私立恵比寿中学・安本彩花、
2度のピンチを乗り越え「THE FIRST TAKE」で復活するまでの長い道のり
大好きなエビ中で歌うために
2021年7月17日 0:00 8234
悪性リンパ腫の治療のため2020年10月より芸能活動を離れていた
真山りか、星名美怜、柏木ひなた、小林歌穂、中山莉子とともにマイクの前に立った安本。
鮮やかな緑に染められたベリーショートヘアが目を引く。
ひさびさに6人で集まったエビ中が一発勝負の「THE FIRST TAKE」で歌ったのは、2017年発売のアルバム「エビクラシー」に収められた「なないろ」だ。
動画がアップされた7月16日は、2017年2月8日に永眠したエビ中メンバー・松野莉奈の誕生日。この「なないろ」には、メンバーにとって、安本にとって、特別な思いが込められている。
ひさびさにファンの前に元気な姿を見せ、伸びやかな歌声を届けた安本。
闘病生活を終えた彼女が今感じている思いを聞きたくなり、取材を申し込んだ。
取材・
一度目の離脱
安本は悪性リンパ腫の治療に入る1年前、2019年10月にも一度エビ中を離れている。長らく心身ともに不安定な状態が続いていたため、しばらく休養する――。
グループ結成10周年のアニバーサリーイヤー、秋のツアーで全国を回っている最中の途中離脱ということもあり、急を要するほどよくない状態にあったであろうことは想像できた。

「あのときは簡単に言うと、がんばりすぎちゃったというか。
エビ中が8人から7人になって、さらにそこから6人になって……エビ中が新しい形に変わっていく中で
『みんなの力になりたい』
『私の力でエビ中を引っ張っていかなきゃ』
と変に責任を負いすぎてしまったんです。
誰に言われたわけじゃないんですけど、私がなんとかしないと!って考えすぎた結果、心と体にズレが出てきてしまって。気持ちが先に走りすぎて、全力疾走したらズッコケてしまった(笑)。
それで校長(エビ中のマネージャー・藤井ユーイチ氏)に相談したら
『これからもエビ中を続けるために、今は1回お休みしよう』
という話になって。いつもの自分だったらそんなこと言われても
『休みません!』
ってはっきり言ってたと思うんですけど、このときは本当に限界が来ていたのが自分でもわかったので」
生来生真面目な性格である安本だからこそ、必要以上に思い詰めてしまったのだろう。
ともにがんばってきたチームメイトであり、プライベートでも仲のよい親友である松野との別れ。
それでも前に進むことを決めたエビ中。
1人で進むことを決めた廣田あいかの“転校”(卒業)。
エビ中が変化を重ねる中、安本は笑顔の裏で重すぎる荷を抱えていた。
「お休みしていたときは、とにかく気力がなくて。
だけどエビ中への執着はハンパないことになっていて(笑)、一旦忘れてしまわないとよくならないのはわかってるのに、逆に忘れようとすることがストレスになってしまっていたんです。
だから校長に話して、少しだけSNSを更新させてもらったり、自分が安心できる範囲で関わらせてもらっていました」
主役不在の「ジャンプ」
2019年冬、エビ中はこの年2枚目となるオリジナルアルバム「playlist」をリリース。
その後には年末恒例の大型ライブ“大学芸会”も行われたが、アルバムのプロモーション稼働やライブのステージに安本の姿はなかった。
アルバムには各メンバーをフィーチャーした楽曲が収められており、中でも安本をフィーチャーした楽曲「ジャンプ」はアルバムのリード曲と位置付けされていたにもかかわらず。

「『ジャンプ』は自分が生誕祭で石崎ひゅーいさんの曲を歌ったことがきっかけで石崎さんに楽曲提供してもらったんです。
絶対に私がいなきゃいけないのに、そこに私がいないという申し訳なさと悔しさで……正直めちゃめちゃしんどかったです。
私の気持ちをわかったうえでメンバーが必死にもがいているのも感じていたから、申し訳なさと不甲斐なさで、素直にエビ中と向き合うことができませんでした。
正直、『ジャンプ』のMVは1回も観てないんですよ。
複雑な気持ちになるので。でも今だったら観れるかもしれない(笑)」
これまでのエビ中にはないシリアスでヒリヒリとしたムードを持つ「ジャンプ」は多くのリスナーに支持され、今やエビ中を代表する人気ナンバーの1つとなっている。
この曲をきっかけにエビ中に興味を持った、エビ中というグループの見方が変わったという声も多い。
「エビ中は、何か大きなきっかけになる瞬間に誰かが休んじゃうとか、ガクッと崩れちゃうことが昔から多いんです(笑)。
そうやってうまくいかないときに、みんなでフォローして支え合って強くなってきた。
自分はフォローする側だったのに、今度は自分がつまずくきっかけになっちゃったことが本当に悔しくて……みんなに頼ってもらえる人間になりたかったのに(笑)、自分のせいでこうなっちゃった!って。
特に『ジャンプ』は本当に評価が高いと外から評価を見ていても感じていたから、歯痒かったですね。
活動を1回休むと戻れなくなることもあるだろうし、戻っても結局辞めちゃうようなことも多いですよね。
でも私は絶対そうはならないぞ!と思ってました。
そんなこと考えずにしっかり休めって話ですけど、変にメラメラしちゃって(笑)。
だからエビ中を離れるという気持ちは、それこそ病気のときも一切なかったです」
2020年3月23日、安本はブログを更新し、少しずつ活動を再開していくことを報告。
本来は4月にスタートするツアーで本格的に再始動する予定だったが、ツアーはコロナ禍に伴う緊急事態宣言を受けて中止となってしまった。
そんな中、6月に開催されたオンラインイベント「ONLINE YATSUI FESTIVAL! 2020」で6人のエビ中は285日ぶりに復活を果たす。

