下着っ子小隊、最後の任務!
最後も、アマモシティ。
ハン子
の手料理で空腹を満たした隊員たちは、ガレージの隅に寝そべりぼんやりしていた。ソル子
隊長がいなくなってから、そろそろ1ヶ月。彼女は今どこでなにをしているのやら。トレ子
は帳簿をめくりつつ、リーダー不在の日々を思い返す。
そのとき、不意に壁の外が騒がしくなった。大勢の人間が走り回る足音。ビルの鉄扉を叩く音。大型エンジンの排気音と、無限軌道が蠢く音。女性が声を張り上げて何か言っている。こどもの泣き声がする。コーヒーを淹れていたメカ子
の手が止まった。
「何か事件かな? ちょっと見てくる。
「よせよせ、体力のムダだ。
「まさか、賞金首が攻めてきたなんてことは…
「戦闘音はしないから、違うと思いたいけど。
「どっちみち我々では勝てん。ここが墓なら上出来だろ、屋根もあるし。
「し…しにたくないです…
「あのさー、副隊長。なんでいつもそんなに醒めてるの。人生楽しい?
「軍人に感情は要らん。それから、トレ子はいい加減に敬語をおぼえるべきだな。
「これは隊長の許可をもらってるだろ! 平等がトレーダーの基本なんだよ。
「ふーん。いい機会だから、上下関係決めようか。武器はお前が選んでいいよ。
「ちょ…ちょっとやめましょうよ…
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「弱い奴は黙ってて!
「むきー、メカニック差別! お湯ぶっかけてやる!!
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(喧々諤々)
「いい加減にしろ、みっともないぞ」
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(!?)
3人が振り返ると、そこには若い女が立っていた。淡い金髪がガレージの照明を受けきらきら光っている。
彼女の手にはゴーグルキャップ、襟元には深紅のネクタイ。その出で立ちはハンターそのものだ。
「まったく、小隊が聞いて呆れる。そんな調子でよく生き延びてきたもんだ。お前たち、本当にソル子の部下なのか?
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(??? えーと…誰…?)
「なんだ、私のことを聞いていないのか。Cβの頃からずっとキャンプ03に滞在していたんだが。
「キャンプ02すら行ってません。つーか、ごろチーフもまだっス。
「あの…隊長のお知り合いですか?
「まあな。奴のカンパニーが山越えするときに、パイナップルをたくさん売ってやった仲だ。まとめて買うから割引きしろだのなんだの、無茶を言われた。足りないぶんは実力でなんとかしろと断ったら、買ったばかりのモーゼルを振り回して暴れて。子供かお前は。まあ後でノースレイクからお中元を送ってきたから、わりと義理堅い奴だと見直したんだが。それからちょくちょくメールを交換するようになってだな……
「うぉい。あんたと隊長の馴れ初めはいいからー。本題に入って。
「おっとすまん。えーと、たしか、とりあえずこれを渡すつもりで…
女ハンターは一枚の紙片を差し出した。3人が覗き込む。
「な、なな…なんですかこれ!?
「見てのとおりだ。もうじき、お前たちの小隊は消滅する。
「どういうこと?? わっかんないよ!
「非常時、というだけではな。説明してもらおうか。
「ほぼ1ヶ月前からスターフォール全域で発生している砂嵐――。いつかは止むものと思われていたが、科学者の調査で恐ろしい事態が明らかになった。複数が絡み合い巨大化した風のエネルギーは、各地の砂漠からごっそり砂粒を吹き上げて攪拌し…地底に封印されていた旧文明の汚染土壌をもえぐり出してしまったらしい。そして、土には大量の攻性ナノマシンが含まれていた。有機物無機物の区別無く、あらゆるものを喰らい尽くす最悪の微小兵器が。
「それで…みんな消えちゃうんですか…
「なんか、『はてしない物語』の"虚無"みたいだ。
「ナノマシンの暴走は20世紀から危惧されてたな。"グレイ・グー(Grey goo)"とか。
「とにかく、そういう緊急事態だ。誰にもこの災害を防ぐことはできん。ああそれと、武装解除しろというのは今回のナノマシンが優先的に銃器にとりつくかららしい。外部世界へ持ち込まないようにここで捨てていけ。科学者の予測では、スターフォールの外には砂嵐の被害は及ばないとのことだ。
「この地域に完全な平和をもたらしてくれるってわけか。人間も消滅させるのはやりすぎに思えるけど、平和ってそういうもんかもな。生命イコール戦争という。
「そんな…そんなこと言ってる場合ですか! これはもう大破壊の再来ですよ!
