣営は、人類史上空前絶後のスピードで急拡大を続けており、幕下にも多様な人材を次々と加えていったので、ラインハルトがマネジメント経験を積む時間は短かった。

 

 もしくは、膨張のペースが速すぎて、組織や麾下を万全にコントロールするのは、至難の業だった筈です。

 

 むしろ、ラインハルトだからこそ、きしみながらもローエングラム朝新銀河帝国は、秩序と統制を喪失しないで済んだ。

 

 とは言え、無論全てが円滑に運営されていたわけではありません。
 
 具体的には帝国組織内においてオーベルシュタインや官僚に代表される組織派と、ラインハルト自身の実権と立場を維持し、それを擁護しようとする皇帝派と呼ぶべき勢力が存在し、互いに角逐している様子が、物語より垣間見られるのです。

 

 
 

 レンネンカンプの任用などはまさしくそれであり、通常の歴史ドラマとして見た限り実に不可解なこの人事も、新王朝におけるパワーゲームとして考えると実によく理解できます。

 さて、この旧同盟領に関して、ラインハルトは後により思い切った人選を行い、そしてレンネンカンプ以上の悲劇的結果を招いてしまいます。

 新領土総督として強大な権限を与えられたロイエンタールは、陰謀によって反乱に追い込まれ、親友ミッターマイヤーの討伐を受けて負傷。

 

 

 

 ハイネセンで息を引き取ります。

 

 ですが、この人事も、ローエングラム王朝と言う組織レベルで解釈すると、より本質的な答えが出てきます。

 次は彼について語りたいと思います。

 

 ※次回は10月14日(金)に投稿します。