なぜ、自分から連絡したのだろう。


涼子にもはっきりした理由がわからない。



でも、きっと「もしかしたら」という可能性に賭けたかったのだ


いい結果は予想できなかった。


しかし、何か変わるかもしれないという漠然とした期待と不安が背中を押したのだと思う。


そうでなければ、とりわけ好みだったわけではない徹也へ自分から連絡などしていないだろう。



ただ、自分の生活を変えたかったのかもしれない。


自分の中の何かを変えたかったのかもしれない。


もしそれが、不幸せの一歩目だったと感じていても、前に進みたかったのかもしれない。



涼子が徹也と知り合ったのは、友人たちとの飲み会だった。


いわゆる「合コン」と言ってもいいだろう。


3年前の11月のある日、あの居酒屋で二人はとなりにいた。


涼子の徹也に対する印象は特にない。


ただ、徹也がなぜか涼子に色々とちょっかいを出していたのだ。


「どの人が好みなの?」とか「何のお酒がすきなの?」


たぶん気が有ったからであろう。今となってはどちらでも良いのだが・・


結局その日のうちに電話番号を交換した。


しかしその後なぜか涼子から連絡していたのだ。

3年も一緒にいたが、本当の徹也は見えてこなかった。


もしかしたらそれが別れた一番の原因かもしれない。


彼は人を信用していないのだ、たぶん。


そして何より向上心がないのだ。


その状況に満足しているから、そこに留まりたいというのは理解できる。


でもそれは、ある程度のレベルに達している人間が考えるべきことだと涼子は思うのだ。


徹也の涼子に振りまく適当な愛情と、徹也のだらしなさに嫌気がさした。


「いつかはきっと二人で幸せに・・」という願いは虚しくも消え去った。


先がないから別れる。と言ってくれない徹也に代わって涼子が言ったのだ。


これほど残酷なことはない。


涼子の愛情はもしかしたら、まだあったのかもしれない。


いや、同情かもしれない。


あの、ゴミの中で暮らしている彼を思うと手を差し伸べたくなるから。