「こうしてる間にも砂嵐がー。でも、でもでも。隊長が戻ってないよ。
「隊長…隊長のばかー。捜しに行こうにも、クルマすらないし…
「ああ、それなんだが。これから連れ戻しに行こう。
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「へっ!?
「引き揚げ中のトレーダーから情報をもらった。ごろベースの近くで黙々と狩りをする下着姿の女を見たと。鬼気迫る雰囲気だったので近寄れなかったそうだが、ソル子にまちがいないだろう。私のクルマで行けばぎりぎり間に合――
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「そういうことは早く言え!!!
3人は転がるようにして外に飛び出した。
一瞬、砂嵐が途切れ陽光が目を撃つ。
戦車砲で武装した4WDが停まっていた。
「これは――過去の戦場写真で見たことある!
「たしか、スージーと呼ばれていたな。速そうだ。
「これなら…!きっと間に合います!
「あっカギかかってる。当たり前か。
「任せろ。放浪時代に拾ったロックハッカーでちょちょいのちょいちょい。
「い、いけな…くない! いいです! 今はおっけー!
「やるじゃん。
「隊長のためならば。
「全力でとばします…しゃべってると舌噛みますよー!
「ちょっとそれ私のクルマだぞ!? なんなんだ急に団結して。おいっ、待てお前ら――下着っ子小隊!!
おいっ、の「お」を言い終わる前にスージーは荒野の向こうに消え去った。
しばらくの間、女ハンターは愛車が去った方角を茫然と眺めていた。
まるまると肥えた柴犬が現れ、彼女の足元に体をこすりつけた。
いつのまにか避難民の喧騒も途絶え、ただ砂嵐の音だけが鳴り響く。
過去エピソード大作戦!!パート②
※パート① のつづき※
「私は幼くして両親を亡くした。なぜ死んだのかはおぼえていない。年の離れた兄達はささやかな遺産を武器に換え、我先に荒野へ飛び出していった。もちろん、それっきりだ。二度と会うことはなかった。独りになってさて何をして生きるか、と考えたときに料理人になろうと思いついた。故郷は川・山・海に囲まれていて、一年中食材が豊富だったからな。
無口なコックに弟子入りして三年ほど経ったとき、町で自警団を作るという話が持ち上がった。さしたる脅威もない穏やかな土地ではあったが、たまに迷い込む賞金首モンスターがいないわけではない。傭兵に頼らず自分たちで戦えるなら、それに越したことはないという意見が多数派だった。私は最初まったく関心がなかったが、近くの洞窟に隠れたという大物の賞金額を聞いて心が動いた。これだけあれば小さな店が出せる。愚かな思いつきだったが、私は即席自警団に入ることにした。師と仰ぐ料理人は、ありったけの調理器具を投げつけて私の門出を祝ってくれたよ。もっと違う別れ方もあったろうが、あのときはお互いに裏切られたと思い込んでしまった。この包丁は、そのとき投げ返しそこねたやつだ……
※ハン子は古びた包丁を取り出し、指先で刃をなぞった。微笑が口元にゆらめき、すぐに消えた。思い出話はまだ続くようだ※
「よせあつめの自警団は、なにはともあれ訓練を開始した。装備は不揃いでみっともなかったが、士気は高く皆が足並みを揃えようと努力した。私は怪しげな適性検査でセンスがあると断定され、おんぼろの装輪装甲車に放り込まれて指揮をとるはめになった。案外、楽しくないこともなかった。毎晩戦術教本とにらめっこしたり、行きずりのトレーダーからモンスターの情報を仕入れたり。そのうちどうにか格好がついてきて、町の近くをうろつくポリタンの群れ程度なら短時間で殲滅できるくらい慣れてきた。あのまま順調に段階を踏めていれば、そして優秀な教官でも招聘していれば、いつかは自警団も精強な兵隊になれていたのかもしれない。しかし――そうはいかなかった。
ある日、私は夜間戦闘のシミュレーションが必要だと主張した。意見は受け入れられた。真夜中、町の外に集合しチームに分かれて演習をおこなうこととなった。だが、予定時刻になっても集まりが悪い。後になってわかったことだが、数名の団員が連絡網をおろそかにしていたのだ。待っている間に月は雲間に沈み、小雨がぱらつきはじめた。皆が不平を顔に出しはじめたそのとき、突如銃声がとどろいた。悲鳴が上がった。「賞金首だ!」と誰かが叫んだ。それで終わりだった。
その場にいた全員があっという間にパニックに陥った。連鎖的に発砲がはじまり、銃弾が尽きると手榴弾すら投げた。敵などいなかったのに。賞金首などとんでもない。大幅な遅刻で焦っていた若者が、うっかり銃を落として暴発させた……それがすべてだ。彼も自分が原因とは気づかず、町へ逃げ帰って恐怖を広げただけだった。見たこともない巨大な影、おそろしい炎と爆発。話に尾ひれが付き、救助活動は遅れた。朝になって事態が明らかになったときには、もう笑う元気が残っている者はいなかった。死者こそ出なかったものの、自警団は呪われた言葉となり二度と編成されることはなかった。
※ハン子はそこまで語ると肩をすくめ、しばし黙り込んだ※
「……あの、それで…? 副隊長は…?