285日ぶりの6人でのパフォーマンスを前に円陣を組むエビ中。
「またライブができてうれしいと思う反面、『戻るからにはあとに引けない』と必要以上に重く捉えすぎちゃって、不安のほうが大きかったです。
休む前から完全燃焼する癖がついちゃってて、『やついフェス』のときも全力を出しすぎて、抜け殻になっちゃいました。
そのあとの8月のライブ(8月16日に開催された「私立恵比寿中学オンライン学芸会~all of our playlist~」)もオンラインでしたけど、お客さんがいない状況は、あのときの私にとってはむしろよかったかもしれません。
目の前にお客さんがいたら心配かけちゃうという不安もあったし、もしかしたらステージに上がれなかったかもしれない。
メンバーのみんなは……『あのときは彩ちゃん何も話してくれなかったけど、会うと元気だから、どう接していいかわからなかった』って。
『本当に壊れちゃいそうで怖かった』って最近になって言われます(笑)」
闘病生活を支えた母の強さ
その後、2020年9月の野外コンサート“ちゅうおん”でひさびさにファンとの対面を果たした安本。
10月にはコロナ禍により延期となっていた生誕ソロライブ「歌って踊って歌謡show!!!安安」も有観客で行われた。
安本のソロライブ「安安」といえば、彼女の牧歌的なキャラクターが全開のほんわかムードが楽しい公演だったが、この年は少し様子が違っていた。
どことなくシリアスな雰囲気が漂い、あの大事にしていた「ジャンプ」はアカペラで思いを絞り出すように歌われた。
これは純真無垢な少女から大人の女性になりつつある彼女の心境の変化による部分もあったが、そこにはもう1つ、メンバーやスタッフも知らない、彼女だけが抱えていた大きな不安が隠されていた。
「実は『ちゅうおん』のときからガンの疑いがあって。
『こんなに若いのにガンなわけないでしょ!』って言われながらも、自分は直感で『これはヤバい』と感じていたんです。
心と体の不安がダブルで重なっちゃって、一番ヤバい時期だった。
あとにも先にもないだろうという恐怖感を抱えた中で自分のソロライブをプロデュースするという……自分はもう終わりが近いかもしれないという直感がありながらも、絶対に終わりたくない、ライブを成功させたい、完全燃焼できるライブがしたい、
というとっ散らかった感情が、ああいう形のライブになったんだと思います」

ソロライブからおよそ3週間が経過した2020年10月29日、安本は悪性リンパ腫の診断を受けて再び休養することを報告する。
「発表した次の日には入院して、1週間後からは通院で抗がん剤治療を受けてました。
治療中は体もどんどんつらくなるし、髪の毛も抜けちゃうし、顔色も悪くなるし……メンタルがどんどん崩れていくんですよ。
数値としてはよくなっているんだけど、それを上回る副作用があるから、自分の感覚的にはむしろ悪くなっている感じで。時間はかかるけど副作用の弱い治療法もあると聞いてたので、途中でお母さんに
『もう抗がん剤はやめたい』
って泣きながら言ったんですけど、お母さんは
『でも彩ちゃんは早くエビ中に戻りたいんでしょ。
その気持ちのほうが強いんでしょ』
って励ましてくれて。
お母さんは本当に頼りになりましたね。
お父さんは私と一緒に崩れちゃってたから(笑)」
長年のファンには知られていることだが、安本はエビ中加入当初から陽気な父親のアドバイスを受け、元気はつらつなアイドルとして活動を続けてきた。
MCや取材などの場でも安本はたびたび父親とのエピソードを明かし、仲睦まじい様子を伝えていた。

