長かった撮影の後に、皆で宿舎のリビングで打ち上げをした。7人で飲むのは久々で楽しく、皆いつもより酔っ払っているように見えた。
「お前、大丈夫?」
「ん…ヒョン」
さっきからソファの背もたれに寄っかかってまどろんでいるジョングクも例外ではない。彼の前のローテーブルの上には、蓋の空いた韓国焼酎の小瓶がいくつか並んでいる。
「ふふ…楽しくて…飲み過ぎたみたい」
「ほんと、飲み過ぎたよなあ」
僕は周りを見回した。向かいのソファでジニヒョンとユンギヒョンが肩を寄せ合いながら小さく笑い合っている。ホソギヒョンとナムジュニヒョンは、テヒョンのスマホを覗き込んで何やら盛り上がっている。テヒョンが友人と遊びに行った時の写真を見ているのだろう。「このヒョンが、この前言ってた人とつきあってるみたい」とテヒョンが話すのが聞こえた。
「ジミニヒョン飲んでるの?」
「うん…お前さ」
僕はスマホを持つジョングクの手に目を走らせた。
「好きな子とかいんの?」
「ふふ…いきなり?」
「や、なんか、今日…何回もスマホ見てたから…なんかやり取りしてるのかな、って」
ジョングクはなぜか照れたように「ふふっ」と笑った。
「こんなお酒の場で…好きな人を落とすにはどうしたらいいか、友達とカトクで話してました」
「へ…好きな人って…これから誰か来たりすんの?」
僕は慌てて部屋を見回した。スタッフが一緒に加わることもあるが、今日はもう夜遅いから僕らメンバーの他には誰も来ないと思っていたのだ。
「違いますよ」
ジョングクは笑いながら言うと、ソファの上に身を起こした。そのまま満面の笑みを浮かべた顔をぐっと寄せてくるから、どきりとして、ソファに座ったまま後ずさる。
「どうした…」
「好きなのは…ジミニヒョンです」
「へ?」
どきん、と胸が跳ねた。慌てて、ジョングクの顔をじっと見る。お酒のせいなのか、少し上気したジョングクの顔。機嫌よさそうに上がった唇。酔ってるな…と思った瞬間、肩をがしっと両手で掴まれる。
「信じてないでしょ」
「だって…酔ってるだろ、お前…わっ…やめっ…」
唇を尖らせたジョングクが、そのまま顔を寄せてきて僕は焦った。がっちりとジョングクに掴まれた肩は、僕が多少ジタバタしてもびくともせず、むしろ引き寄せられていく。
「ぁ…こらっ」
唇が触れ合いそうになるところで、やっと僕はジョングクを引き剥がすのに成功した。胸を押すと、ジョングクはそのまま、ソファに倒れ込んだ。
「お前なぁ、ただの酔っ払いじゃ…って、あれ?」
ジョングクのまぶたは閉じられていた。と同時に、規則正しく上下し始める体。
「寝たのか…ったく」
赤ちゃんのくせに酔っぱらうなよ…
ソファに投げ出されたジョングクの手からこぼれ落ちたスマホを、テーブルの上に載せてやろうと手を伸ばした。その時、突然スマホ画面にメッセージ通知が表示される。
え…
僕はどきりとした。思わず目に入ったそのメッセージには、「たしかに、メンバーだし、家族みたいになっちゃってんだったら、まずは意識してもらうところからだよな」とあったからだ。送り主は、別の事務所のアイドルグループの、ジョングクと同い年の男性だ。
「メンバーだし」って…
これって…どんな会話してたんだろ…
「好きなのは…ジミニヒョンです」とつい先ほど口にした時の、ジョングクの顔が頭をよぎる。
まさか、僕のこと…
本気…なわけない、よね…?
お酒のせいではない胸の高鳴りに僕は戸惑いを隠せず、しばらくの間、平和な顔で眠るジョングクを見つめていた。