「私か。私は頭に銃撃を受けて昏倒していた。命は助かったが、後遺症で味覚と嗅覚がほぼ失われた。
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(!!)
「その後、リハビリを兼ねてあちこち旅して回った。旅の間に胃腸はずいぶん鍛えられたな。もう色んなレシピを忘れたと思っていたが…ぬめぬめ焼きのコツは体がおぼえていたようだ。師匠の得意料理だったから、よく食わされたし作らされたもんだ。ま、結局『空腹は最高の調味料である』ということかもしらんが。
「…腑に落ちました。それにしても、なんというか…
「思いのほか重い話だったなあ。びっくり。
「ふ、驚くのはまだ早い。このあと私はハンデを抱えつつも戦うコックとして幾多の死線をくぐりぬけ、なおかつ美少女フードファイターとして名を馳せるのだからな。いま語ろう、山海の珍味とミリタリーが絶妙にブレンドされたまったく新しい架空戦記を――
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「もうお腹いっぱい。
つづく
過去エピソード大作戦!!パート①
相変わらずアマモシティ。スターフォール全域を覆った砂嵐はいまだ止まず、傷心のソル子
隊長も帰ってこない。財布はいよいよ薄くなり、メカ子
の顔色はますます白くなる。いつもは励まし役に回るトレ子
さえも口数が少なくなり、空腹と倦怠を持て余すばかり。安宿の梅部屋ですら料金を払えなくなったメンバーは、とうとうガレージの片隅を間借りするところまでおちぶれた。戦わずして窮地に陥った下着っ子小隊に、明日はあるのか――
そんなある日、ハン子
副隊長が包丁を握った。
「な、なにをする気ですか…
「自炊? エプロンまでつけちゃって。
「冷凍倉庫で古いぬめぬめ細胞が大量に出てきたらしい。解体を手伝ってくる。
※半日くらい経過※
「待たせたな。いくらか分けて貰ったから、帰りに酒場で焼いてきた。さあ食おう。
「ええー、ぬめぬめ焼きですか…うっぷ。食欲ないんですけど…
「命令。食え。
「うー、じゃあいただきます。ぱくっ。
「…ぱく。…もぐもぐ… … …?
「うっ。こ、これは! これがぬめぬめ焼き!?
「…信じられないくらい美味しいです…
「ふっ。どんなもんじゃ~い。
「でも副隊長のことだから、詐欺くさい手を使ってそうな予感。
「…すみませんが同感です。なぜこんな味が出せるんでしょうか…
「失礼な奴らだな。まあいい、ちょっと昔話をしよう。
※ハン子は傍らにあったコンテナに寄りかかると、ゆっくりと話しはじめた…※
パート②へつづく
思い出整理大作戦!!
週末のアマモシティ、閑散としたハンターオフィス。
誰でも使ってよいおんぼろPCの前で、トレ子がため息をついている。
(…。隊長、帰ってこないなあ…)
(町の外に行きたいけど…大規模な砂嵐が起きてて、止むまで誰も出られないし…隊長を待ちながら、写真整理でもしよう。うん。)
※トレ子は従軍記者が送ってきたデータを開いた※
(連合作戦のときか…うちの小隊目立つなあ…。このあと皆…)
「ん?
「隊長がちっちゃい!? 下着じゃないし、これはまさか――
「副隊長! いつの間に…
「ヒマなので来てみた。古いデータが残ってたようだな。
「荒野をだいぶ進んでいたようだな、隊長が所属したチームは。
「うん。そんな感じだね。
「隊長は思いつめていたのかもしれん。自分が小隊を引っ張らねば、と。
「それで全滅したから、責任感じちゃったのかなあ…。
「探せば色々出てきそうだな。よし検索開始だ。
(…隊長ー! 早くお戻りください!)
つづく










