マラソンの楽しみ方 | SPORTS PLANET スポーツプラネット

マラソンの楽しみ方

 皆さん、走っていますか。

空前のランニングブームの中、何を隠そうこの私も走っています!!・・・と、言いたいところですが走っていません。私の家の周りは坂が多いという理由もありますが、まがいなりにも高校時代陸上部だった私にとって『走る』の定義とは、我慢、根性、努力の修行でした。脚が痛くても走る。それでも痛ければ脚を鍛える。それでも痛ければフォームを矯正する。それでも痛ければフォームを持続させる。持続できなければ体幹を鍛える。全ては良い記録を出すため。しかし、私は競技だの修行だのという狭い視野はもうおよしなさいと時計塔の下で言われたのです。正確には私が勝手に感じただけですが。

 少し古い話ですが2012年2月26日。私はかの有名な銀座4丁目和光時計店の時計塔の下で観客整理のアルバイトをしていました。日付だけでお察しした方も多いでしょうが東京マラソンの日です。風のように走り去って行った藤原選手の後の主役はオードリーの春日さんでもなく女子アナでもなく、膨大な一般ランナーの方々です。マラソン=競技という私の狭い視野が根本から覆る素晴らしい光景が銀座にはありました。沿道の見ず知らずの子供たちが笑顔でランナーに声援を送ると、“真面目に”走っていたランナーたちは彼らに近づいて笑顔でハイタッチしながら走り去りました。ドラえもん、バナナ、野球部員、サッカー部員、広島ファン、ルフィー、スカイツリー、多国籍の外国人、メイド、電車オタク、ヤクザ、十字架を背負ったキリストなどなど具体例を挙げればきりがないコスプレが走り去りました。勤め先の会社ののぼりを背中につけた愛社精神溢れるサラリーマンが走り去りました。カメラで記念写真を撮りまくっている“ランナー”が歩き去りました。おや、あちらのランナーの方が通話し始めました。しばらくすると水を持ったおじさんが私を押しのけ通話ランナーに給水開始。

「次は浅草で待っとるけん。途中でくたばるなよ。」
「わかっとる。せっかくの東京観光じゃけん。お前こそ地下鉄間違えるなよ。」

確かこのような会話をしていた通話ランナーと給水者は楽しそうに銀座通りと地下へ走り去りました。またしばらくすると徳島発ハッピの大集団が出現。交差点中央のテレビカメラで阿波踊りを披露し始め、特産品をカメラの前でこれでもかとアピールすると満足げに踊り去りました。

 あの日、テレビが取り上げた東京マラソンは藤原選手の優勝とオリンピック代表選考の行方や春日さんや女子アナの方々などの“涙と感動”のフルマラソン完走でした。ところが元陸上部員でありながら不覚にも私は彼ら一般ランナーの事で頭が一杯。今でも忘れられません。考えてもみてください。同じ場所、時間で国の代表をかけて真剣勝負をする競技者と観光、テレビに映りたい、知人と駆け回りたい、宣伝したい、そのような目的の人たちがただ走るという共通点のみで大会を作り上げているのです。アスリートと共演しているのです。こんなことが可能なスポーツが他にあるでしょうか。これぞ“する”スポーツの新たな魅力であり、双方向のエンターテイメントとしてのスポーツの姿であり、地域を元気にするスポーツに他なりません。

 皆さん、来年は東京マラソンを見に行きませんか。友達をサポートしませんか。参加しませんか。いずれにしてもあなたなりのマラソンを楽しんでほしいと思います。


須川寛倫