＜注意＞

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・企業とは一切関係ありません。

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翌日、49日法要を終えた悟士は自宅に戻ってから
再びLINEで咲夜と連絡を取り、

週末に吉祥寺駅で待ち合わせる約束を交わした。

「できれば二人きりで」と希望したのは彼女からだった。

「お久しぶりです、黒田さん」

当日の正午、改札口には上品な笑顔を浮かべた

咲夜の姿があった。

二人は井の頭公園にほど近い喫茶店に移動した。

仕事柄、度々立ち寄る機会があるという咲夜に比べ、

悟士がこのエリアに降り立ったのは

今まで2〜3回程度だが、

それでも新宿や渋谷の街を意味なく歩き回るよりは

はるかに落ち着く。

「この前は紅茶専門店で会ったから、

今日はコーヒーを飲みたいんだけど、いいかな？」

「ええ、もちろん。

そういえば、黒田さんはどちらかというと

コーヒーがお好きでしたよね」

「付き合ったこともないのに、

他人の好みまでよく覚えているな」

「それは私がかつてお世話になった

大切な先輩のことであれば…」

時を経た今も、咲夜は悟士に対し、

尊敬同様の眼差しを向けていた。

注文したホットのエスプレッソが2つ、

二人が座るテーブル席に運ばれる。

「では、咲夜さんの話から先に聴かせてもらおうかな」

「分かりました」

悟士が聞いて知ったこれまでの経緯は

離職後に咲夜の夫になった男が浮気性だったらしく、

一年で離婚したこと、

帰国後、学生時代に親交があった

台湾人とのハーフである同期女子と再会し、

現在の“スカーレット”を運営している

『紅摩館』という会社を紹介してもらったこと、

そして社長令嬢にポテンシャル能力と将来性を見込まれ、

本社オフィスで前職以上のやりがいを持って

エネルギーを注いでいるとのことだった。

「…そういうことだったのか。

咲夜さんも色々大変だったんだね。

でも、長く続けられそうな仕事と会社が見つかって

良かったな。

何だか、今のほうが結婚前よりもっと綺麗に見えるよ」

それを聞いて咲夜は顔を赤らめた。

「そう…ですか？　急に言われるとビックリしますね」

「前向きさを取り戻した君の顔を見ていたら、

暗いネタしか話せないことが

申し訳なくなってきたな…」と前置きしながら、

悟士は自分の身の周りに起こったことを

正直に打ち明けた。

束の間の沈黙の後、咲夜が懸命に何とか話を繋げようと

再び口を開く。

「…もし私が今の黒田さんの立場だったら、

心が折れるどころか再起不能です。

ただ、前務めていた会社のことを

あまり悪くは言いたくないですが、

あそこは黒田さんのように

他の誰よりも多くの仕事を抱えながら真っ当にこなし、

後輩スタッフへの面倒見がいい人ほど、

後々過度の負担を強いられたり、冷遇されているような

雰囲気を感じました。

プロテクトから外れたのも意図的にそうしたとしか

私には思えてなりません」

「気持ちはありがたいけど、

それは主観的すぎる解釈かもしれないな…」

「いいえ、黒田さんを慕ったり、

信頼したりしていた人たちであれば

いずれ離れていくと思いますよ。

それで、恩返しというわけではないのですが、

よかったらぜひ『紅摩館』の面接を

受けに来ていただきたいと思いまして…」

悟士は驚いて思わず腰が浮きそうになった。

「オレが、紅摩館に…⁉」

「ええ、今日黒田さんと会う直前に

ふと思いついた程度の話で、

BCホールディングスに吸収合併されたというのは

初耳でしたけど、

以前私を優しく鍛えて下さったような

バイタリティをお持ちであれば、

きっとウチの職場もさらに活気づいて

より大きな発展がもたらされると思います」

悟士は考えを整理しながら返答した。

「あの時はもし咲夜さんが結婚することなく

一緒にA社で仕事を続けていたら、

より高度な案件を手伝ってもらおうと思っていたけど、

今度は逆に色々と企業情報を

教えてもらうことになるというわけか…。

紅摩館の組織的規模がどれほどかは分からないけど、

面接は例えば人事のどなたかが担当して下さるのかな？」

「いえ、この後私が直接連絡をとって

ぜひ社長にお立合いいただこうと思って…」

「いきなり社長…⁉

ひょっとして、君は今、秘書役でも務めているのかい？」

悟士には話の先が全く読めぬ状況になりつつあった。

～＜若き女性社長＞に続く～

君といる時くらいは －意外なオファー－

君といる時くらいは－意外なオファー－