「お父さんは一緒に落ち込んでました(笑)。
お父さんや私のような弱い人を、お母さんは『大丈夫だよ!』と励ましてくれる元気なメンタルを持ってるんです。
たぶん、家族でガンを経験している人はわかると思うんですけど、周りの人もしんどいんですよ。
いろんな不安があって、そういう家族のケアをする専門のカウンセリングがあるくらい。お母さんも相当しんどかったはずなんですけど、とにかく
『がんばろう、がんばろう』
と背中を押してくれて。
そのおかげでなんとか治療も最後までやりきりました」
歌える喜びを噛み締める瞬間
そして2021年4月5日、「悪性リンパ腫の寛解」を知らせるニュースが発信された。5月5日に行われたエビ中のメジャーデビュー9周年記念を祝した無観客配信ライブでは、安本が昼公演のプロデュースを担当。
ステージには立たないながらも、セットリストを考案し、トークパートのミニコーナーも演出した。
また夜公演では今年1月より行われていた新メンバーオーディションを勝ち抜いた桜木心菜、小久保柚乃、風見和香が合流。
エビ中は新体制でのスタートを切った。
実はこの日、安本は会場に駆けつけており、昼夜2公演の計35曲、すべてのパフォーマンスの裏でメンバーと一緒に踊り、1曲終わるごとに誰よりも大きな拍手を送っていた。


新メンバーの桜木心菜、小久保柚乃、風見和香(下段左から)を迎えて9人体制となったエビ中。
「本当はステージに出たいくらいだったんですけど(笑)、まずは今の自分の体力を確認したくて、スタッフさんしかいないフロアでステージのみんなと一緒に踊ってました。体を動かせるようになったことがめちゃめちゃうれしくて。
ずっと寝たきりで、家の階段の登り降りくらいしかできていなかったから、自分が動けていることが本当にうれしくて、体が勝手に動いてました(笑)。
ひさびさにライブを観ること自体が楽しくて、みんなの成長も見れたし、思わず拍手しちゃいましたね。
自分たちを俯瞰で見ることがなかったから、改めて見るとみんなリハーサルから一生懸命だし、ひたむきでいい子たちだなって(笑)。
こんなに全力でやる子たちいないだろうなって思いながら、今まで育ててもらったことに感謝しました。客観的に見たエビ中は……カッコいい(笑)」
インタビューで明るく受け答えする様子を見ても、本当に元気になっていることが窺える。
そんな安本の復活の場には、コロナ禍の音楽シーンにおいて大きな存在感を示している「THE FIRST TAKE」が選ばれた。歌われたのは、松野との思い出がたっぷり詰め込まれた「なないろ」。
「大病をしたことが、今の自分のメンタル面に大きく影響していて。以前は『もっと、もっと』という欲にまみれた人間だったけど、今があるからその先を歩けるし、今こうして生きていることだけで奇跡みたいなことなんだと実感しています。
『THE FIRST TAKE』に臨む姿勢も、去年の『やついフェス』の頃とはまったく違っていて……不安もないし、逆に変な期待もないというか。
肩の力が抜けて、ただただ大好きな歌を歌えることに幸せを感じました。しかも『なないろ』という、自分にとってもエビ中にとっても大事にしている曲を歌える喜びを噛み締める瞬間というか。
もちろんめちゃめちゃ緊張はしましたけど、本当にただただ幸せで心地よくて、『これが自分がずっとやり続けたかったことだ』と感じました」
「たぶんエビ中に入ってなかったら、私は普通以上に普通な人生を送っていたと思うんですよ。
でも私はこういう人生が好きだし、そのほうが面白いと思うから、エビ中に入る人生を選んでよかった。やっぱ山あり谷ありが面白いっすよ(笑)。
これからの人生……うーん、私はつい過去のことや未来のことを考えてしまうけど、今をどれだけ楽しむかを考えて生きていきたい。
DTM、曲作りも引き続きやっていきたいですね。
そのとき思っていることをどんどん形にして。治療中も、唯一できたのが歌うことだったんですよ。
どんなに具合が悪くても、歌っていたらつらいことを1回忘れられて、その瞬間だけ元気になった。
私は本当に歌が好きなんだなって改めて思いました。
大好きなことを続けていきたいので、変に気張らず、音楽に楽しく触れていけたらと思っています」
安本彩花(ヤスモトアヤカ)

1998年6月27日、東京都生まれ。
私立恵比寿中学の出席番号5番。小学4年生のときにスターダストプロモーションにスカウトされ、2009年10月に私立恵比寿中学に“転入”(加入)。
純朴なキャラクターと澄んだ歌声で人気を博す。
2017年よりDTMでオリジナル楽曲の制作を始め、毎年恒例のバースデーライブ「歌って踊って歌謡show!!!安安」では毎回新曲が披露されている。
2018~19年に上演されたノンバーバル演劇「ギア-GEAR- East Version」ではドール役を務めた。