『成長の限界 ローマクラブ「人類の危機」レポート』 (ダイヤモンド社より1972年発行)は、1972年6月に国連として最初の地球環境会議である国連人間環境会議が開催された年に発行された本です。

 

1972年といえば、日本も他の先進国もみな高度経済成長の真っただ中にあり、それを謳歌していた時代です。

そんな時に、このまま経済成長を続けたら、人口、食料、資源、汚染などで人類社会は、今後100年以内に制御不能な危機に陥る可能性があるとして、定量的な推計データに基づき「成長の限界」を警告したのがこの本です。

 

人類が今後大きな変革もなく、このまま”成長”を行っていくならば、2100年までに社会は必ず悲劇的な破局を迎える、というこの衝撃的な内容は、多くの人々に多大な影響を与えました。

その後の国際的な環境政策の合言葉となった「持続可能な開発」の原点は、ここにあるといっても過言ではないでしょう。

 

私がこの本を始めて読んだのは、発行された翌年、大学に入学した年です。

その頃日本では、まだ「地球環境」という言葉はほとんど使われておらず、環境問題と言えば、主に公害のことだったと思います。

昭和30年代~40年にかけての高度経済成長期に工業化や道路交通網が急激に進み、それに伴って各地で公害問題が発生しました。

そして1970年に公害対策基本法の改正を始めとした数多くの公害関係法令が新規にまたは改正により制定され、公害国会と呼ばれていた時代のことです。

 

『成長の限界』は、1970年にローマクラブが「人類の危機プロジェクト」の一環としてMIT(マサチューセッツ工科大学)に研究委託を行う事から始まりました。
成長の限界に関わると思われる主要な五つの要因、即ち、①人口増加、②工業化、③資源枯渇、④食糧不足、⑤環境汚染に注目しています。

特に、人口増加と工業化による経済成長は、60年代幾何級数的に増加しており、それらが強い正のフィードバックの構造を持っていることが分かったのです。

 

当時の一般的な認識としては、石油に代替する原子力エネルギーや核融合技術への期待、あるいは農業技術の発展による土地生産性の拡大、そして工業技術の発展による汚染抑止や効率化といった、科学技術による限界の克服が中心でした。
この正のフィードバックが働く限り、工業と人口は際限なく幾何級数的に増大していきます。

この破局を避けるためには、正のフィードバックを抑える方向で社会を作り変えていくしかない。

 

そこでハイブリッドエンジンによる石油消費量の削減や、水素などの無尽蔵のエネルギーの可能性が出てきたという訳です。

また石油埋蔵量についても、現在も新たに発見されており、枯渇することは今のところないようです。しかし、発見される埋蔵量は地球全体に含まれる資源のうち、現在私たちが”技術的に利用可能”なものを指しているのであって、採掘にかかるエネルギーや費用がかかることを忘れてはならないのです。

また、最近では石油の残存量よりも、燃やしすぎによる地球温暖化の方が懸念される時代になってしまいました。

 

1992年に、リオデジャネイロで開催された地球サミット(環境と開発に関する国連会議)において採択された有名な「リオ宣言」「アジェンダ21」を受けて、環境マネジメントに関するISO規格作りが行われ、1996年には早々と環境規格のISO14001が制定されたのです。
この点からも1972年に出版された『成長の限界』は、当時としては画期的な本だったと思います。